「で、王都から北の街なんて、どうしていくんだよ。こっちの方が依頼が多いだろ?」
「あ? まあ、それはそうなんだけど。今回も依頼だ。あっちの領主様が依頼を出したんだよ。迷宮探索に特化してるか、慣れてる冒険者求む! ってね。依頼料が高いこともあるけど、北の方の隣国だっけ。そっちのダンジョンは行ったことがなかったからな。それで受けたって事だ。今日戻って来たら出てた。ナイスタイミングだろ?」
迷宮探索か。
たぶん、ミノタウロスとオークの出てきた洞窟の先を探したいんだろうけど、どうなんだろね。
『ねえ、ナギ。お肉が欲しい。オーク煮込みとステーキ十枚』
わかったよ、とウエイトレスさんに手を上げて注文した。
すげぇ、と聞こえたのはメルトだ。
俺の前には熱々のグラタンが置かれたので、さっそくふーふー開始だ。実は猫舌なんだよね。転生しても変わらないことの一つです。
「そんな依頼があるのか。街でも出るのかギルマス」
「当然だ。既に依頼は出てるけど、街の冒険者だけじゃ無理だ。だから昨日、こっちで依頼を出した。ただ『蒼い翼』とピット、ショルダーは強制依頼になるぞ。当然だが、ナギとフラットもな。今回はフラットにも依頼料が出るそうだ。代わりに肉でもいいそうだが」
『肉がいいー!』
フラットは肉がいいって。
ぶふぉっと吹き出したのはギルマスだ。
「領主様はまだ戻らないの?」
「ああ。明日も陛下と王都ギルマスとこれからのことを決めるらしい。迷宮探索に向かうなら、現地まで移動することになる。それを現地集合にするかギルド出発にするかも決まってない。とりあえず、街のギルドに期日までに集合だな。王都ギルドで精査した冒険者が集まるから、かなりの猛者が来ると思う。他国の冒険者は受けられない依頼だから、人数は多くないはずだ」
なるほど。
「じゃあ、馬で戻る?」
そうなるな。
「メルトは?」
「俺も馬だ。いい馬だ、俺の相棒だからな」
ふうん、馬なんだね。じゃ、空は飛べないや。
「ナギは馬じゃないのか?」
「うん。僕はフラットの背中だよ。本当のフラットはでっかいから、乗せてくれるんだ。今の姿でも乗せてくれるんだけど、距離が長いと大変でしょ?」
でっかくなるのか? とフラットに話しかけてる。メルトを受け入れてるけど、悪いやつじゃないのかもね。
「なら、俺も同行させてくれよ。二人より三人の方が安全だろ?」
じっとメルトを見ているギルマスは鑑定しているんだろうね。
「鑑定したか? で、俺はどうだ?」
「まあ、悔しいけど問題ない」
悔しいけどって、と苦笑いだ。
「風当たりは強いと思うよ、メルト。私はミミカ。魔法使いよ。このマックスとそっちのショルダー、そしてギルマスはナギの親衛隊だから。手を出したら殺されるよ」
「あははは、そういうことか。じゃ、俺は親衛隊じゃなくて恋人候補に加えてもらおう」
恋人って……
「なっ! お前、新参者のくせに偉そうに!」
あはは、マックスさんがキレた。
「新参者だからだよ。あんたらの親衛隊に入れば、身動き取れそうにないからな」
身動き?
「それでも歳が離れてるだろうよ。離れすぎだぞ!」
「そうか? お前歳は」
「お前じゃない、マックスだ。俺は二十六だ」
「じゃあ、そっちのがショルダーか。歳は?」
「俺は二十二歳だ!」
自慢するとこ、そこなの?
「うん、俺の勝ちだな」
なんだと!?
「俺は十六になったばかりだ。一番歳が近いだろ!」
近いって。倍以上だよ、あんたも。十歳違うんだよ。あ、でも九歳か、俺はもうすぐ七歳になるから。
「お前、十六だと? 嘘だ!」
顔は童顔だなって思ってたけど、十六だったとは。
「それだけの身体して、いったいいつから冒険者やってんだよ!」
「うーん、登録したのは十二歳だ。実際に魔物を狩ってたのはガキの頃からだな。さすがに三歳じゃなかったけど。村の子供は親と一緒に魔物を狩りながら覚えていくんだよ。俺の親父は狩人だった。だから狩った魔物を売って暮らしてた。でも、俺は冒険者になると決めてた」
そうなんだ。それで強いんだね。
皆納得したらしい。
想像できなかったんだろうね、このキャラからは。
「わかった、お前の生い立ちを聞いてそのランクに納得だ。うちのギルドには、マックスがSランクに昇格したばかり。だからお前には今回のことを頼みたい」
ギルマスは真剣だ。メルトが来ることでいい刺激になればいいけどね。
「まかせとけ」
そう言い、結局飲み始めたじゃないか!
そんなやつらは無視して、食べまくる俺とフラットは、ミミカさんたちとデザートを味わっている。
『フラット、明日は戻るって。馬だから二日くらいだろうけど、またお願いね』
『うん。少しは早く走れそうだね。早く戻ってお風呂に入りたいよ』
『それ、賛成! ストーブつけてのんびりしたいよね』
『そっちも賛成!』
あはははと二人で会話しながら美味しいお菓子を食べた。
その後は、いつも通り子供は寝る時間だと食堂を抜け出した。
早朝、食堂で王都最後の朝ご飯を食べる。
大盛りプレート二つ頼んで、フラットは別のご飯もガツガツ食べた。俺は充分だったけど。
「ナギ、荷物頼めるか?」
いいよ、とアイテムボックスへ入れる。
「なんだ? お前空間収納使えるのか?」
うん。
「一緒に入れようか? よく出し入れするものは持っててね」
頼む、と大きな荷物を押し出してくる。デカくね?
いいよ、と荷物を収納した。
「気をつけてね、ナギ」
ギルマス、ナギを頼みます、すぐに追いつくよ、待っててね、ご無事でなどなど……
皆に笑顔で送り出されて、フラットの背に乗った俺は手を振った。
椅子をつけたときには、これはなんだと煩かったメルトだけど、さすがに今はキリッとして馬に乗っている。
出発した一行は、王都の門までは静かに進んだ。
まだ気配を探索しながら歩いているフラットは、よほど気にいらなかったみたいだ。来た時とは違い、手を振る子供たちには目もくれず、あたりを見ている。まあ、ありがたいけど。
ギルドカードを確認したあと、門をでた俺たちは一気に駆ける。
先頭はギルマス、次はメルト、最後にフラットが続く。馬よりでっかいフラットが前にいれば、二人の視界を塞いでしまうからね。
フラットも馬車じゃなくて、鍛えられた馬について駆けるのは嫌いじゃなさそうだ。気持ちよさそうに長い毛が靡いてる。俺の髪の毛も靡いてるけど。
最近のフラットの毛色は、シルバーウルフのトーンの低いグレイというより、銀色に近く変化している。俺の白銀の髪の毛とマッチしてきれいだ。
王都に向かうときとは違い、二時間も進めばかなり進む。十時頃には既視感のある場所にいた。
馬たちに水を飲ませるために止まったんだけど、フラットのおやつコールに負けて、シートの上に腰を下ろしている。低いテーブルにはひと口のマジックアイテムがあって、ポットでお湯を沸かしている。
ギルマスとメルトは馬たちに布のバケツのようなもので水を飲ませている。生活魔法はほとんどの人が使えるから問題ない。
紅茶のポットを取り出して、茶葉を人数分入れる。
そろそろ終わるかな、と見ていれば、果実水を飲み干したフラットがお菓子を出せと訴える。
わかったよ、と王都で買っていたベイクドチーズケーキを取り出した。お皿に切り分ければ、半分はフラットの分。そしてもう半分を三つに切り分ける。
「お、お茶か。いい匂いだな」
どうぞ、とテーブルの向こうに促せば、二人は喜んで腰を下ろした。
紅茶を入れて差し出せば、匂いを楽しんでいる。
そしてベイクドチーズケーキを置けば驚いていた。主にメルトが。
「フラット食べていいよ」
ふぁふ! と深い皿に置かれた半分を食べ始めたフラットだけど、それさえ驚いてるよ、メルト。
「これ、美味いな。王都で買ったのか?」
「うん。試食して買った。美味しいものがたくさんあったよ。お土産もその商会で買ったんだ。ギルドのお姉さんや他の人にもね」
そうか、と嬉しそう。
無言で食べているメルトは少しずつ口に入れて味わっているみたいだね。
次に止まるのはお昼だね、と出発した俺たちだけど、かなりの魔物に遭遇した。
「これが言ってたオークか。こんなとこまで出てくるとは」
不思議そうなメルトだけど、バッサバッサとオークを切り裂いている。
フラットはもちろんだけど、俺も応戦してましたよ、ちゃんと。
でも、俺にはかなり不利な状況です。チビだから。
空に上がるよ!
叫んでから飛翔魔法で数メートル上に上がった。
それからは指拳銃で無双する。
<氷の矢>
バンバンバンバン!
次々と氷の矢を打ち込んで行く。もちろん、街道沿いは二人とフラットに任せてる。俺はその奥を担当するんだよ。
途中で面倒になって、氷刃で首を切り落として行く。そう、横になぎ払えば、ころころと首がおちてくんだ。でも、オークって首がよくわからない。だって、首短いんだもの。
途中から再び指拳銃で撃って行く。それの繰り返しだけど、そろそろ終わるかな。
振り返れば、皆がすぐ後ろまで来てた。
もう少し上から見るかなと思ったとき、フラットが飛んできた。
『ナギ、ちょっと見てくるから下に降りて。二人が心配してるよ。見つけたらすぐに連絡するから』
『わかった。気をつけるんだよ、他にも魔物がいるからね』
りょーかい!
フラットはすごい勢いで飛んで行く。どうやらあたりをつけた場所があるみたい。いや、違うね。空の魔物だ。あれって鷲なの?
ゆっくり地上に降りれば、二人が呆れてるみたい。
「お前、すごいな」
あはは、初めて見たメルトは驚くよね。
「無事なら良かった。あまり長いこと目視できないところに行くな。気配を追うにも限界がある」
わかった、と頭を下げた。
「わかったらいい。悪いが獲物を回収してくれるか?」
いいよ、と見える範囲を魔法で収納する。
うわっ! とまた驚いてるよ、メルトは。
「魔法で? 魔法で収納できるのか?」
うん、そうだよ。
はぁ、と項垂れたメルトだけど、どうしたの?
「参ったよ。お前ほどすごいやつは見たことがない。で、フラットはどこだ?」
さっき様子見のついでに空の魔物を倒しに行ったみたいだよと正直に言えば、再び聞こえたのはため息だった。
オークの気配を探っていたら、いましたよ、デッカいのが。
一番デッカいのは奥に隠れてるけど、他にもデカいのがいる。二頭いるけど、これってデカいやつの子分? いや、シャテイってやつかな。ま、どっちでもいいけど。
俺たちが行くから、と二人はそれぞれに向かって行っちゃった。それなら俺は一番デッカいやつだ!
かなり上空ではフラットがデッカい鷲? みたいなのと戦ってるよ。すごくでっかい。フラットもかなりでっかいけど、そのフラットを横にした長さくらいかな、羽を広げたら。こんなにデッカい鷲なんか見たことないよ。
あ、忘れてた。デッカいオークだね。
これは指拳銃かな。拳銃は無理かな。じゃあ、ライフル? ショットガン? なんかよくわからないけど、狙撃スタイルがいいかも。
<氷の狙撃弾>
ドン! とライフルっぽく構えてみた。
ドシュッ!! と飛んでいったライフル弾はデッカいオークの眉間に命中した。
やった、初めてやってみたけど今度実験してみよう。どれくらいの距離まで行けるんだろう。
ドドドン! と倒れたデッカいのを放っておいて、ギルマスたちを見た。お、そろそろ終わりそうだね。
ドスン、ドスン! と二頭が倒れた。
やっぱりデッカい人たちはすごいや!
「ナギ! どこにいる?」
ここ~ ちょっと間抜けな返事になっちゃった。
ここにいたのか、と俺の後に倒れているデッカい獲物をみた二人は無言だ。
「ちょっと待ってね、これしまっちゃうから。そのあとで入れるよ」
あ、ああ……
あはは、面白いね。
デッカいオークをシュッと収納して、少々戻る。
後を付いてきた二人だけど、なぜか元気がない。
シュシュッと二頭を収納して、空を見上げた。
遠くで雄叫びが聞こえる。
ごぉぉぉぉっぁぁぁぁぁーーー
そろそろ終わりそうだ。
『フラット、大丈夫?』
『うん。もう終わるよ。こいつより小さいのはその辺に引っかかってる。だから倒したら街道の近くに持ってくよ』
『わかった。気をつけるんだよ。オークは終わったからね』
『うん。りょーかい。すごいね、このメンバーだと早いよ』
そうだね、と二人と一緒に街道沿いへと向かった。
魔物辞典を見て勉強しないとね。見たことのない魔物がたくさんいる。食べられる鳥の魔物だって詳しくはわからないし。
フラットを待つ間に、二人にきいて見た。
「ねえ、どんな鳥の魔物なら食べられるの?」
そうだな、といろいろ教えてくれるけど、名前だけじゃわからない。
「あれは食べられる?」
あれ? と二人は振り向いた。
「おお、フォレストバードだ! 食えるぞ、美味い。狩るか?」
「うん。ちょっと試したことがあるから僕がやる」
いいぞ、と二人は譲ってくれた。でも剣を使う二人はどうやって戦うんだろう。
ここからはかなり距離がある。百メートルくらいはあるかな。
ライフルを試してみたかったんだ。
<氷の狙撃弾>
今度はしっかりと指先を鳥に向け、肩の方まで右腕を引き上げ、本当にライフルがあるみたいにやってみた。
ドシュッ!
派手な音が聞こえた瞬間、でっかい鳥は地面に落ちた。
やった!
なんで落ちた?
二人は理解不能みたいだ。
「遠距離用弾丸を氷で射った。命中したからよかった」
かなりの距離があったぞ、とギルマスはわくわくしてる。
氷の遠距離弾か。
呟いたメルトは信じられないと首を振る。
『ただいま~ナギ』
バサ~ッと大きな翼が草原に降りて来る。
なんだこれ!
すごいすごい、これ大きいね、フラット!
こんな大きな鳥は見たことがないので、大興奮の俺だけど、後ろの二人はなんとかの魔物だとか、かなりデカいぞ、とか言ってるけど、俺には関係ないのだ!
きれいな羽とお肉が本命なのですよ~
『もう一回取りに行ってくるね』
フラットは飛び立ったけど、羽の下を見れば、羽毛みたいなふわふわの毛が見える。これで掛け布団作れないかな。
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