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視界の端、回廊側では白虎と静遠が対峙している。
「はっ、法を司る神官長の神聖魔法が、そんな生温いわけねぇだろ! 蚊に刺されたほども痒くねぇわ!」
「くっ……これほどの術を平然と受けるとは、やはり化け物か……!」
静遠が必死の形相で放つ眩い光の術を、白虎はその巨大な肉体で文字通り「痛くも痒くもない」とばかりに仁王立ちで受け止め、牙を剥いて静遠をジリジリと追い詰めていた。あっちの戦況は完全に白虎が圧倒している。
だが、庭園の反対側へ目を向けた瞬間、煌の眉が跳ね上がった。
燕花が一人で四人の刺客を相手に大立ち回りを演じているものの、さすがに多勢に無勢だ。華麗な神術で奮闘してはいるが、刺客たちの執拗な連携攻撃の前に、徐々に防戦一方へと追い込まれつつある。
(チッ、燕花の奴、危ねぇ……! 流石の燕花も4人いっぺんに相手すんのはきついだろ。 しょうがねぇ、先にあっちを片付けるか!)
煌はすぐさま踵を返し、燕花の加勢に向かって白砂を蹴り出そうとした。
――その瞬間。
「どこへ行く?」
すぐ真上から、背筋が凍りつくような冷たい声が降ってくる。
「なっ……!?」
ハッと見上げれば、いつの間にか上空へ跳躍していた氷嵐が、煌を見下ろして冷酷な瞳を光らせていた。先ほどの重い一撃で脇腹を抑えてはいるものの、その背後には、先ほどよりも禍々しく研ぎ澄まされた巨大な「氷の矢」が幾重にも形成されている。
ヒュンッ――!! と空気が悲鳴を上げるような速度で、頭上から無数の氷刃が降り注いだ。
「しまっ……っくそぉお!!」
煌は全神経を爆発させて横へと飛び退いた。
だが、完全に死角からの奇襲だ。間一髪で直撃こそ免れたものの、至近距離に突き刺さった氷の柱が爆発的に弾け飛び、その凄まじい風圧と破片が煌の身体を容赦なく襲う。
「がはっ……!?」
強烈な衝撃に吹き飛ばされ、煌は固い砂利の地面へと激しく叩きつけられた。何度も白砂の上を無様に転がり、ようやく動きが止まる。
「童殿!」
刺客を相手にしていた燕花が、悲痛な声を上げる。
「おい、大丈夫か異界の巫女!」
静遠を組み伏せていた白虎が、慌てて煌の元へと駆け寄ってきた。
「痛っつ……クソ……」
煌は激痛に顔を歪めながら、震える腕で泥臭く地面を押し上げた。全身に激しい打撲の痛みが走り、口の端からは一筋の赤い血が伝い落ちる。衣服は破れ、むき出しの肌には砂利で擦りむいた無数の傷が生々しく刻まれていた。
白虎が煌の前に立ち塞がり、首の骨を鳴らしながら、太い指の関節をポキポキと威嚇するように鳴らした。
「おい、無理すんな。あいつの相手は俺が代わってやる。神官長(こいつ)の相手は燕花に任せて、お前は下がって――」
「……大丈夫だ、白虎」
煌は口元の血を手の甲で手荒く拭い、その場にすっくと立ち上がった。
「こんなん、ただのかすり傷だ」
「だがお前、その身体で――」
「手出しすんじゃねぇ、白虎」
煌は白虎の腕をすり抜けるようにして、前に出た。鋭い眼光で氷嵐を真っ直ぐに睨み据える。
「こいつは俺の獲物だ。絶対に俺がブチのめす」
言い放ちながらも、煌は視界の端で、縁側のすぐ下で蹲ったままピクリとも動かない朱雀の姿を捉えていた。仙煙草の紫煙がその身体にまとわりつき、氷嵐の冷気によって白い単衣の裾が徐々に凍りつき始めている。
その痛々しい姿を見た瞬間、胸の奥が、抉られるように深く痛んだ。
「……確かに、あいつが俺に嘘を吐いてた事は許せない」
突き放して、囮にすると決めたのは自分だ。裏切られた怒りは今だって消えてはいない。
「けど――だからって、見殺しにしていい理由なんて、どこにも無いんだよ」
ここで朱雀を失ったらどうなる?
脳裏に、いつも飄々と笑って自分をからかってきたあいつの顔が、昼間の会議で見せたあの縋るような黄金の瞳が、鮮明に焼き付いて離れない。
「それに……自分でもよくわからないけどさ。アイツにもう二度と会えないなんて、そんなのは嫌だ……ッ!」
ぐちゃぐちゃに絡まっていた胸の内が、すとんと一つの確信に変わる。煌は激しい痛みを忘れたかのように、再び拳を限界まで強く握り締めた。
コメント
1件
うわ、ここで煌の「見♡♡♡にしていい理由なんてない」って信念がはっきり口に出たのが熱いですね……。朱雀を突き放したあとの迷いや痛みが、あのぎゅっと握った拳に全部集約されてる感じがします。 氷嵐との戦いも熾烈だけど、白虎と静遠のやり取りも「蚊に刺されたほども痒くねぇ」って台詞で一気に空気が引き締まるのが上手いなあ。燕花のピンチも相まって、本当に一瞬も目が離せない展開でした。