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「主、戻ったぞ」
書斎で頭を抱えている主に声を掛ける。
返ってきたのは、大きなため息だけだった。
「どうした?」
主の机の前に立ち、声をかけてみる。
「ナチスが、おかしいんだ」
妙に真剣な表情で主は話し始める。
「スープを落せば、それを犬みたいに舐め取ろうとしたり、上の空かと思えば急に謝ってきたり………。何かとおかしいんだ」
苦虫でも噛み潰したかのような顔で少し目を逸らしながら話す。
ナチス“も”なのか。
ふと、そう思った。
「津炎もそうなんだ。酷い顔色だと思えば、『気にしないでください』なんて言われるし、急に謝罪するわ、何かに怯えてるわで」
そこで一度言葉を切る。
思い返せば、津炎を迎えに、あの津炎達の部屋と見られる地下室に向かった時から。いや、もっと前、俺と津炎が初めて会った、不可侵条約を結んだあの日、既におかしかった。
なんで、もっと早く気付いてやれなかったんだろう。
何もできなかった自分がどれほど無力なのか、知らしめられるようだ。
炎露にも、津炎にも、俺は、何もできていないじゃないか!
自分の余りの無力さに怒りを憶えた。
「主、原因、明確に分かるか?」
あぁ。俺はきっとまだ未熟なんだろう。今はこの自分へ向かう怒りを隠せ通せる自信が無い。
「わからない」
歯を食いしばりながら、主は答えた。
どうせ他国のドールや化身に聞いたって意味が無いだろう。
俺らドールのリーダーにでも聞けば良いだろうが、生憎今は体調不良やら、相談に乗ったり、復興やら何やらで忙しいと風の噂で聞いた。
今はあまり負担をかけたくない。
それに、この件に関しては、俺が調べたい。
「主、この件、俺に任せてくれ」
主の目をしっかりと見つめて言葉を発する。
主は目を閉じて、静かに頷いてくれた。
主の信頼を裏切る訳にも、津炎の辛さを知らない訳にもいかない。必ず、調べて突き止めてみせる。
書斎の隅にあるコート掛けに活躍しないまま眠っていたコートをはおり、出かける準備をする。
これから、俺の持ち得る全てを駆使してでも、津炎とナチスの過去を、半生を調べ上げる。
「あ、主。今晩は帰ってこねぇから、晩飯は冷蔵庫の中のやつを食ってくれよ」
主にその一言だけを残して、俺は家を後にした。
夕方のもう肌寒い風が頬を撫でる。
だが今はそんな事を気にする暇なんざ無い。早足で俺はまだ溶け残っている雪を踏み締めながら街を駆け抜けた。