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リリアンナから少し離れた部屋の隅。
セイレンは一度だけランディリックの瞳を見つめると、深く一礼した。
「旦那様」
一呼吸置き、静かに告げる。
「お嬢様は、ご懐妊なさっております」
その一言に、ランディリックは何も言わなかった。
ただ、その紫水晶の瞳がわずかに揺れる。
「命芽草は確かに花開きました。お身体の変化とも一致しております」
セイレンは穏やかな声で続ける。
「まだごく初期ではありますが、間違いございません」
「……そうか」
短い返事だった。
けれど、その声音はどこか震えているようにも聞こえた。
「ですが、初期は何より大切な時期にございます。どうかご無理だけはなさいませぬよう。城中にも、安定するまでは口外なさらぬことをお勧めいたします」
ランディリックは静かに頷いた。
「ああ。そうしよう。ありがとう、セイレン」
それ以上の言葉はなかった。
けれど、その声音へ滲む安堵は、長く彼を見てきたセイレンには十分伝わっていた。
ランディリックはゆっくりとリリアンナのもとへ戻る。
「ランディ……?」
不安そうに見上げるリリアンナへ、彼は寝台の傍らへ膝をついた。
そして、その手をそっと包み込む。
「リリー」
呼ぶ声は穏やかだった。
「セイレン医師によると……キミのお腹に、新しい命が宿っているそうだ」
ランディリックの言葉を聞いた瞬間、リリアンナはきょとんと目を瞬かせた。
「……え?」
理解が追いつかない。
新しい命。
その言葉の意味を頭の中で何度も繰り返して――ようやく、自分の腹部へそっと手を添えた。
「私が……?」
震える声が漏れる。
「ランディとの……赤ちゃんを……?」
ランディリックは何も言わず、ただ静かに頷いた。
その瞬間だった。
「……やはり」
小さく呟いたのはブリジットだった。
侍女頭らしく感情を抑えてはいたものの、その瞳はうっすらと潤んでいる。
「おめでとうございます、お嬢様」
続けてナディエルが、ぱっと花が咲くような笑みを浮かべる。
「本当に……本当に、おめでとうございます!」
思わず一歩踏み出しかけた、その時だった。
「ナディエル」
静かな……だが抗いがたい声が掛かる。
ランディリックだった。
ナディエルはハッと我に返り、慌てて足を止める。
ランディリックは責めるような口調ではなく、穏やかに微笑んだ。
「気持ちは僕も同じだ。だが、まだリリーの身体を第一に考えねばならん」
言外に〝あまり騒がせるな〟という思いが込められていることを悟り、
「……申し訳ございません」
ナディエルは頬を赤らめ、深く頭を下げた。
それでも隠しきれない喜びは、その表情いっぱいにあふれていた。
コメント
2件
リリアンナ、ランディード、おめでとう!!
いやあ、もう第229話でこのタイミングか! リリアンナの妊娠発覚、めちゃくちゃ胸熱だったわ。セイレンの静かな報告から、ランディリックの「そうか」の一言に震えが混じってる感じとか、リリアンナが「理解が追いつかない」って茫然とするのもリアルで良い。ブリジットとナディエルの喜びも素敵だったけど、ランディリックが「リリーの身体を第一に」って冷静になるところがまた王族らしくてカッコいいよ🔥 この知らせが物語をどう動かすのか、もう続きが待ちきれない!