ゴールデンウィークに一作は
出さなければ、と躍起し季節遅れな
作品が出来上がりました。
ぜひ読んでみてください。
ATTENTION
irxs・nmmn 青桃
ルールを理解している人のみどうぞ。
地雷さんはturn right
「春の終わり」
散りゆく桜を見上げ、君は泣いていた───。
「やっほー!」
チャイムが鳴り、元気な声が聞こえる。
ないこだ。
玄関でドアを開け、我が家へと招き入れる。
「今日は何の動画取るんだっけ」
「えーっと、なんだっけ」
忘れちゃった、とないこはへにゃっと笑う。
かわいい。
「飲み物出すね」
「ありがと」
こうやって会えるだけ──ってか一緒に活動できて嬉しい。
最高のリーダーだと思う。
ポロン、とスマホが鳴る。
画面を見ると、
『今日の動画伸び最高!』
とないこからのメッセージだった。
この前撮った動画は、事前に募集しておいた質問に答える動画。
プライベートが知れるかも、とか思いが知れるかも、なんて思って見ているリスナーが多いのかもしれない。
『撮ってよかったな!』
そう送る。
すると、すぐに返信が返ってくる。
『だなっ!』
かわいいなあ。
そう思いつつも、かっこよさも兼ね備えてるんだよな、と感嘆のため息を吐く。
やっぱ、勝てないわ。
そのあと、少し時間ができたのでエゴサをしていた。
たくさんの投稿を見る中、フォローしている人が投稿をしたらしい通知が来た。
開くと、「ハル」だった。
『もうすぐ桜が咲きますね 俺もあと少しで』
そういう文と、桜を下から撮った写真。
文末が何とも言えない。
ただ、写真を撮るセンスはある。
ないこ、なんでもできすぎだろ。
──「ハル」は、ないこだ。
そのことはたまたま知った。
まさか別の垢があるとは思っていなくて、少し驚いたことは忘れない。
俺の見る専垢で見ているが、意味深投稿が多い。
今のような、普通にも感じるけど違和感も併せ持つもの。
気丈に振る舞っているように見えるけど、本当は何か抱えているものがあるんじゃないか。
そうやって見ているが、今のところ何も見つかっていない。
何かあるなら、俺を頼ってくれないかな。
俺は、ないこが────。
『お花見しよ』
ないこからのメッセージ。
俺は『いいよ』と返す。
すぐに既読がつき『今空いてる?』と返ってくる。
今は少し、動画編集が残っているけど…ないこのためならそれくらい後回しにできる。
『空いてる』
その後のやりとりで、場所は近くの公園に決まった。
「急にごめんね〜!」
ないこが、公園の入り口から走って来る。
俺の方が早く着いていた。
昨日まで満開だった桜は、今日はもう風に乗ってはらりと散っていく。
気付いたらないこの頭の上に花弁が乗っていて、なんだかおかしくて笑みが溢れるのを堪えられなかった。
そんな俺にないこは、冗談混じりで怒った。
「俺から誘って何だけどやっぱ帰るわ」
「なんでだよ!帰るなよ!」
「帰るわけないって。嘘嘘。」
いひひと言わんばかりに、いたずらっ子のように笑った。
そんなないこは、徐々に落ち着き、おもむろに桜の木を見上げた。
「もう散っちゃうんだね」
唐突だった。
「そうだね」
そう返すことしかできなくて、むず痒い。
でも、ないこは何も気にしていないようで、ぽつりぽつりと、言葉を紡いだ。
「なんか今、凄い満足してる」
「めちゃくちゃ楽しかった」
「みんなに出会えてよかったよ」
「あのね、まろ」
「俺、桜が散ったら消えちゃうんだ」
はらはらと、桜が散っていく。
散りゆく桜を見上げ、君は泣いていた──。
あまりにも綺麗で。
あまりにも儚くて。
あまりにも脆くて。
時が、このまま止まってしまえばいいのに──。
急に強い風が吹いた。
辺り一面が、桃色に包まれる。
所々から楽しそうな声がする。
「今まで言えなくてごめんね」
「ありがとう」
桜が、どんどん散っていく。
例年と違って、一瞬で散っていく。
体が透けて、君まで桃色に───いや、ないこは桃色だ。
違和感があり、違和感がない光景。
気付けば、その景色は滲んでいた。
さっきよりも強い風が吹く。
その風に乗って、ずっと聞きたかった声が届いた。
「──大好き」
返したい言葉があったのに、喉につかえて出てこなかった。
桃色の花弁の全てが地面に落ちた。
春が、終わった。
コメント
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ちょっと泣いちゃったじゃないっすか。 相変わらず分書くのうまいっすね、儚!