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教室の一番後ろの窓際の席。
季節は冬に差し掛かっていて、
窓から吹く風は涼しく、少しばかり肌寒くも感じる。
『(アイツ、今何やってんだろ。)』
放課を告げる鈴が鳴り、生徒が一斉に動き始める。部活へ急いだり、自習室へ籠ったり、友人と話ながら帰ったり。
各々が”いつも通り”過ごし始めていた。
俺は特に、部活にも入っておらず、友人と呼べる人もいないため、 クラスメイトが部活へと急ぐ中、一人静かに帰路に着く。
校門から片足を踏み入れた瞬間だった。
これが、俺の人生の全てを変えるきっかけになってしまった。
「おい。」
黒髪でツリ目、髪の毛もツンツンな男。
茶髪でボブ、他の男と似た服を着ている。
「(何だこの制服…。そんな高校とか無かったはず。)」
「お前、紫乃宮 琉生だな。」
「え、違うけど。」
俺の名字は紫乃宮じゃない。
琉生は合ってるけど、俺の名字は五十嵐。
紫乃宮は、前の名字だ。
今はその家族とは縁を切って、独り暮らし中だ。俺の元の名字を知るのは家族…。
元家族のアイツらだけだ。
「(まぁでも、明らか関わっちゃダメな人だし。嘘ついて正解だったかも。)」
「じゃあ、五十嵐 琉生って言えばいいか?」
不意に言われる自分の名前。そこで気付いた。
「…なんで、前の名前を知ってんの。」
紫乃宮は俺の前の姓、知っているのは前の家族だけのはず。だとしたらこいつらは、
あの父親の関係者_。
「お前の父親と母親、兄が死んだ。」
触れたくない話。昔、俺を”兄の劣化版”だと、蔑んだ奴等の話。 聞きたくない。
今すぐにここから逃げ出したい。
それを察しても尚、この男は話を進める。
人の顔を見ろ、モテねぇだろお前。
「呪術師の存在は知ってるだろ。」
「…昔に、習ったな。一通りは分かる。俺の家の事も。 」
「なら分かるだろ。紫乃宮家の血を引いているのはお前だけだ。」
「紫乃宮家は、御三家に次ぐ血筋だ。その当主が死んだんだ。本来はお前の兄が次代当主として成る筈だが、その兄もいない。」
「強制的に、俺が当主に成るってこと?」
「あら、話が早いじゃない。あの家の血筋だからもっと馬鹿なんだと思ってたわ。」
茶髪の女がいう。まぁ分かる。あそこの家、完全に実力主義、部下は駒。
妻は跡継ぎのためなら死んでもいい。
弱肉強食、 それが全て。
「…俺はお前らがいう程強くないぞ?術式も使えない。呪霊も見えない。」
そう、血筋で言えば俺は凄いんだろうけど、それだけ。血筋だけ。
呪術師の家系に生まれただけの一般人。
それを知っていて俺を引き込むのは、
「関係ないか。お前らが欲しいのは俺の地位だろ? 」
紫乃宮家当主と言う
“地位”“権力”“財産”“名声”
これだけの力を持つ奴がのほほんと一般人として暮らしてりゃ、呪術界からしたら大問題なんだろう。
「そうだ。お前のことも既に出回ってる。無理矢理お前を拉致するような呪詛師もいる。そう言う奴から守るためでもある。」
「言うなら保護って訳ね。」
「好きにしたら。けど、俺はこのままこの学校に通いたいんだけど。」
「それは無理だ。お前には常に呪術師の監視が着くよう、上から言われてる。」
「…。」
最悪だ。あの親父が、呪術師として生きることを選んだから、自分の息子にも呪術師の道を歩ませることを選んだから。
俺は、血筋に縛られていきることになる。
「(ふざけんなよ_。)」
呪術師に興味なんて無い。
人を助けたいとも思ってない。
悪を挫きたいとも思わない。
俺は一人で、ただの人として死ねたらそれで良いのに、血筋がそれを許さない。
俺が生まれてから一度も、俺を愛したことなんて無かったくせに。
死ぬ最後に俺を呪いやがって。
「上等。やってやるよ、呪術師。」
親父は俺に言った。
“無能”だと、”役立たず”だと。
親父は死んでいなくなったけど、俺は今から、呪術師として返り咲いてやる。
そんで二度と、劣化版だとか言わせない。
_ 術 師 は 花 へ と 返 り 咲 く _
episode 1. 終.