テラーノベル
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M.S
1,460
シュメール
43
379
#オリジナル
ゆいらーめん
116
あの夜から、何回か寝ている時に夢を見たけれど、ヨリトンの姿は出てこなかった。こんなもの、だよね。
今日は待ちに待ったエルローのライブの日。ヨリトンの缶バッジ、ラバーバンド、推しカラーのリボンをたくさんつけたバッグをクローゼットから取り出す。
宣材写真の彼はキラキラしていて、柔らかい笑顔で。
やっぱり私には遠いところにいて、手の届かない人とわかる。
私と夢の中で会った彼は、すごく身近にいるような…そんな雰囲気もあった。きっと、隠しているだけで、本当は恋人がいたりして。それでも、私は推すのをやめない!……と思う。
[夢の回想:そのキーホルダー、一番最初の物販で…懐かしいなぁ]
大事にしまっていて使わなかったアクキー。夢の中では、リュックにつけてたんだっけ?
私はアクキーを気づきやすいように、推しバッグの一番目立つところにつけた。最終確認だ。メイクオッケー、スマホの充電オッケー。忘れ物…なし!
それじゃ、今日もライブ参戦しますっ!
ライブ会場に着いた。今回の席は、近からずとも遠すぎずなスタンド席。ちょうど、ドラムが見やすい位置になっていた。ファンの人たちが次々と着席していって、開演30分前にはほぼ満席になった。
ペンライトが無線コントロールで光り始めた。
ステージが真っ暗になった。エルローが登壇する時は、ほぼ毎回トラブルで電気が消える。初見さんなら困惑するかもしれないけど、私たちファンは訓練済みです。
♪♪♪♪♪♪
ドン!ドン!
体の芯に響くようなドラムの低音が聞こえると、始まりの合図。
ライトに照らされて、4人がはっきり見えるようになった。ヒロキュンが歌って踊り、他2人がメロディを奏で、ヨリトンは今日も正確にリズムをキープしていて、みんなを支えていた。
「ヨリトーーン!!ヨリトン、こっち見て〜〜っ!」
私は全身の力を込めて叫ぶ。今日こそ、ファンサを貰いたい!!
ほんの一瞬、自分の方をチラッと見てくれたような気がした、けど……
大好きな推しは、私よりも遠くを見ながらドラムを叩き続けた。ファンは私だけじゃない。そんなのはわかりきっています。
何曲か披露した後、MCの時間。
ヒロキュンが、ヨリトンをステージ前方に連れ出した。
「頼朝。今日どうしても言いたいことがあったでしょう?」
「はっ!?こんな時に!?」
ファンの人たちは「いいよー!言っちゃえ〜」と笑っている。ヨリトンは、満更でもない顔をしていた。汗とステージ衣装がキラキラしていて、眩しい。言いたい事って、なんだろう?
「みんなー、楽しんでる〜?」
「声小さいよーっ」
ヨリトンは、観客席を見渡した。
「……実は、あるファンの子を探してるんだ」
周りのファンたちはざわつく。私も例に漏れなかった。
「その子は、初期のアクキーを今でも大事にしてくれてる、めちゃくちゃ古参ファン…なんだけど。そのファンの子、人生が楽しくなさそうで」
私の事…?いやいや、そんなわけない。
「だからさ、オレたちの音楽がまだ『咲いてない』のかなって。救えてない人がいるのかもしれない」
ヒロキュンや他のメンバーにもカメラが向けられて、モニターの映像が変わった。
ヨリトンはドラムに戻りながら言った。
「だから…だから!エルローの音楽を聴いてない、沈んだ顔した人がいたら、ライブに誘って!絶対オレたちは置いていかない!無理矢理にでも引っ張っていくからっ」
そう言って4人は演奏を再び始めた。照れ隠しじゃない、本当の気持ちだった。
(やっぱりあなたは…私の推しだよ)
アクリルキーホルダーを握りしめた。
【フルカラー】
もうすぐ雨が降るから
早く帰ろう
急ぎ足で通り抜けて
夏は終わったーー
色とりどり切り取られた
一つずつの瞬間を 忘れたくないよ
例えモノクロの写真だったとしても
想像上でどんな色だったか 話し合ってみたい
カラー
キラメキ忘れた
大人になってます
ときめき無くした
大人になってた
いつの間にか波に飲まれて
色味が薄くなって消えてしまいそうだった
ナニモノにも 染まりたくなかったんだ
色とりどり切り取られた
一つずつの瞬間を もう忘れないよ!
ただの思い出のカケラだったとしても
記憶の中で光ってる大事なトレジャーだ
カラー
もうすぐ日が差すから
早く出かけよう
少しスピードを落として
色づいた新しい季節 始まるーー
「うっ…ううっ…」
ボロボロと涙が出て止まらなかった。演奏もそうだけど、歌詞が、優しく包んでくれてるような、そんな気がして。
私がヨリトンと夢の中で会ったことは、きっとずっと忘れないでしょう。誰よりも特別な時間を、少しでも過ごすことが出来たのだから。
ありがとう、大好きだよーーーー
歓声に紛れて、つぶやいた。
月曜日
「ちょっと待って!新曲のMV、もう100万回突破してんじゃん」
ムラサキさんは興奮しながらスマホを見せた。
「また、…遠い存在になっちゃった。嬉しいんだか寂しいんだか」
この間のライブで披露された新曲は、またたく間に拡散されていった。今ではどこでも、エルローの歌が流れてる。
登録者数2万人だった公式YouSubeチャンネルは、10万人を突破していた。
私はただの高校生でした。ひっそりとクラスメイトにいじられているだけの、地味な女の子のままでした。でも、今は少しだけ違う。推し活に全力の、とっても可愛い百代陽葵です!
なんてね。
コメント
3件
読み終わりました!ライブの熱気がすごく伝わってきて、ついペンライト振りたくなりました(笑)。特にヨリトンが「あるファンの子を探してる」ってMCで言い出したところ、ドキッとしましたね…まさか陽葵ちゃんのことだったりして?新曲「フルカラー」の歌詞も、モノクロの写真から色を想像するっていう発想が素敵で、じんわりきました。推し活に全力な陽葵ちゃん、応援したくなります!