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「この人、彼氏じゃないよ」


「じゃあ、お客さん?」


 春人が彼女の肩に手を回す。


「お客さん!」


「じゃあ、たまに店にも来るの?」


「お店には来ないかなー」


 彼女はどうにかして話をはぐらかそうとしている。


「優亜に投資してくれる人だよ!」


「投資?」


 聞こえはいいけどな。


「そう。優亜がキャッチされてるところを助けてくれて、知り合った。それで仲良くなったんだけど、なんか優しくしたらその気になっちゃって。向こうは彼氏だと思ってる。でも、こういうことされると本当に迷惑。SNSにあげるとか」


 かなりご機嫌が悪いのか、足を組みだした。


「そっか。じゃあ、向こうの勘違いなんだ?」


「当たり前じゃん。こんなカッコ良くもない、おじさん」


 やっぱり騙されているのか。あの男。


「じゃあさ、もうはっきり関係辞められる?俺、優亜ちゃんのこと真剣なんだ。だからもう寄り付かないように説得するよ。ダメかな?」


 真剣という言葉に反応を示したが、うーんと悩み

「本当?でも優亜、お金ないし。正直、このおじさんからの投資がなくなると、困るの」


 やっぱり金か。


「投資ってどのくらいもらっているの?」


「会うたびにもらっているわけじゃないよ!優亜もそんなに鬼じゃないし。困ったらもらってる。この人、優亜のことならなんでも聞いてくれるし!」


 こんな女のどこがいいのだろう。

 仕事で評価をするのであれば、客に対しての気遣いがない。半分以下になっているグラスに気づかない、グラスは水滴で濡れている。姿勢は悪い。感情がすぐ顔に出る。人気のキャバ嬢になるなんて、今のままでは無理だろう。

 

 そんなことを考えていると、彼女が思い出したかのようにフフっと笑った。


「どうかしたの?」


「この人でマジ引いたのが、三年?だっけな?付き合ってた彼女との記念日をすっぽかして、優亜と会ってたこと。しかもその日、彼女の前で告られたの。俺の好きな人は優亜ちゃんだー!!って。彼女に、お前は優亜ちゃんみたいに可愛くないし、女としての魅力を感じないんだー!!って言ってて。面白かった」


 アハハと光景を思い出したように彼女は笑い声をあげた。

 

 元彼とこの女に苛立ちを感じ、自分の感情を抑えようと手をギュっと握る。


「まあ、あんなおばさんと比べないでほしいって思ったけど」


「それで、どうなったの?」


 俺が彼女に問いかけた。


「別れたよ。おばさんが合鍵をこの人に投げつけて。あれは地味に笑えた。まっ、それでさらに勘違いをしちゃったみたいで困るー。でもその後、二百万ちょっと貰えたからいいかって思った」


 それが葵が元彼に渡して貯めていた金か。

 「まあ、二百万くらいじゃすぐ終わっちゃうんだけどね。お兄さんたちだって同じ世界で働いてるんだからわかるでしょ?二百万なんて大した金額じゃないこと?」


 ああ、ヤバい。イライラする。

 

 そんな俺の様子を見て

「そんなことないよー。二百万を稼ぐのはすごく大変だよ!ね、それよりさ、その人、呼び出せる?」

 春人が間に入ってくれた。


「優亜が来てって言えば、すぐ来るけど」


「じゃあさ、君の今日の給料は俺が出すよ?んで、俺と付き合ってくれたら、もちろんいろんな物プレゼントしてあげる。お金に困ったら俺が渡すよ。どうかな?」

 

 春人、そんな話に引っかかるほど甘くはないと思う。今日は、帰ろうと伝えようとした。


 その時

「えー!!いいよ。付き合おう!」

 簡単に話がまとまった。


 嘘だろ?


「よしっ!決まり!俺たち外で待っているから、帰る準備してきて。具合が悪くなったとか言ってさ。それで、そいつだけ呼び出して?」


「うん!わかった」


 働かなくていいと言われ、相当嬉しかったのか彼女は笑顔だ。



 一旦、俺たちは店から出た。

 そして今、店の近くで彼女を待っている。


「こんな上手い話があるか?それに、あそこまで演じてもらって悪かったな」


 はぁとため息が出る。


「流星、途中からめっちゃキレてるんだもん。いつ暴れるかと思ってヒヤヒヤしちゃってさ。俺じゃ抑えられないし。早く終わらせちゃえーって思って、適当なこと言ったら、結果は大成功ってやつ?俺、すごくない?あと、流星が仮にあの子に触れたら、葵ちゃん悲しむかなって思って。俺があの子の彼氏役になった!俺って優しいー!!」


 もっと褒めてよ?と春人は言う。


 いや、本当に来るのか。

 その場しのぎって可能性も―?


「お待たせ―!」


 彼女は短いワンピース姿の普段着に着替え、手を振って歩いてきた。俺はある意味、言葉を失った。


「近くのカフェに呼び出したよ。なんか意外と近くにいるって言ってたから、もうすぐ来ると思う」


「じゃ、行こうか?」


 春人は彼女に手を差し出す。


「うん」


 二人は手を繋いで歩いている。

 俺はその後ろを歩く。

 なんだよ、これ?今日、俺は何もしてない。


 はぁ、春人になんか奢んないとな。

 カフェの前で彼女と葵の元彼が来るのを待った。


 しばらくすると、スーツ姿の一人の男がこちらに歩いてくる。

 あいつか。写真で見たやつだ。

 彼女に気づいたみたいだが、隣で立っている春人を見て、怪訝な顔をした。


「優亜ちゃん、どうしたの?いきなり来てって。その人だれ?」


「ごめん、尊さん。私、この人と付き合うことになったの」


 その言葉を聞いて、男は顔色が変わる。


「えっ。どういうこと?俺たちまだ付き合ったばかりだよね!?」


 なんだ、こいつ。すでにもう泣きそうだ。

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