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ボコボコとした泡の音、絶え間なく鳴り続ける機械音。 A型世代、世界最初に宇宙技術との融合を認められた一番最初の新人類と言えば聞こえはいいが、一番失敗例もできやすく、公では言われなかったが、まだまだ命の危険が不安定なモルモットだ。
そんな中で、俺は生き残った――――。
「成功ですよ……! 見事に融合した……!」
声を振るわせ、歓喜の声を上げる地球の科学者たち。
だが、宇宙人たちは渋い顔を浮かべさせた。
俺の受けた実験は、『マッハの速度を自分で放出させられる人間を作る』と言った内容のものだった。
実験後、身体に一切の損傷はなく、マッハを生み出す技術を無事に身体に取り入れられたのだ。
UT変異体 A型の完成例が、また広がるかと思われた。
「これは……失敗だな」
「どうしてですか……!? 身体には無事に、マッハのコアを埋め込めたんですぞ!?」
「確かにこの個体は、マッハの速度で動ける。でも、人の身体は、マッハに耐えきれないよね?」
致命的な、最先端技術とは笑わせてくれるようなミス。
人間での実験、宇宙コアとの融合、危険に危険が重なる実験の中で、それに耐え得る身体を作ることを懸念していた科学者たちは、俺を失敗作とした。
俺には人権が与えられ、ごく普通の生活に戻れるよう手配が受けられたが、少し走ろうとすれば、少し強く手を振るおうとすれば、マッハを超える。
マッハを超えるとどうなるか、吹き飛ぶのでも、皮がめくれるでもなく、”燃える”のだ。
風と皮膚が摩擦を起こし、大きな発火を起こす。
だから俺に人権が与えられたとて、俺が何かできるようになることは、元の生活に戻ることはなかった。
――
「ここで動かなきゃ、失敗作のままなんだよ……!!」
ロスタリアは、井筒団蔵の真上に飛び上がると、刀を振り上げる。
ボォウ!!!
「アイツ……炎を!? 能力か……!?」
「いや、アイツの能力は『瞬身』。瞬間的に身体をマッハ速度以上に上げる能力だ。その時の摩擦による発火で、あの様な火炎が発生する」
「マッハ速度……!? 凄ぇじゃねぇか!」
しかし、興奮する優とは打って変わって、鮪美は渋い顔を浮かべ続けていた。
「そう大層なモンじゃねぇ。アイツはA型世代のUT変異体で、あの速度は諸刃の剣なんだ……。アイツの宇宙武装はただ一つ。”重力を極限に増させる”というもの。自らの重力を上げることで、身体へ起こる異常をギリギリで防いでいる。そんなアイツを揶揄してか、世間はロスタリアをこう呼び出した。”瞬間のロストバーン”とな……」
「瞬間のロストバーン……一瞬の爆発……みたいなことか……こんなに凄ぇのに……」
ロスタリアの振り下ろした刀は、マッハを超える速度で振り下ろされ、その風圧と、発火による爆炎で、井筒団蔵は成す術なく落下していく。
「まずい……! あんな命の危機を感じさせるような攻撃しちゃったら、あのモンスターは問答無用で身体を乗っ取りに来るわよ!!」
ルリは汗混じりに声を上げ、優もその声に合わせて刀に手を当てるが、鮪美は二人を制した。
「民間人は下がっていろ」
「あのモンスターには核があるの! 核を的確に潰さない限り、また種子が離散して、さっきよりも数倍の犠牲者が出ることになる……!! 優だけじゃどうにもならなくなるのよ……!?」
落下してくる井筒団蔵と、今にも歯を剥き出して階下にいる者を乗っ取ろうとヨダレを滴らせる侵略者を前に、鮪美はニタリと笑う。
「好都合だ。これは、ロスからのパスなんだよ。副長の俺が受けねぇで、誰が受けるってんだ」
「そんな綺麗事だけじゃ守れないものもあるんだよ!!」
「俺が失敗すれば、待っているのは死。その上、核を潰さなければ、待っているのは地獄と来た……」
「そう……分かっているなら……!」
しかし、焦るルリを止めたのは、優だった。
「優……!?」
「俺は刀を握ってまだ間もないけど、なんとなく分かる。アイツの……決意みてぇなモンが……。最悪、ヤベェ時は俺が全部燃やせるし、今は見ておこうぜ」
そうして、優はルリを連れて少し退いた。
「蒼炎……お前、いい奴だな。恩に切るぜ……」
スッ……
鮪美は、ゆっくりと構えを取ると、重心を落とし、鞘の先は頭の上にまで仰け反らせていた。
「頼みますぜ、副長……」
「死線抜刀……”無月”」
キィン…………!!
次の瞬間、鮪美の刀身は綺麗に上空を向いており、鞘から引き抜かれた金属音のみが響き渡る。
「やった……のか……?」
一直線に斬られた侵略者は、降り落ちた瞬間から全く動かなくなり、飛散している様子もなかった。
鮪美は、何も言わず静かに刀を鞘に収めた。
ゆっくりと井筒団蔵の心臓に手を当てると、一人の隊士に指示を出し、身柄を搬送させた。
そして、ロスタリアと共にゆっくりと優たちに近付く。
「今回は礼を言う。だが、コスプレ女に蒼炎の剣士、お前たちも侵略者と同様に未知が過ぎる。今回は見逃すが、次はお前たちも屯所送りにする」
そう言い残すと、鮪美は静かに背を向けた。
ロスタリアはボーッと優たちを眺める。
「鮪美さんに認められてる剣士かぁ。気になるっスけど、井筒も生きてるみたいなんで、これから少し忙しくなりそうですね。まあ、目標はオールクリアなんで、そこは助かったんスけど……」
そう言いながら、鋭い目で優を見つめる。
「次は俺と一戦、どうっスか? ふふっ、冗談っスよ。私闘は罰せられちゃうんで。まあ何かあったら……お互い手加減は無し……っつーことで、よろしく頼みます」
そうして、ロスタリアもまた、去って行った。
優は、後片付けを急ぐ刑務局と特殊部隊の様子を、何も言わずにただ眺めていた。
「優……?」
「なんつーか、今回の『人と侵略者の未知の脅威』もそうなんだけど……強い奴ってゴロゴロいるモンだな……。俺たちはこれから、こう言う奴らと戦っていくんだな……」
「魔王の息子が、まさか弱腰になってんの?」
「いいや……」
優は、自然と笑みが溢れていた。
「早く戦ってみたい……! 強い奴らと……!」
そんな優を見て、ルリは何を思ったのだろうか。
「ところで、どうして優はあんな救命状態から、ここにテレポートする流れになったの?」
「ああ、救急搬送されて、手当て受けて、少し休んだら回復したんだけど、随分離れちゃったし、民間人は行かせられねぇって言われて手こずってたら、雅が来たんだ」
「テレポートの子?」
「そうそう。俺もよくわからないんだけど、『一番隊隊長の指示により、優を戦地へ送る』とかなんとか……。俺を戦場に戻す指示を受けたとか言ってたかな」
「UT特殊部隊の一番隊隊長が……優を……?」
募る疑問が増える中、一先ずの家路を急ぐ。
そんなビルの屋上には、二人の男の影が暗躍する。
「やあ、遅かったじゃないか」
コツコツ……と、足音を隠すこともなく、その男はもう一人の男、この戦いを悠々と眺めていた男の背後に立つ。
「久しぶりだね、UT特殊部隊 総隊長 ビアンカくん」
「ふふ、久しぶりですね、鮫島さん」
「とっ捕まえなくていいのかい? 僕はこれでも、第一級犯罪者……何よりも最初に捕えるべきでは?」
「そうしたいのは山々ですが、今、私と君が争えば、ここら一体は更地と化すでしょうし、私の部下たちも、ほとんどが死んでしまいますから。それよりも、今回の余興は楽しめたんですか? 新しい兵隊さん?」
「あははっ! あんな弱っちいの、僕の兵隊には要らないよ! 実験は上手くできたけどね。アイツは失敗作さ。あんな棒を持っただけの猿二匹にやられるんだから」
「ふふ、私としては、刑務局の方々は、あまり舐めない方がいい……と、忠告まで」
「へぇ……ビアンカくんが認めるんだね。なら、もっともっと、面白くなりそうだ……。蒼炎も含めて……ね」
そう告げると、音もなく鮫島は消え去った。
――
◆UT刑務局
鮪美・B・斗真(副長)
能力:死線
死線を感じた時のみ能力を発動。死線の能力と抜刀術を融合させた『無月』という技がある。
ロスタリア・A・バーニス(特攻隊長)
能力:瞬身
瞬間的にマッハ速度で行動可能。しかし、宇宙武装があっても尚、自身へのダメージが起こり得る可能性がある諸刃の剣。そんな戦い方から、付いた異名は”瞬間のロストバーン”。