フムフムと牧師の和也は鼻を鳴らした
「え~・・・次に~・・汝伊藤アリスは、この男成宮北斗を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も・・・(省略)あ~・・・・神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?って・・・婚姻届けはまだだよな? 」
和也はもう一度眼鏡を下げて裸眼で、北斗に問いかけた
「それは後日用意する。ただ今は誓いの言葉で俺達を夫婦として祝福してくれ」
コホンッ「で・・・誓いますか?」
眼鏡を下げた和也にギロリと睨まれる
ここで?誓いの言葉を言うの?アリスは目が点になった
真夜中の結婚式・・・
イエスキリストの祭壇の前で・・・下にパジャマを着た牧師の誓いの言葉・・・
新郎の彼はタキシードどころかトレーナーだし、私はお花すら手に持っていない、立会人は初対面の五つ子だけ・・・
なんとも奇妙な結婚式だ
それでも・・・・
アリスは新郎の彼をじっと見つめた。イエスキリストのステンドグラスの明かりが彼に反射している
琥珀色の瞳をきらめかせて、肌を黄金とバラ色に染めている
彼もこちらを向いて目は語っていた
― 今夜 ―
*゚..。. .*゚:.。
二人は目線で初夜の神聖な約束を交わしていた
これが終われば明日の朝まで私と北斗さんは・・・・
思わす期待に心が躍る
「誓います 」
アリスもハッキリ言った、アリスの体に奇妙な戦慄が走った
彼も同じ戦慄を覚えているか、たしかめようとしたものの、抑えた切なさのようなものが見て取れただけだった
「誓いの指輪は? 」
「ああ・・・クソッ 」
彼はそうつぶやくとジーンズのポケットから、何やら取り出して、アリスの前に差し出した
「その・・・時間が無くて・・今はとにかく・・これで、宝石商の娘の君には絶対ふさわしいものを用意するつもりだ。金はいくらかかっても惜しまないでも・・・おれは・・・ 」
アリスは彼の手の平の小さな指輪を見つめた
それはアリスの誕生石である、大ぶりのサファイアを中心に、周囲をダイヤモンドで囲んだものだった、アリスは目を皿にしてそれをマジマジと見た
この宝石のカット製法、ダイヤモンドの配置、普通の人ならわからないがアリスにはわかる。中心からわずかにダイヤの大きさとカットが違い、それを見事な微量で美しく配置している
まさにこの指輪には色んな技術が詰め込まれていた。小さいころから宝石を見て来た、アリスの目利きにかなっても間違いなくこの指輪は物凄く高価なものだ
「・・・これは?・・・ 」
アリスは口をポカンと開けたまま、指輪と北斗を交互に見た
「俺の・・・・死んだ母の形見だ・・・」
そんな大切なものを私に?アリスはなぜか感動した。彼がそこまで思ってくれていたなんて・・・そして無防備にもずっとこれをジーンズのポケットに入れてたの?落したらどうするつもりだったのだろう
うれし涙と笑いが溢れてくる
グスッ・・・「はい・・・ 」
上目づかいで今すぐはめろと左手をピンッと伸ばして差し出した
あきらかにホッとした彼が、恐る恐るアリスの薬指にはめた。少し大きいが落ちるほどでもなかった
ありがとうと瞳を輝かせて彼を見る
切なそうに顔をゆがめた彼が、アリスの両手をギュっと握りしめ、居てもたってもいられず手を引っ張って、アリスを自分に引き寄せた
二人は熱く見つめ合った。お互いの熱で礼拝堂の温度が上がったような気がした
コホンッ「え~・・・それでは・・・・誓いのキスを・・・ってこらっうるさいぞ!お父さんの仕事の邪魔をするな!」
五つ子にクスクス笑いをされながら観察される中、彼が祭壇の前で身をかがめて来てアリスにキスをした
キャー――――ッ
「キスしたぞぉ~~~! 」
「うえ~~~~~っ 」
「おげれつ〜〜〜〜 」
「えんがちょ〜〜〜!」
キャーッとキスに反応した観衆席の五つ子が、はしゃいでアリス達の周りを右往左往している。思わずアリスも恥ずかしくて真っ赤になる
「こら~~~!礼拝堂で暴れるな!! 」
「それじゃ和也!またな 」
「お布施はイノシシ肉でいいぞこいつらが好きなんだ 」
「イノシシッ!」
「イノシシッ!」
「イノシシッ!」
「イノシシッ!」
「イノシシッ!」
彼らの会話が本気なのか冗談なのかまったくわからない
ことが済めばこんな所は1秒だって居たくないと、ばかりに北斗はアリスの手を引っ張って、礼拝室を飛び出した
和也と五つ子が教会の玄関口でアリス達に手を振った
アリスもぐいぐい北斗に手を引かれながらも彼らに手を振り返した
しばらく手を振ったのちこれでやっと寝かせられると和也は、子供達を引き連れて住居に帰って行った
アスファルトではない土の地面にハイヒールではうまく走れず、手を引かれているアリスはつんのめりそうになった
それに気づいた北斗がアリスをお姫様抱っこをしてずんずん車まで運んだ
なんだかここへ来てからずっとおかしくてアリスはクスクス笑っている
美しい夜だった
とても寒いけど夜空は晴れて雲一つない、星は都会では見たこともないほど無数に輝き、月は蛍光ペンのように輝いてる
クスクス・・・・
「今度はどこへ行くの?」
白い息を吐いて笑いながらアリスは彼の首に腕を回し、しかめっ面をしている彼の顔をのぞきこんだ
今さっき夫になった人がアリスの唇を戯れにチュッと吸った
「俺の東屋へ君を連れて帰って、初夜を迎える」
月光に照らされた小道を彼に抱えられながら、アリスの体に期待が高まった
彼は砂利の音をザッとさせて、立ち止まってアリスをじっと見た
彼とまた目が合い、アリスは会話能力を失った
彼の真剣な眼差しがまっすぐアリスを見つめる
瞳は月明かりに光る剣のような色だった
ほとんど黒に近い、濃い琥珀色の目が突き刺すようにアリスを見ている
彼はアリスの唇に視線を落としこう言った
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