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『協力関係?
それが出来なければ、最低限中立で
いてさえくれればいいと……?』
『魔力溜まり』の影響から脱した魔狼の長は、
ティーダ君の通訳の下―――
困惑したように話す。
『我は救われた身。
従えと言われれば、逆らいませぬ。
群れ全て―――
フェンリル様の命じるままに』
「あー、ウチは別にそーゆーの求めてないんや。
あとはこの、シンさんの言う事を聞いて
くれれば」
人間の姿に戻ったルクレさんが、私に丸投げ
してくる。
それで魔狼たちが一斉に視線を向けてくるが、
「ええと……
ウィンベル王国では、魔狼と人間が共存して
いるんです。
それであなた方も、人間と協力関係を
築いて頂ければと思いまして」
『人間……と?
好んで敵対するつもりは無いが―――
それはどのような話なのだ?』
すると、そこでダークブラウンの長髪の女性が、
す、と前へ歩み出て、
「人の姿をしておりますが―――
私は魔狼です。
今はこの、人間のケイドさんの妻になっており、
子も成しております」
夫として紹介された赤髪のアラサーの男は、
恥ずかしそうに頭をペコリと下げる。
『なんと……!』
長を始め、魔狼たちが驚いているのがわかる。
「ウチの加護の力と、何や条件が合ったん
やろうなあ。
あ、もちろん魔狼の姿にも戻れるから
安心やで」
見本を見せるかのように、リリィさんが
魔狼の姿に変じ、そこでまた魔狼の群れが
ざわめく。
「まー共存するつもりなら、人の姿になった方が
いいと思うよ」
「無論、そのままでも構わんが……
便利な事もあるしのう」
「ピュウ」
メルとアルテリーゼとラッチが、補足するように
語ってくれる。
『フェンリル……ルクレセント様。
そちらの方々は?』
ロングの銀髪をした彼女は、私の家族……
同じ黒髪の、セミロングとロングの女性と
ドラゴンの子供に向かって、
「メルとアルテリーゼや。
メルは普通の人間だけど―――
アルテリーゼはドラゴンさんや。
ウチの友人だから、怖がる事はないで」
『ド、ドラゴンですと!?』
そこで、アジアン系の顔立ちと―――
いかにもな白人系のモデル顔をした、
妻二人が一礼し、
「シンの妻、メルです」
「同じくシンの妻、アルテリーゼじゃ。
よろしく頼むぞ」
「ピュ!」
続いてルクレさんが、褐色の肌の犬耳少年に
抱き着き、
「そして彼が!
ウチの夫のティーダや!!
まだ婚約の段階やけど―――
覚えといてやー!!」
ティーダ君は顔を真っ赤にしながら、
ルクレさんの胸にうずまる。
その状態でも彼は通訳を続け、それが魔狼たちに
伝わると、
『獣人がフェンリル様の夫に?
それに、ドラゴンが人間の妻に……?』
『いったい何が起きているのだ?』
まあそりゃ不思議に思わない方がおかしいよね。
「今は人間と共存している他種族も多いんですよ。
あ、ワイバーンの方もおりますし」
「そやでー。
ワイバーンの群れの女王、ヒミコはウチの
知り合いや。
そのヒミコも人間の夫つかまえたんやで。
まだ独身の連中はチャンスだぞ?」
何か協力関係を結びに来たというより、
お見合いや婚活を勧めに来たような流れに
なってしまっているが……
「あの、結婚や恋愛はあくまでも双方
合意の上でですね……」
一応断りを入れておくが、ますます嫁や
婿探しのような説明になってしまう。
ここはいったん仕切り直し―――
「ええと、今冬ですよね?
食料の方は足りておりますか?」
少々唐突だったが、質問を変える。
そもそも、それを想定して来ていたのだし。
すると魔狼の長が、首を大きく動かし、
『少し前まで、我があのような状態だったので、
決して余裕があるとは言えぬ。
なので、子供たちだけでも受け入れてもらえば
有難いが―――』
うーん……
それで親子離れ離れにさせるのは。
公都『ヤマト』であれば、全員受け入れる事も
可能だろうけど―――
「その、仮にですね。
あなたたちの群れが丸ごと、この森から
離れたとして―――
何か問題とかありますか?」
この森の守護者とか、何か使命があって
離れられないとしたらダメだけど……
『ここは住み慣れた森。
それなりに愛着もある。
だが、森に取って意味はあるまい。
我らがいなくとも、ここは生き続ける。
……たまに戻れたら、とは願う』
それもそうか。
彼らに取ってはこの森が故郷なのだから。
特別な意味はなくとも、思い入れはあるだろう。
それに公都に全員移したとしても、
それはただ移住させただけ―――
人間との共存、とは言い難い。
この国の人間と共に歩む方法を見つけるのが、
最低限の道筋だろう。
となると、まず公都に連れて行って、人間との
生活に慣れてもらってから―――
改めてこの国に戻ってもらう方がいいかな?
少なくとも、他国へ行くよりはこの森に
帰りやすくはなるだろう。
しかし……
この国で魔狼と共同生活を頼めるような
人間や土地となると。
隣国のチエゴ国ならともかく、クワイ国に
知り合いは―――
「……いたわ」
私が独り言のようにつぶやくと、
すかさず家族が反応し、
「ん?」
「何じゃ?」
「ピュ?」
私は周囲を見渡すようにして視線を回すと、
ある提案を行った。
「お久しぶりです、シン殿!
クロムの件でお世話になった事、
忘れておりませんぞ!」
大きな声で、赤茶の短髪の―――
筋肉質の大柄な体ながら、どこか気の弱そうな
印象の男性が出迎える。
彼の名はバラフト・ケンダル辺境伯。
以前、チエゴ国でのナルガ辺境伯の結婚式の際、
息子の事で相談を持ち掛けられた人物だ。
(■114話はじめての くわいこくきぞく
■115話 はじめての たいぐん参照)
ケンダル伯爵様のお屋敷には、今……
私と家族、ケイド夫妻にティーダ君とルクレさん。
それに、あの森の魔狼の長を始め―――
その配下数名が同行していた。
ただ驚かせるといけないので、魔狼はリリィさんに
代表を任せ、姿を隠している。
「必ずお礼をすると言いながら―――
永らくお待たせして申し訳ない」
「いえ、お気になさらず……
それより、今日は頼み事があって
来たのですが」
「おお!
それは願ってもない話です!
シン殿の頼みならいくらでも聞きましょう!!」
こうして屋敷の書斎で、改めて話を
聞いてもらう事になった。
「あ、ジェイドさん。
お久しぶりです」
「名高い『万能冒険者』に―――
覚えておいて頂いたとは光栄です」
チエゴ国の時にもいた、あの薄茶の短髪をした
執事さんも、その部屋にいた。
「それでシン殿。
頼みとはいったい」
「ええ、実は……」
そこで私は、魔狼に話した提案を―――
ケンダル辺境伯様に説明した。
「……なるほど。
我が国を始め、各国の首脳陣が
集まった事は聞いておりました。
その話し合いの中で、自国にいる他種族にも、
交渉を持ち掛けるようにと―――
その一環として来られたわけですな」
彼は領主だ。
ハイレベルの情報は伝えられているだろう。
ただ、まだ帝国の情報は伏せられているのか、
使用人や執事の手前、それは口にしない。
「まずは実績のあるウィンベル王国で、
人間の生活に慣れてもらった後―――
改めて我が国に迎え入れて欲しいとの事。
特に異論はありませんが……」
「やはり、抵抗がありますか?」
魔狼に対して失礼とは思うが、そこは
聞いておかなければならない。
「いえ、こちら側としても有り難い申し出では
あるのです。
実はここ最近、盗賊や野盗に悩まされて
おりまして」
それを聞いた妻二人が顔を見合わせる。
「それは何だか……」
「穏やかではないのう」
「ピュウ」
そこで伯爵様はため息をつき、
「言い訳するつもりではないのですが、
シン殿へのお礼が遅れたのは―――
それが一因でもあります。
息子・クロムの開拓地開発が進み、
下手に豊かになった事も、狙われる理由の
一つとは思うのですが。
ただ、その対策として―――
魔狼を送り出すのは、領民としてはどう
見るか……」
確かに、人間の救援を先に寄越すのが
先決というか当たり前か。
そこにいきなり魔狼を送った日にゃ。
「軍は動かせぬのか?
領主であれば、たいていどこも私兵を
持っていると聞いたぞ?」
ルクレさんのツッコミに、ケンダル辺境伯様は
首を左右に振って、
「お恥ずかしい話ではありますが……
第一夫人と第二夫人がどうも裏で圧力を
かけているようでして。
特に開拓地への派遣を、あれこれ難癖付けて、
出させようとしないのですよ」
彼の話によると―――
『クロムに与えた開拓地であれば、
クロムに何とかさせなさい』
『そのくらいの力量が無くて、領地を
治められますか』
と、もっともらしい事を言って、軍の要請を
断り続けているのだという。
「それに失礼ですが―――
私は魔狼の姿を見た事がありません。
盗賊対策とはいえ、領民に恐怖や不信感を
植え付ける事になりはしないかと。
そうなればますますキャナルたちの
思うツボで……!」
「あの、その姿についてですが……
ルクレさんと同じく、魔狼は人間の姿になる事も
可能ですので―――
威圧感を与える事は無いかと思います」
は? と伯爵様が顔を上げるのと同時に、
室内のメイドや使用人もきょとんとして、
「あの、申し遅れましたが……
魔狼のリリィです」
そこでリリィさんが魔狼の姿に戻ってくれ、
「ドラゴンのアルテリーゼだ」
「フェンリルのルクレセントや。
よろしゅーに」
続けて人外女性二名が、片手を挙げて
あいさつしたところで―――
(さすがに空気を読んで変身はしなかった)
書斎に複数の人間の叫びが響き渡った。
「は、はあ、なるほど。
そういう事でしたら、領民も受け入れてくれると
思います」
紹介が遅れたのは悪いと思うけど、こうまで
驚いたという事は……
完全に人間だと思っていたって事だよなあ。
こちらの森の魔狼たちが人化するのは、
先の話だと思うけど―――
言い方は悪いが見本としてリリィさんがいれば、
領民にも納得してもらえるだろう。
「ではまず―――
クロム様の開拓地に行って、顔合わせして来ても
よろしいでしょうか?
そして盗賊たちを出来るだけ片付けて……
後、改めて魔狼たちを受け入れて頂くと
いう事で」
「ではそのように手配を。
しかしこれでは―――
頼みを聞くどころか、むしろまた、
一方的に助けてもらっているようで」
ばつが悪そうに頭をかく辺境伯様に、
「いえ、こちらに取っても利益はあります。
もしここで魔狼を受け入れてもらえれば、
他国でも他種族との交流の動きが、
加速するでしょう。
クワイ国・ケンダル辺境伯領を
成功例として―――
大々的に宣伝に使わせて頂きますよ」
「おお!
存分に使ってくれ!!」
こうして私たちは辺境伯様のお屋敷で一泊し、
彼に書いてもらった手紙を持って―――
クロム様の開拓地へ向かう事になった。
「ほ、本当にシン殿!?
どうしてこのようなところへ……!」
次の日、開拓地へ到着した私たちは―――
ケンダル辺境伯様の手紙を労働者の一人と
思しき人に渡し、クロム様との面会を要請した。
しかし、開発は結構進んだと聞いていたが、
家や建物が何というか……
とにかく村と思える場所の一角で待っていると、
父親と同じ、赤茶の短髪をした少年が慌てて
駆け付けてきた。
「お久しぶりです、クロム様」
「父上からの手紙は拝見しました。
その、この地を悩ませる盗賊退治を
手伝ってくださるとの事で―――
しかし、この魔狼の受け入れというのは?」
まあ、まずはそこだろう。
そこでケイド夫妻にお出まし願い、
「開拓地の護衛を兼ねて、魔狼たちをここで
受け入れて欲しいのです。
今すぐでなくともいいのですが。
ここにいるのは冒険者のケイドさんと」
「ケイドの妻で、魔狼のリリィです。
よろしくお願いします」
13、4才に見える少年は、『は?』という
表情をして固まるが、
「フェンリルやで!」
「ドラゴンだ!」
ドヤ顔でルクレさんとアルテリーゼは、
その胸(大)を張った後、
「ウチの事、信じておらんな?」
と、ルクレさんがフェンリルの姿に変化し、
負けじとアルテリーゼがドラゴンとなり、
リリィさんも魔狼の姿になって―――
現場は一時混乱の極みとなった。
「調子に乗りました」
「すまなんだ」
「ピュ~」
「ええと……ごめんなさい」
騒ぎが落ち着いた頃、クロム様の家で……
フェンリルとドラゴンと魔狼は、人の姿に戻って
謝罪していた。
ルクレさんはティーダ君が、
アルテリーゼは私とメル、ラッチがなだめ、
リリィさんはケイドさんが一緒になって、
頭を下げていた。
また、同行していた魔狼の長と、その配下も
合流し……
『伏せ』の状態で待機する。
「いえ、こちらこそ―――
せっかく援軍として来てくださったのに、
申し訳ありません。
父上が軍を派遣出来ない事情は、薄々
察しておりましたけど……
その代わりに、一国を滅ぼす戦力を送って
くるとは、思いもしなかったので」
そう話すクロム様は、どこか遠い目を
しておられて―――
「しかし盗賊ですか。
ここにもある程度の私兵はいるようですけど、
そんなに厄介なのですか?」
私が話を本題に戻すと、
「村がある程度形になってきたところで、
夜襲をかけてくるんです。
開拓地はどうしても、簡易な木製の家を建てる
しかなく……
それで、火を使われるとどうしても」
確かにそれはキツイな。
こちらに来た時、半壊の家や少し焦げたような
家があったのはそういう事か。
それに、水魔法の使い手はポピュラーと言っても、
火事を消すだけの水を出せるかどうかは別問題。
さらに襲われている最中に、消火に集中出来ない
だろうし……
「でもそんなタイミングで夜襲をかけて
来るのって―――」
「シンさんの言ってた、第二夫人とか第三夫人の
手の者……って事は無いですか?」
メルとケイドさんが推測を交えて聞いてくる。
さすがにそこまではしないと思いたいけど。
「それは……無いんじゃないでしょうか。
捕らえた盗賊の一人から話を聞いた事が
あるんですけど、どうも隣国のチエゴ国から
流れてきたようなので」
「そうなんですか?」
私が聞き返すと、クロム様は続けて、
「どうもチエゴ国でフェンリル様の婚約発表が
行われた事で―――
こっちの方が『仕事』がしやすいと思って、
来たんじゃないですかね」
「ほへー。
ウチの婚約で?」
ルクレさんがキョトンとした顔で言うが、
あり得ない話ではない。
万が一にも、フェンリルが出て来る可能性の
ある国と、そうでない国で行動するのとでは
リスクが完全に異なる。
……そういえば以前、ルトバ辺境伯領で
盗賊の集団が出た事があったけど、
アレももしかして―――
(■100話 はじめての うろこといきち参照)
ドラゴンやワイバーン、魔狼のいる領地を
避け続けて、というのは十分考えられるし。
やっぱりこうやって、知らないところで迷惑を
かけてしまっているんだなあ……
今度、何かお土産か利権を考えるか―――
それはともかくとして、今はこちらだ。
「取り敢えず、盗賊は退治してしまいましょう。
ルクレさんやアルテリーゼがいれば
あっという間に……ん?」
おずおずと、獣人族のティーダ君が片手を
挙げているのに気付く。
「あの、魔狼の長が―――
我らに任せてもらえないか、と言って
おりますが」
「長が?」
彼を仲介して、長と話す事に切り替える。
『人間との共存が目的だと、シン殿は言った。
それに、ここに受け入れてもらうのであれば、
まず我らが力を示すべきかと』
確かにその通りだ。
さすが組織のトップ、言うべき意見は言ってくる。
『ここの長は誰か―――』
「ええと、一番上というのであれば……
こちらのクロム様です」
「??」
いきなり名指しされた少年は戸惑うが、
「あ、魔狼の長がこの開拓地で一番偉い人を
聞いてきましたので」
「そ、そうですか。
僕が一応、ここの責任者です」
魔狼たちに向かって、ペコリと頭を下げる。
すると魔狼たちも揃って頭を下げ、
『ていねいな対応、痛み入る。
それと、リリィと言ったか……
どのように人間と共に行動しているのだ?』
「公都『ヤマト』では魔狼ライダーと言って、
魔狼にパートナーの人を乗せて共に動きます。
私の場合は、ケイドさんを乗せて走ります」
リリィさんの返答を聞くと、長は配下の魔狼の
一体へ振り返り、
『では、我が妹をクロム殿のパートナーに
して欲しい。
戦力としては我に劣るが、群れの中では彼女が
最速を誇る』
のそりと、少年の前にその魔狼が歩み寄る。
『では指示をくれ、クロム殿。
我らは従おう』
自分は戦闘に専念したいので、彼には妹と
行動してもらい―――
指揮を執って欲しいという事か。
最速というのであれば、敵に捕まる事も無いし。
こうして……
クロム様の下、盗賊討伐が行われる運びとなった。
「あ、あれはクロム様!?」
「あれは昨日見た魔狼じゃないか!
まさか、クロム様に付き従っているのか?」
翌日―――
開拓地の男たちは、村の中の広場に集合していた。
そして彼らの前に、魔狼にまたがった少年が、
他の魔狼数体と共に整列するように身構える。
「みなさん、聞いてください。
昨日、援軍として―――
フェンリル様やドラゴン様、魔狼たちが
来てくれたのは知っていると思います。
我が父、バラフト・ケンダル辺境伯が
援軍として手配してくれたのです」
ざわめきが聞こえ、やがて静かになり……
「やったぞ!!」
「もう盗賊なんざ恐れる事はねえ!!」
「これでやっと平和になる!!」
明らかにオーバーキルな戦力の到着だからなあ。
みんな興奮した口調で喜びの声を上げる。
そこでクロム様は話を続け、
「ドラゴン様、フェンリル様はあくまでも臨時の
救援ですが―――
魔狼の方々は、この地に受け入れて欲しいと
申し出てきました」
歓喜の声が消え、ざわ、と動揺が広がっていく。
しかし、ケイド夫妻が出て来て、
「こちらの女性―――
もしかしたら昨日、変身を見た事があるかも
知れませんが、妻は魔狼です」
夫の説明の後、リリィさんは魔狼の姿へと
変わる。
次いでクロム様が引き継ぎ、
「このように魔狼は人の姿になる事も出来ます。
受け入れる事に不安な人もいるかも知れません。
ですが―――
彼らを受け入れる事が出来れば、もう盗賊や
魔物に怯える事はありません。
それをこれから証明してみせます!!」
その言葉の後に、ケイドさんが魔狼となった
リリィさんにまたがり、魔狼ライダーの形になって
同じく魔狼に乗ったクロム様と並ぶ。
「ドラゴン様とフェンリル様、あとシン殿は
万が一のため村の防衛をお願いします!
戦える人は僕に続いてください!
魔狼たちと共に、盗賊どもを倒すのです!!」
彼の言葉で開拓地の人々が奮い立つ。
さすが貴族というか、人の上に立つ身分。
カリスマ性があるなあ。
こうして人間・魔狼混合の討伐隊は―――
盗賊退治に向けて動き始めた。
「チクショウ! 放しやがれ!!」
「何でだよ!!
この前まで魔狼なんていなかった
だろうが!!」
「しかも乗りこなしてくるなんてよ……!」
半日もすると、討伐隊のメンバーが盗賊たちを
捕まえて帰ってきた。
だいたい十五人ほどだろうか。
思ったより少ないな……
ただ、いつ奇襲をかけてくるかわからない
勢力としては、油断出来る数でもない。
「クソッ!!
せっかくチエゴ国から離れてきたってのに、
このノーラ様もツイてないねえ」
見ると、赤髪を逆立てるかのように伸ばしている、
アラサーくらいの細身の女性が悪態をついていた。
「……彼女も盗賊ですか?」
「盗賊頭のようです。
他の連中が、『頭』と呼んでいましたから。
火矢と石弾を使っておりましたし、実力は
相当なものでした。
かなり手こずりましたよ」
女盗賊にしてトップか、とも思ったがここは
異世界。
魔力や魔法に秀でていれば、荒くれどもを
従えるのも容易いのだろう。
「彼らの処分はー?」
メルが軽い感じで質問してくる。
「ここは開拓地ですので……
ろくに罪人を捕らえておく場所も余裕も
ありません。
即刻、処刑するのが妥当かと」
実際、以前襲撃してきたグランツの盗賊メンバーも
あっさり処刑していたしなあ。
罪がハッキリしていれば、生かしておく経費は
無駄になる。
それが開拓地のように、資源が豊富ではない
状況であればなおさら―――
「ちなみに、開拓地の人手は足りて
いるんですか?」
「え? ええ。
盗賊の脅威が無くなったので、それなりに
開発に欲しいところではありますが」
私は人間の姿になっているルクレさんと
アルテリーゼのところへ行って―――
ひそひそと耳打ちする。
スタスタと彼女たちは、後ろ手に縛られた
盗賊たちの前に歩み出て、
それぞれが―――
フェンリルとドラゴンの姿へ変化した。
「ひええぇええっ!?」
「ま、まさかチエゴ国のフェンリル!?
それにドラゴンまで……!」
「確か昨日、ドラゴンが飛んでいるのを見たと
言っていたヤツがいたが―――」
騒がしくなる盗賊の一団を前に、ルクレさんが
フェンリルの姿のまま言葉を発する。
「のう、クロム殿。
こやつらの処分、ウチに任せてはもらえぬか?」
「ど、どのように―――」
その問いにアルテリーゼが口を開き、
「フェンリルはのう。
自分が庇護している者や、眷属に対し―――
敵対した者の魔法を封じる事が出来るのだ。
それならば、ここで働かせて罪を償わせるのも、
一つの手であろう?」
「開拓地の司法権・自治権は僕にありますので、
それは可能ですが……
しかし、身体強化すら使えないとなりますと」
盗賊たちはパクパクと口を開く。
自分たちの処分より、ドラゴンやフェンリルと
対等に渡り合うクロム様に驚愕しているようだ。
私はこっそりと彼らに近付いて、
「魔法を使う盗賊など、
・・・・・
あり得ない。
ただし―――
身体強化はこの世界では
・・・・・
当たり前だ」
小声でささやくように話すと、ルクレさん、
アルテリーゼへ向かってうなずく。
「では身体強化だけは許してやろう。
縄を解いてみてくれん?」
「は、はあ……」
半信半疑なのだろうが、彼は村の人たちに
盗賊の縄をほどくよう指示を出す。
さすがにドラゴンとフェンリルの前では、
逃げ出す選択肢は無いのか……
彼らは戸惑いながら様子を伺う。
「何でもいいから、魔法を使ってみてー」
巨大な獣の口から若い女性の声が出てくる事に、
調子が狂うのか拍子抜けするのか、動揺していた
ようだが―――
すぐに数名から声が上がる。
「つ、使えない!?」
「俺もダメだ!」
「身体強化だけは使えるようだが……」
ふと盗賊頭の方を見ると、彼女も手を
握ったり開いたりして、
「うへぇ……
アタイの火矢と石弾も使えなくなってるじゃん。
マジ終わってるわ」
その光景を、クロム様は目をパチクリ
させながら見ていたが、
「魔狼たちは人間の姿になる準備があるから、
いったん帰りますけど―――
またこの地に来るまで大人しく働けば、
魔法を元通り使えるようにする、という事で
どうでしょうか」
いつの間にか、ルクレさんの隣りにティーダ君が
いて、彼女の代わりというように語る。
「そやな。おそらく来年の春先くらいになるやろ。
それにもし逃げたりしたら―――
ずーっと元に戻らんままやで?」
フェンリルの言葉に、盗賊たちが身震いする。
魔力・魔法前提のこの世界……
それはどんな脅しよりも効くだろう。
「じゃあ、まあ……
お話は決まったようですし、ご飯でも
作りますか。
メル、アルテリーゼ。
手伝ってくれ」
「ほーい」
「わかったぞ」
「ピュイ!」
私の後に、人間の妻と―――
ドラゴンの姿を解除した妻、それに子供が続き、
「ウチも手伝うでー。
ティーダ、行こ」
「はいっ」
フェンリルの姿から人間の姿となった女性に、
夫(予定)である少年がその場から離れ、
「あの……さ。
ドラゴンを呼びつけたあの人は誰だい?」
女盗賊の質問にクロムは微笑み、
「あのドラゴン様の夫―――
『万能冒険者』、シン殿です。
我がケンダル辺境伯家と懇意にして頂いて
おります」
彼の答えに、ノーラは苦笑し……
「襲うとこ間違えたかぁ」
ボソリと言って天を仰いだ。