テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,753
――だが、その強い決意をあざ笑うかのように、最悪の地鳴りが枯山水に響き渡る。
「――キィィィェェェエエエエオォォォッ……!!」
枯山水の静寂を、鼓膜を鋭く引き裂くような、高く狂おしい絶叫が切り裂いた。それはおよそ人のものとは思えない、神聖な鳥の、しかし狂気に染まった
「怪鳥の啼き声」だった。
「なっ……何だ!?」
地を蹴り出そうとした煌の足がピタリと止まる。声の主は、白砂の上に蹲っていたはずの朱雀だった。
あいつの身体にまとわりついていた仙煙草の紫煙と、裾を白く染めかけていた氷嵐の霜が、一瞬にして爆発的に蒸発していく。それどころか、朱雀の全身から、どす黒い穢れを孕んだ狂暴な紅蓮の炎がドッと噴き出した。
ゴォォォッ!! と空間を激しく震わせる爆音と共に、朱雀を中心に巨大な「炎の渦」が巻き起こる。丹念に整えられていた枯山水の白砂が赤黒く加熱され、凄まじい熱風が庭園の木々を一瞬で枯らし、夜空を真っ赤に染め上げていく。
三日間の調律不足。そして高濃度の仙煙草の毒。
極限まで弱り切っていた朱雀の肉体は、ついに神力を制御する限界を超え、完全な暴走状態へと陥ってしまったのだ。
「朱雀様……っ!? 嘘、そんな、あんな状態で暴走するなんて……!」
刺客を相手にしていた燕花が、押し寄せる熱風に顔を覆いながら悲鳴を上げる。
「おいおい、冗談だろ……ッ!?」
静遠を組み伏せていた白虎すらも、見たこともない朱雀の狂気的な神威に目を見開いた。
激しく渦巻く炎の向こう側で、氷嵐がフッと冷酷な笑みを浮かべ、纏っていた冷気を霧のように霧散させた。もはや煌に向ける殺気すら消えている。
「ふっ……足止めは十分だな」
氷嵐は勝ちを確信した静かな声で、冷たく言い放った。
「あのような状態になってしまっては、いくら朱雀の巫女とはいえ、調律は不可能であろう。――さらばだ」
「足止めって……っ! 待て、テメェッ――!!」
煌の制止の叫びも虚しく、氷嵐はひらりと夜の闇へと溶け込むように跳躍し、瞬時に気配を消して逃げ去ってしまった。それと同時に、燕花が相手をしていた四人の刺客たちも、炎のドサクサに紛れて蜘蛛の子を散らすように撤退していく。
――後に残されたのは、天を衝くほどの炎の渦。
そして、白虎に組み伏せられたまま、呆然と夜空を見上げている静遠だけだった。
「な……っ、氷嵐殿!? 待ってくれ、私を置いていくというのか……! 皆の者、どこへ行く!」
神官長である自分自身が、ただのトカゲの尻尾として真っ先に切り捨てられたのだとようやく気づき、静遠の顔が恐怖と戸惑いで急速に青ざめていく。
煌はゆっくりと静遠の前に歩み寄った。
炎の渦から吹き荒れる熱風が、煌の乱れた髪を激しく煽る。口の端から血が滲んでいても、足がふらついていても、その瞳だけは怒りを超えて冷徹なまでに静まり返っていた。
「なぁ、お前……。朱雀の事を心酔してたんじゃないのか?」
「……っ!?」
低く響いた煌の問いに、静遠がびくりと肩を揺らす。
「本当にあいつのためを思って、あいつを救いたくて、こんなこと仕組んだのかよ」
向けられた真っ直ぐな視線に耐えかねたように、静遠は顔を歪め、狂ったように叫び返した。
「う、五月蠅い! お主のような野蛮なものが現れてから、朱雀様はおかしくなられたのだ! 私はただ、それを正そうとしただけで……! 本来の、気高く美しい朱雀様に戻っていただこうとしただけだ!」
その瞬間、背後でひときわ大きく炎が爆ぜた。
ゴォッ、と夜空を焦がす轟音。朱雀の啼き声が、また一段と高く、狂おしく跳ね上がる。
煌は振り返らなかった。
振り返ったら、自分が今どんな顔をしているのか、この男に知られてしまう気がした。
コメント
1件
うわっ50話!この展開ヤバすぎる…!!朱雀様の暴走シーン、迫力が画面越しに伝わってきて息止まっちゃった😭💦 氷嵐の「足止めは十分」って台詞がもうクズすぎてムカつくのにカッコいい、ずるい!! 煌が静遠に向けた「あいつを救いたくて仕組んだのかよ」の問い、核心突いててエモすぎる…。最後に振り返らなかった煌の心情、もう泣く😢 次の展開が気になりすぎてもうソワソワが止まらない! かんなさん、毎回神回すぎます…!!🌸🔥