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二人の視線の先を見ると、何かが落ちてきているのが、俺も確認できた。
「やばい!ふせろー!」
「「!!」」
二人に大声で指示を飛ばす!が……
ドゴーーーンッ
爆音の後、砂煙が辺りを包んだ。
「くそっ。さっきのアローが消えないから変だと思っていたけど…」
どうやら魔法は世界に干渉した後、現実に変わるようだ。
つまり、精製した物質は質量を伴う。火魔法なら延焼すれば消火しなければ消えない。
現状、この推測に誤りはないはずだ。そんなことより……
二人は…?
「おい!無事かっ!?」
俺は倒れている二人に駆け寄り、焦って声を掛けた。
「うわー。ビックリした!」
「無事です。凄いですね…」
「すまん。油断してた。発動場所が近すぎたようだな」
そう。この魔法は、多分ある程度離れた所に撃つんだろうな。
「まぁ、怪我もないし結果オーライだよ!私は遠くに撃つから安心してね」
しかし、この惨状だぞ?
落下地点は陥没して氷が砕けている。
氷自体は10メートル四方はありそうだ。水の重さだと10トンということになる……
「まあ、一度だけな」
「うん!」
結果は・・・・・
「何で…」
発動しなかった。聖奈さんのテンションは駄々下がりだ。
「大丈夫ですよ。私なんて初級だけですし、セーナさんはよく頑張られました」
だから……
しかし、ミランの言っていることは通じないだろうな。
聖奈さんは過程より結果が大切な人だ。特に異世界に関する事では。
「聖奈。もしかしたら、杖とか補助道具が有れば、使える様になるかもしれないぞ?」
俺はテキトーなことをいった。
「っ!!そうだね!よーし!お金貯めて買うぞー」
やばい…これでなかったら……
その時はどうしようもないので、俺は現実へと戻る。
「まあ、今はこの氷をどうするか、だな」
まだ解けるどころか変化がない。
大きすぎなんだよ……
「このままでいいでしょ?その為に誰も来ない場所を選んだんだし」
「そうですよ。それに暑いので近くで涼みませんか?」
女子二人は気にすることもなく、氷のそばで涼をとる。
「あっ!そうだ!昨日、魔導書を改めて見て思ったんだけど、特殊欄に書いてあった転移の魔法を、セイくん試してみない?」
「いや、失敗したらどうするんだ?壁に挟まって一生を過ごすなんて嫌だぞ?」
俺も氷で涼みながら反論した。
「でも、そのページにはそんな失敗は無いらしいよ。失敗は海の上に落ちたり、活火山の溶岩に落ちたりして死ぬことはあっても、発動では死なないみたいだよ?」
嫌だよ、その死に方……
「流石に元の世界には転移出来ないと思うけど、転移魔法が使えたら遠い場所に冒険に行っても、会社もリゴルドーも大丈夫になるよ?」
…ずるいよ。
馬に人参ぶら下げないでよ……
俺の場合は酒か……
「わかった。どれくらいの距離までかは試せないが、とりあえず少し離れて二人のところに転移してみる」
俺は覚悟を決めて、二人から離れた。
二人が胡麻粒くらいになったところで、転移魔法を試すことに。
魔導書を開き詠唱に入る。
今回は一番長く、3分は詠唱した。
戦闘では使えないな。
『テレポート』
一瞬で視界が切り替わる。
「凄い!一瞬で来たよ!」
俺はその声に導かれ、怖くて閉じていた目を開けた。
「成功か?」
「素晴らしいですね。次は他の人も運べるか試してみますか?」
確かに魔導書には、物や人も一緒に運べると書いてある。消費魔力が変わるみたいだ。
今のところ、今日使った魔法では魔力の消費は感じていない。
それくらい俺の魔力量からしたら微々たるものみたいだな。
ちなみに魔力は自然回復するしか無いが、魔力量が多いほど回復も早いみたいだな。
つまり割合での回復だ。1割の回復速度は魔力量に関係ないということだ。
全回復には約10時間かかるので、1割は1時間だな。
「はいはーい!わたしを先に試して!転移には慣れてるから!」
至極真っ当な意見に聞こえるが、ただ単にしたいだけだろう。
「すみませんが三人で行いませんか?
どうせ実際の旅で転移する時は三人なわけですから、それなら初めからそうするのがいいかと」
これが本当に真っ当な意見だ。
「じゃあ、飛ぶぞ」
「うん!その言い方だと空を飛ぶみたいだね!」
「あ、あの手を…」
ミランは怖いみたいだな。お兄ちゃんに任せろ!
長い詠唱を終えて、最後の言葉を紡ぐ。
『テレポート』
一瞬で景色が変わった。
「凄いです…」
「いつもの転移より、タイムラグがある感じだね」
聖奈さん。天才肌である貴女の感覚は凡人にはわかりません。
「よーし、次は街までね!」
「いや、ダメだろ。家に転移出来ても戻れなかったら馬車をどうすんだよ」
「そうだった…」
「では、セイさんだけでもしてみてはどうでしょう?
見えない所に転移することが出来れば、旅に使えますよ。もちろん転移出来る距離の問題は不透明ですけど」
俺たちのリーダーの言うことだ。もちろん二つ返事で転移した。
シュンッ
「おかえり!どうだった?家には帰れた?」
「おかえりなさい」
二人に迎えられた俺は、結果を伝える。
「成功だ。魔力の消費も感じられないから、まだまだ遠くても大丈夫だろう」
魔導書にも長距離転移と記載があった。確かにこの詠唱の長さで短距離なら、走ったほうが速い。
長距離の移動に特化した詠唱なんだろう。
文字は読めるし魔法陣も読めるが、詠唱の組み合わせはよくわからん。
わかれば簡単に魔法が作れそうなのにな。
馬車まで戻った時に、聖奈さんに馬車ごと転移しようと言われたが、ここでも反論した。
「馬や車輪にもしもの事があれば、どうするんだ?」
「発言を撤回します!」
敬礼をとった聖奈さん。段々幼児退行してないか?
「旅で転移する時には、馬車は預けておきましょう」
すぐに解決策を考えてくれる我らがリーダー。
俺達は街へ帰った。
夕方になり月が見えてきたので、三人で武装して、歩いて街を出た。
目的地は工房だ。
工房にたどり着いた俺と聖奈さんは、地球に転移して会社へと向かうことに。
「じゃあ、家具を持ってくるよ」
「うん。私は他の仕事をするね」
俺は工房から出来上がっている家具を持ってくる。聖奈さんは会社の管理を。
ちなみに武装はマンションで着替えている。
会社にも異世界用・地球用の、予備の着替えがあったりもする。
俺の給料はまだ会社が創立一月経っていないため、辞退した。
バイトさんは時給。聖奈さんには日割りで払っているらしい。
社長だがその辺もしらない。
俺の給料は親父に伝えた100万円らしいが、どう考えても今の会社の利益じゃ無理だと思うんだが……
まあ、聖奈さんがその内どうにかしてくれるだろう。
聖奈さんが話をつけた職人さん達の家具もバーンさんの工房にあり、中々の数の家具を運び終えて用事も済ませた俺達は、帰路に就いた。
「これは初めて食べる味ですが美味しいですね!
冷たくて夏の夜に合います!」
工房で待たせていたミランに、お土産のスイカバーを与えた。
行儀は悪いが溶けてしまうので、街まで歩きながら食べてもらった。
「こんなに美味しいモノが沢山あるのに、こちらの世界の方がセイさん達には良いのですよね?」
中々核心を突いてきたな。
「そうだな。ミランから見た俺達異世界人は、生活に窮屈さを感じているんだ。
だから俺や聖奈は、この世界に夢を見ているんだ」
多分合っているだろう。別に特段不満があるわけではない。
「そうでしたか。私もセイさん達の世界が気になるので、そのような感じなのかも知れないですね」
街に着き、家に帰って、今日は地球産の焼肉だ。
ミランは育ち盛りなんだから、沢山食べろよ。
翌日の夕方はガラス窓を取りに転移した。注文していた窓がついに出来たのだ。ちなみに入り口の扉の鍵はすでに地球産のものに取り替えている。
戻ってきた俺は、作業を開始した。
「何か手伝えることはありますか?」
「じゃあ、木窓を外していってもらえるか?」
家の中は灯りの魔道具で明るいが、窓際は自前のライトの生活魔法で視界を確保している。
ミランが外してくれた元木窓があった開口部に、サッシなどを準備した。
そして、充電式のインパクトドライバーでサッシを取り付けていく。
充電さえ出来れば電気を使えるので、お金が貯まれば太陽光発電の設備をこちらに輸入してこようと考えているが、まだ先の話だ。
窓は出来うる限り頑丈なモノを注文したが…果たして防犯上はどうなんだろうな?
もう少し月が夜中まであれば、物置を裏庭に持ってこようと考えている。
すでに注文済みだが、金属の箱は目立つから周りに木を貼り付ける作業も必要だ。
円をかなり使ってしまったので、明日は金策に費やしそうだな。
翌日。簡単に金策が出来るところへ三人で向かった。
「いらっしゃいませ!お久しぶりです。サファイアですね?」
例の美人店員さんが食い気味に挨拶をしてきた。
「ええ。サファイアをある分は全部出してください」
大きく出たが、俺は金持ちだ!円はないがギルはある!
家を買ってからも毎日砂糖は売れているからな。
奥から出てきた店員さんが持つ布の中から、サファイアが沢山出てきた。
「うわぁ。綺麗だね!」
「そうですね!サファイアでもここまであると見映えがいいですね!」
ミランはサファイアが大した石ではないという価値観だ。
「二人とも、欲しいモノがあればサファイアに限らず買うぞ?」
富豪のセリフだ。
俺が言うと、どうしようもない男のセリフに聞こえるのはなんでだ?
「もう!セイくんは乙女心がわからないんだから!」
「そうですよ。女性に買うのなら、男性が選ばなくてはダメですよ?」
金だけ出せばいいのではないのか……年齢イコールにはレベルが高いな……
「じゃあ、セイくんは私達への贈り物を選んでね!私とミランちゃんは店員さんとお話してるから」
くそっ!余計なことを言うんじゃなかったぜ!
仕方ない。物色するか。
「おっ!これなんか聖奈さんに似合いそうなネックレスだな!」
シルバーのチェーンに小粒のダイヤモンドらしき石が付いている。
「これはミランに似合いそうだな」
ミランの髪と同じ色のゴールドのブレスレットだ。
地球とは違って18kとか24kとは書かれていないが、サイズにしては重たく感じるから金で間違いないだろう。
2人への贈り物を選んだ俺は、金策とは別にこちらも買うことにした。
「ありがとう!セイくん!大好き!」
いや…聖奈さんがそう言うと、パパ活してるみたいで…なんか…イヤ……
「私にもありがとうございます!初めてのアクセサリーで初めての贈り物です。
大切にしますね」
こちらは年相応の喜びと、お淑やかなお礼……
誕プレくらいの気持ちだったんだけど…何故か聖奈さんよりミランの反応に異性を感じるな。
でも、最近は変な遠慮がなくなって接しやすくなってきた。良いことだ。
ちなみに聖奈さん達が選んだ金策品は全部で5,000,000ギル分だ。
サファイア600,000ギルに、他の宝石を4,400,000ギル分だ。
俺は支払いしかしていないが、こんなにキリが良いわけがない。多分値切っていたんだろうな。
ありがてぇ。
俺達はこの日は冒険者活動を休みにし、街を散策して過ごした。
夕方までは。