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到着した日の夜、晩餐会が開かれた。
みんな当然のように聖女レティシアの来訪を喜び、私はいつものように気配を殺して食事をしていた。
アルフォンス様はそんな私を見て、何か言いたげな顔をしていた。
けれど、私は「そのうちレティも交えて話す機会があるなら、その時に話せばいい」と思っていた。
けれどカール様が頻りに「聖女が帝国に嫁げば安泰」と仰るので、それに貴族たちが賛同するたびに暗い気持ちになった。
この状況を打破できたとしても、アルフォンス様が妻にしたいと求めているのが私だと知ったら、みんな落胆するだろう。
「どうして聖女を娶らないんだ」とアルフォンス様を責める者も出るかもしれない。
(……胃が痛くなってきた……)
今まで何があっても公の場では笑顔で過ごしていたのに、今は口角を上げる事すらつらい。
精神的な限界が訪れようとした時、アルフォンス様が大きく咳払いをした。
みんなが皇帝に注目した時、彼は周囲を睥睨してから重々しく告げた。
「今回、私は困り事を相談するために王女たちを招いた。レティシア王女を私の妻にと言っているのは、上皇陛下の個人的なお望みだ。私自身は結婚について一言も希望を述べていない。勝手な憶測で決めつけるのはやめてもらおうか。二人の王女たちにも失礼だ」
彼の発言を聞いて、盛り上がっていた貴族たちは決まり悪そうな顔になったけれど、私はその言葉がとても嬉しかった。
その時、レティが可憐に微笑んだ。
「わたくしこそご好意を否定できず、誤解させてしまった事をお詫び申し上げますわ。皇帝陛下のご婚姻は国の未来を左右する大切な選択です。いずれ陛下はご自身の意志でお心を決められ、お気持ちを表明されるでしょう。その時まで、皆様の望む未来は胸の内に秘めておきましょうね」
聖女らしい回答を聞き、貴族たちは「そうですね」と頷いて笑みを浮かべる。
レティが見事な態度を示したのに対し、私はろくな事を言えていない。
(これが外交を重ね、周囲の信頼を勝ち取った聖女の力なのだわ……)
思い知らされた私は、自分の弱さと怠慢に溜め息をついた。
心身共に疲れて自室に戻ると、ジョゼがかいがいしく世話を焼いてくれた。
「お風呂の準備をしましたので、温まってからお休みくださいませ」
「ありがとう」
部屋は居心地良く整えられ、彼女が頑張ってくれた事が分かる。
私にはレティのように女官や侍女が大勢ついていない。ジョゼだけだ。
使用人たちにも『〝ハズレ姫〟には仕えたくない』というプライドがあるらしく、募集があっても人が集まらない。
命令されても理由をつけて離職する者が後を絶たず、結局ジョゼの一人体制となった。
その分、彼女は常に私の傍らにいてくれる。
そんな彼女の期待に応えるために、いい王女でいなければと常々思う。
お風呂に入るとジョゼが背中を流してくれ、私は魔術でボコボコと気泡の立つ浴槽で溜め息をついた。
「やっぱり人が大勢いる所は疲れるわね」
「わたくしは特別に、場の隅にいる事を許されて控えておりましたが……」
ジョゼはそこまで言って溜め息をつき、言葉を途切れさせる。
昼間にレティの前で失言したのを思い出し、言い過ぎるのは良くないと思ったのだろうか。
「あまり気にしないで。あなたの気持ちは受け取っているから」
励ますように微笑みかけると、ジョゼは気弱な笑みを浮かべる。
「姫様のお側について七年になりますのに、情けない事です。主人を困らせてはいけないと、誰よりも分かっていたつもりでしたのに」
彼女は後悔と苦悩にまみれた顔をしている。
昼間にレティと話していた時、確かに私は言い切れない想いを抱えていた。
だからこそ、ジョゼは黙っていられなかったのだと思う。
「私もレティの本音を初めて聞いたわ。彼女が私を羨やんでいたなんて考えもしなかった。私たち、お互いに無い物ねだりなのね」
そう言っても、ジョゼの表情は晴れない。
「どうせなら、あなたも言いたい事を言ってみたら? 今なら許すわ」
悪戯っぽく言うと、ジョゼはやっと顔を上げて微笑んだ。
「姫様ったら……」
彼女は溜め息をついたあと、「すぐ忘れてください」と前置きしたあと、胸の内を語り始めた。
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