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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第81話 〚眠らなかった理由を、誰にも言わない回〛
― 海翔視点 ―
消灯後の部屋は、
音が少なすぎて、
逆にいろんな気配が分かる。
寝息。
布団が擦れる音。
遠くの廊下の足音。
俺は、
最初から眠るつもりなんて
なかった。
目を閉じて、
呼吸を整えて、
“寝ているフリ”をする。
——それが、
今夜の俺の役目だった。
澪が、
眠れていないことは分かっていた。
気配が、
静かすぎたから。
それに、
さっきのことが頭から離れない。
先生に連れて行かれた、
真壁の背中。
納得していない目。
(……危ない)
理由なんて、
言葉にできない。
でも、
確信だけはあった。
だから、
起きていた。
案の定だった。
毛布が、
不自然に動いた。
俺は、
一瞬も迷わなかった。
低く、
短く、
それだけでいい。
「やめろ」
それ以上、
必要な言葉はなかった。
真壁が引いたのを感じて、
俺はまた目を閉じた。
——でも、
眠るわけがない。
しばらくして、
周りの呼吸が
揃っていく。
(……よし)
そう思った時、
布団が、
静かに触れた。
澪だった。
驚きは、
なかった。
来るかもしれない、
そう思っていたから。
「……澪?」
小さく呼ぶと、
返事はなかった。
でも、
起きているのは分かる。
震えているのも。
俺は、
何も聞かなかった。
理由を聞けば、
澪は謝る。
自分を責める。
そんな必要は、
どこにもない。
だから、
何も言わず、
そのままにした。
布団の中で、
時間が流れる。
俺は、
一睡もしていない。
それでも、
疲れはなかった。
守れているなら、
それでいい。
この夜のことは、
誰にも言わない。
先生にも。
玲央にも。
えまにも。
澪にも、
言わない。
言葉にした瞬間、
“普通じゃない夜”に
なってしまうから。
明日は、
何事もなかった顔で
朝を迎える。
それが、
一番安全だ。
俺が眠らなかった理由は、
それだけ。
そしてそれは、
誰にも言わない。
言う必要が、
ないから。