よぉ! リスナーの皆、待たせたな! クサーイモン=ニフーターの真実チャンネルの時間だ!
このチャンネルでは世界で起きている問題の隠された真実だけをお届けしているぜ! 新規さんが居るなら、チャンネルを変える前に俺の話を聞いてくれ! それから判断しても遅くはないだろう?
さて、前置きはこのくらいにしておくか。最近はどこのメディアを見ても宇宙人の話題ばっかりでうんざりする。バカなミーハー共が政府の垂れ流す嘘に騙されるだけならザマァみろと言えるんだが、事は俺たち全員の問題だから笑えないよな。
最初の問題は、北のロケットマンが性懲りもなく時代遅れのミサイルをぶっ放した事だ。これだけなら時代錯誤の、しかも遠いアジアの話だからな。
俺も適当に聞き流していたんだが、宇宙人が軌道上から攻撃したと聞いて遂にやりやがったと興奮したもんさ。北の連中の事なんざどうでも良いが、奴等はミサイルを正確無比に撃ち抜いて更に発射基地を壊滅させたらしいじゃねぇか!
なに? 死者は出ていない? あの北の大将を信じるって言うんなら好きにしろよ。嘘まみれなのは数十年前から変わらないんだ。実際には大勢の人間が死んだに違いない!
まあ北の連中の事は良いんだよ。弾道ミサイルの類いを迎撃するのがどれだけ難しいか、興味がある奴はネットで調べてみてくれ。成功率の低さにビビるぜ。
大事なのは、そんな代物を正確無比に破壊できて発射基地を一撃で壊滅させるような攻撃が出来る奴に対して、俺たちに対抗手段が無いってことだ! なのに、どのメディアも称賛するばっかりで話にならねぇ!
ん? 当事国の日本が称賛してる? 本気で言ってるなら正気を疑うぜ。なあ、今すぐに目を覚ませよ! あの国は、あの総理大臣だったか? あの女は間違いなく宇宙人のスパイだぞ! だってあり得ねぇだろう! あの来日した瞬間のハグを見ただろう? どう考えても深い繋がりがあるのは間違いない!
いや、それより攻撃だ。奴等が軌道上から正確無比な攻撃が出来ることを証明したんだ。それの何が問題だって? ちゃんと考えれば分かることさ。あの攻撃が! いつ俺達の頭上に落とされるか分からねぇんだ! だってそうだろう!? 俺達には反撃する力がないんだ! 少なくとも政府の奴等は皆尻尾を振って忠犬気取りだ!
奴等はご主人様のご機嫌のためなら俺達を平気で売り渡すだろうさ! そんな奴等に俺達の運命を任せて良いのか!? 良い訳が無いだろうが!
政府も勝てないような連中にどうやって対抗するのかって? 簡単な話だ。地下に潜るんだよ。地下の奥深くでレジスタンスを組織するんだ。ばか正直に真正面から戦うのは遠回しな自殺行為だ。
地下に潜って隙を窺うんだ。大丈夫、勝ち目はあるさ。日本で起きた事件は知ってるだろう? ああ、あの交通事故だ。バカな奴等は美談にしたいらしいが、俺は騙されねぇぞ。あんなのは宇宙人の自作自演だ!
いや、重要なのはそこじゃないんだ。あの事件で少なくともあの宇宙人は怪我をしたんだ。陰でこそこそ北の奴等が動いたらしいが、まあそれは別の話だ。
大事なのは、あの宇宙人は無敵じゃない。奴等は血を流す生き物だって事が分かったのは大きな収穫だ。
で、生き物なら殺せるって訳だ。もちろん真正面からじゃ無理だろうが、不意打ちをする機会はいくらでもある。それに自作自演だとしてもあの宇宙人は随分とお人好しみたいだからな、近付くのはそこまで難しくはない。政府の護衛がいつも付き従っている訳じゃないことも分かっているからな。
良いか? リスナーの皆。大事なことだから何度も言うぜ。奴等は血を流す生き物で、殺せるって事実が判明したんだ。もし事を起こす奴が現れたなら、俺は英雄として称えたい。本当は俺自身が行きたいんだが、俺が散ったら誰が真実を皆に伝えるんだ?
後継者はいつでも大歓迎だ。俺を震わせるような奴が現れたら、喜んで後を任せて宇宙人共に派手な花火を打ち上げてやるがな。
そうそう、例の彗星騒ぎなんだが可笑しな事だらけだろう? 優秀な学者さん達が今の今まで発見できなかったのは理解できない。
統合宇宙開発局には知り合いも居るんだが、そいつも首を傾げてたよ。じゃあ、真実は何だ?
簡単だ、宇宙人が俺達を恐喝するための自作自演だったんだよ! それなら辻褄が合うと思わないか? 少なくとも俺は思うね!
じゃなきゃ直ぐに対応できるわけ無いよなぁ!? あんな大質量を直ぐに破壊するなんてあり得ない話だからよ!
世間じゃ俺をイカれたヒッピー野郎と呼んでいるらしいが、好きにしな。いつか分かるんだ、俺が話していたことは全て真実だってな。だが、宇宙人共の奴隷になった時に気付いても遅いんだ!
俺は陰謀論者でもなけりゃヤクもやってない! 俺はこの国とリスナーの皆を心から愛している男だ! それを断言しておく。
良いか? 地球は俺達のものだ。今こそ団結して侵略者を追い払う準備を始めるんだ! 頼りにならねぇ政府じゃなくて、民衆の力が支配者を追い払う! これは歴史が証明しているんだ! 騙されるな!真実は、目の前にある!
クサーイモン=ニフーターの真実チャンネルを今後も宜しくな!
「陰謀論者もここまで突き抜けたら幸せ者ですな、室長」
「私は悲しいよ、ジャッキー。主義主張の自由は保証されているから、彼の活動そのものに抗議するわけにはいかない。しかし、悲しいのは彼に賛同する人間が少なからず存在することなんだ。これでは、ティナの頑張りが報われない」
「人は陰謀論を好む傾向にありますからなぁ。それと視聴者の分布を見てみましたが、ティナ嬢とは無縁の地区ばかりですな」
「つまり、ゴシップ感覚だと言うのか?」
「大半はそうでしょうな。しかし、問題は一部です」
「ふむ、なにか私達に出来ることは無いだろうか」
「室長がその気になれば実力行使も選択肢に加わりますが」
「冗談は止してくれ、ジャッキー」
「ならば政府を動かす他ありません。しかし問題は、政府すら彼の所在を掴めていないと言う事です」
「アリアならば居場所が分かりそうなものだが」
「あるいは泳がせているのかもしれませんな」
「確かに、アリアがティナの危機を放置するとは思えない。ならば私達は静観するだけか」
「室長はティナ嬢の活動を支えてあげてください。彼女がもっとも信頼する地球人は貴方です。手を汚す必要はありません。裏方はお任せを」
「……済まない、君には負担ばかりかける」
「私の祖先はサムライだったのだとか。ならば、私は主人に忠義を尽くすことで父祖の想いを継ぐだけですよ」
「……ありがとう、ジャッキー。直ぐに誤解を解くよ」
「時間だ、面会時間は終わりだ」
刑務官に促されてジョンは静かに席を立ち面会室を後にする。ジャッキー=ニシムラ(うさみみハイレグ忍者)と留置場での面会の一幕である。