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ぱしゃり。
桃色の蛍光で光る建物から出てくる、久我晃一と高月玲奈。その姿をレンズが捉えた。
「……残念です、先輩」
ため息を零すように呟く。液晶には二人の顔がわかるほどに、見事な絵があった。そう、それは浮気の証拠として十分すぎるほどに。
風が吹く。既に西の空にしか星が見えない。袖を捲って確認すると、時計の針は四時を回っていた。東雲弦は振り向き、朝焼けの光を眺める。朝の光が徐々に闇を喰らっていく様子は、見ていて爽快であった。このために、こんな時間まで起きていたのかもしれない。
「はいはーい。本日の動画はここまで。良ければチャンネル登録、高評価をよろしくお願いしまーす。ばいばいっ!」
スタンドで固定されたスマートフォンに向け、しばらく笑顔を送りながら手を振る。十秒ほど経ったあたりで画面に触れ、大きく息を吸った。それだけで、その瞳は先刻までとは違う。太陽のような明るさも優しさもない。冷酷で美しい、獲物を観察する白虎のような気高さがそこにはあった。
女はスマートフォンを取り出す。通知が二つ。『お弁当ありがとう。美味しかった。』夫からのいつもの連絡があった。彼は律儀で誠実なところがあるので、毎日こうやって昼食の時間にはメッセージを送ってくる。だが、女は笑わなかった。
今日はお弁当なんて作っているはずもない。昨日から、彼は帰ってきていないのだから当然だ。それなのに、こうしてメッセージを送ってきたのだから、初めから彼は私の作った弁当など食べてすらいなかったのだろう。
もう一つの通知を開く。女はため息を零すと、ハンカチで涙を拭った。怒りよりも、ただ悲しかった。先ほどの事で既にわかってはいたが。彼の真実の愛が向けられている対象がいたという事実が苦しかった。
私がこれほどまでに愛し、支えてきた相手は、私の事など愛してはいなかったのだ。女は飾られた写真を見つめる。久我晃一と誉田美蘭の写真。他に誰もいない二人だけの写真。
あの頃の幸せはもう……。思わず視線を落とす。女は立ち上がり、椅子も元の位置に直さず、強く扉を開いて歩いていく。その先に何があるか。
無論、不幸。否、真実。
「私はもう、あなたを許せない」
振り返る事も無く、女は進む。部屋に残されたスマートフォンにあったのは、女といる夫の姿。久我美蘭。彼女は今一人だ。だが、その正義感は決して夫、いや久我晃一を許しはしない。ならばこの瞬間、ある未来は確定したと言えよう。
復讐は既に。