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「第二幕 第二章 砂漠の旋風の影」
竜を倒した後、ラシードの案内で王都へ向かう道中。
日中は灼熱の太陽、夜は氷のような冷気が砂漠を支配する。
旅は厳しいが、ラシードの軽口が場を和ませた。
「昔な、俺はこの砂漠を馬もなしで渡ったことがあるんだ。三日三晩、ほとんど眠らずによ」
あなたが半ば冗談と思って笑うと、彼は少し視線を伏せた。
「……その時は、逃げてたんだ。自分の居場所から」
焚き火の明かりがラシードの横顔を照らす。
マントの下、彼の右腕には深い古傷が刻まれていた。
「サラ=ジャハルの王族護衛隊にいた。
……でも、守れなかったんだ。
王女を、そして……俺の弟を」
セレスティアが表情を曇らせる。
「それで、放浪の戦士になったのね」
ラシードは笑って誤魔化そうとしたが、その笑みは少しだけ苦かった。
「まあ、そういうこった。
でもな、あの王女はまだ生きてる。
生きてると信じてるから、俺は砂漠を走り続けてるんだ」
その言葉には、砂嵐にも負けない強さがあった。
やがて夜空に、赤月のかけらのような小さな光が滲む。
セレスティアはそれを見つめ、静かに呟いた。
「……ルナが、この国にも手を伸ばし始めてる」
旅はまだ始まったばかりだが、砂漠の空気は確かにきな臭くなっていた。
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