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ライブ三日前の早朝。
俺は家を出た後に学校に連絡して仮病を使った。
そのまま【シード機関】へと足を運ぶ。残り三日間は集中してレッスンしたり、とにかくライブに備えて万全のポテンシャルとコンディションを整えたかったのだ。最後の一日はライブ直前で下見もあるだろうし、ダンスの最終確認を軽くして、あとはじっくり休む。
そんなスケジュールをこなす前に、俺は一つやらなくてはいけない事が増えた。
それは星咲を母に紹介するというミッション兼アイドル活動のカミングアウトだ。母は彼女ができたと誤解しているが、その辺も一緒に解く予定だ。
午前中から『銀白昼夢』を発動し、銀髪幼女になって【シード機関】のトレーニングルームでダンスの特訓に励む。
その後は星咲と合流し、夕方には元の姿に戻って家の前にいた。
「星咲……準備はいいか?」
「ん? もちろんだよー」
いつも何気なく空けるドアが異様に重い。
「鈴木くん、何をそんなに緊張してるの?」
「いや、ちょっとな……」
これから、自分が幼女になれると家族にカミングアウトするのだ。しかもアイドル活動もしたい、だなんて告げるのに緊張しない奴なんているだろうか。
「大丈夫だって。ボクが魔法少女アイドルは素晴らしいものだって、全力でレクチャーするからね!」
「お、おう……なんかこんな事に付き合わせちまって悪いな」
「いいのいいの、鈴木くんのためにボクは在るんだから」
「おまえはまた……」
にこやかに微笑む星咲を俺は直視できなかった。
こいつはいい奴だ。
トップアイドルって事を鼻にも掛けず、底辺アイドル候補生の俺なんかの世話を焼いてくれる。そんな純粋で善良な奴を、親の説得のために利用している自分が少し嫌になる。
「この借りは必ず返す」
「気にしなくていいって。ボクと鈴木くんの仲でしょ?」
ギュッとさりげなく俺の腕にひっつく星咲。
今回ばかりは大目に見てやるか、って気持ちになりかけて俺は思い直す。こんな姿を母が目にしたら、本当に星咲が俺の彼女だと勘違いしてしまう。
だから星咲を払いのけようとするが――
「吉良、なに家の前で突っ立ってるの。さっさと入りなさい、みっともないわね」
顔だけで振り返ると、そこにはスーパーのビニール袋を持った母さんがいた。袋からネギの頭が飛び出してる、なんてどうでもいい内容が頭の中を巡る。
「あらあら。そちらが今日、紹介してくれるって言ってた彼女さんかしら」
もちろん母さんからは星咲が俺にしがみついている後ろ姿は見えているわけで……。
「か、彼女……?」
母さんの発言に星咲はビックリしたネコのように背筋を伸ばし、ピクンとして俺の方を見る。顔が夕焼けみたいに真っ赤に染まった星咲に、『これは、違って、母さんが勘違いを』と必死に小声で弁明をすると、すぐに赤みを引っ込めて代わりにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
それからクルリと母さんの方へと向き、爽やか過ぎる正統派美少女に表情が豹変した。
「鈴木くんのお母様ですね。わたしが彼女の星咲永留と申します」
日本全国のみなさんを虜にする神々しい微笑みを炸裂させながら、ぺこりとお辞儀をする星咲。
「おまっ、彼女って何言って! って、母さん!?」
俺のツッコミは母さんが腰を抜かした事で中断せざるを得なかった。
「あの、ぶっきらぼうで非モテの代表格みたいな吉良に……こんなに可愛いアイドルの彼女ができるだなんて……」
驚きで母さんは道端でお尻を着け、感涙していた。