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薄い天井の染みを睨んでいるようで、何も見ていなかった。蓮司の体温が背後にあって、息が耳を撫でても、遥はもう何も感じていなかった。


痛みも、熱も、汚れも──全部、慣れた。

“慣れる”ことが、いちばんの地獄だと思った。


どれだけ息が詰まっても、呼吸の仕方を思い出してしまう。

どれだけ壊れたくても、壊れ方を体が覚えてしまっている。


「……ねぇ遥、泣いてんの?」


蓮司が首筋に唇を押し当てて、笑った。

「ほんと器用だよね、おまえ。どっちもできるんだもん。

壊れてるふりして、ちゃんと応える。──なにが本音?」


遥は、喉の奥で何かがつっかえていた。

出てくるのは言葉じゃなかった。ただ、自己嫌悪だけが全身を埋め尽くしていた。


“気持ちよくなんて、なるはずがない”

“でも、反応した。それが、証拠”


「……ほんとに壊れてんの、誰?」


蓮司の問いに、遥は何も答えなかった。答えたくなかったんじゃない。

もう、答えるための“自分”が残ってなかっただけだった。


頭の中に浮かぶのは日下部の顔だった。

優しかった。ちゃんと、見ようとしてくれていた。

でも、それが怖かった。

あんな目で見られて、何も言えない自分が、いちばんの加害者だと思った。


“欲しかった”

“でも欲しがった時点で、それは相手を利用することになる”


“壊すのは、いつだって自分だ”


「なあ遥──ほんとに好きなの、日下部?」


蓮司の声が、ゆっくりと頭の中に染み込んでくる。

まるで、自分の胸の奥に手を突っ込まれて、引きずり出されるみたいに。


「俺には一度も見せなかった顔、あいつに見せてたよね? ……笑ってた。

あんな声、おれ、聞いたことない」


遥の体が、びくりと震えた。

何かが限界を越えた音が、自分の内側で鳴った気がした。


「おまえ、勘違いしてんだよ。

“誰かを想うこと”と、“誰かに抱かれること”、同じじゃねぇから。

おまえがどっち選んだか、もう分かってるでしょ?」


──違う。

そう言いたかった。叫びたかった。

けれど、喉から漏れたのは、くしゃっと潰れた息だけだった。


「そろそろさ……壊れてみせてよ。ちゃんと。

今のおまえじゃ、俺、飽きる」


その一言に、遥の視界が白く霞んだ。

ようやく“感情”が、感情として爆ぜそうになった。


怒りか、絶望か、悲鳴か。

それさえ、遥にはもう分からなかった。


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