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炎露の部屋の前に到着すると、氷で覆われたドアの前でかがむ。
「炎露、 起きてるか?今日は弟子を連れてきたんだ。出てこなくても良いからさ、ドア越しで良い。話してみないか?」
勿論、炎露からの返事は無かった。
それでも良かった。俺は無理でも、中華の声は届いてくれると信じてたから。
「師匠、この部屋アルカ?」
確かめるように、中華は俺の顔を覗きこむように屈んで問いかけた。
「ああ」
俺が短いながらも返事を返す。
「えっと、炎露、 アルネ?我は中華アル。随分と暗くて寂しい部屋アル。外からでも伝わるアルヨ」
そっと冷たい氷に中華は触れた。想像以上に冷たかったのだろう。一瞬手を離したが、もう一度、今度はさっきよりも優しい手つきで氷に覆われたドアに触れる。
その表情は少し悲しそうで、寂しそうだった。
『どうしてお前が悲しそうなんだよ』
そんな中華の感情がドア越しでも伝わったのだろう。炎露が思わず。とでも言いたげに声を発した。
久しぶりに聞いた炎露の声は少し震えていた。
「炎露はそんな声アルカ。低くて落ち着く声アル。師匠、少し、我と炎露の二人だけにしてほしいアル」
中華は少し微笑んで、俺に頼んだ。
きっと、若い二人で話した方がいいのだろう。
「わかった。また来る」
そっと頷いて、立ち上がる。
俺も勿論暇な訳では無い。書類仕事の量は減り、だいぶ落ち着いてきたものの、無くなったわけではない。
きっと、いや、絶対大丈夫だ。
そう信じて俺は中華に背を向けて書斎へ向かった。