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第64話 〚花火の終わり、始まる現実〛
――ドン。
最後の一発が、夜空を白く染めた。
歓声が、少し遅れて波のように押し寄せる。
拍手。笑い声。写真を撮る音。
花火大会は、終わった。
「……終わっちゃったね」
みさとの言葉に、
えまが「一瞬だったな」と肩をすくめる。
しおりは、静かに澪を見る。
「でも……今日は、忘れられない日になったと思う」
澪は、花火の消えた空を見上げていた。
光はもう残っていないのに、
胸の奥だけが、まだ温かい。
「……うん」
その隣で、
海翔は澪から少しだけ距離を取って立っていた。
さっきまでの人混み、
走ったこと、
手を繋いだこと。
全部が現実なのに、
夢の延長みたいで。
「そろそろ帰ろうか」
玲央が言う。
「だな」
えまが頷く。
「遅くなると面倒だし」
それぞれ、
帰る方向が違うことを確認して、
自然と解散の流れになった。
「澪」
しおりが、少しだけ真剣な顔で言う。
「何かあったら、すぐ言ってね」
「一人で抱えんなよ?」
えまも、短く付け足す。
澪は、ちゃんと目を見て頷いた。
「……ありがとう」
みさとが最後に、
にっと笑って言う。
「今日は“守られた日”だね」
その言葉に、
澪は少しだけ照れた。
仲間たちと、玲央が去っていく。
残ったのは、
澪と海翔、二人。
さっきより静かな道。
遠くで、屋台を片付ける音だけが聞こえる。
「……送るよ」
海翔が言った。
澪は、頷く。
二人で歩き出すと、
さっきまでの出来事が、
少しずつ現実として胸に落ちてくる。
(楽しかった)
(でも……)
澪の心に、
小さな影が差した。
――今日、確かに誰かがいた。
――確かに、狙われていた。
予知は、
今は何も見せてこない。
頭も痛くない。
それなのに――
「……澪?」
海翔が、気づいたように声をかける。
「大丈夫だよ」
澪は、少しだけ笑った。
でも、
その笑顔の裏で、思っていた。
(花火は終わった)
(でも――)
(現実は、ここからなんだ)
夜道を照らす街灯の下、
二人の影は、並んで伸びていた。
それは確かに、
“前に進んでいる”証だった。
――けれど同時に、
新しい何かが、
静かに始まった気もしていた。
花火の余韻が消えたあと、
残ったのは、
逃げられない“日常”。
その入口に、
澪と海翔は、並んで立っていた。