テラーノベル
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篠原愛紀
#独占欲
さかのぼること、数時間前。 会社近くの焼き肉屋。ジョッキがぶつかる音と肉の焼ける香ばしい匂いが漂う中、佐藤の絶叫が響き渡った。
「はあああぁ!? フラれたぁ!? マジかよ! お前みたいな、顔面スペックSSR級のヤツですら瞬殺されたってのかよ!」
「主任は、今は誰とも付き合う気なしっすよ。……俺、食い下がったけど『101番目』すら空いてなかったっす」
王子谷は苦笑いしながら、ビールを喉に流し込んだ。ショックを受けているはずなのに、その横顔は驚くほど晴れやかだった。
「……でも、なんか吹っ切れた顔してるな」
僕が言うと、王子谷は深く頷いた。
「俺、今まで自分から好きになったことがなくて。女子から告白されて、断りきれなくて何回かデートしたことはあったけど……でも主任は、初めて俺から好きになった人で……」
(……なんだこの澄み渡った空気は。映画のクライマックスか? 焼肉の煙さえ、なんだか神聖なエフェクトに見えてきたぞ)
「青春ドラマだな、おい。……まさかお前、そツラして『経験なし』とか言わねえよな?」
佐藤がニヤニヤしながら、網の上のタンを裏返した。
「……俺……その、まさかっすけど」
王子谷は耳まで真っ赤にして、消え入りそうな声で俯いた。
「え?」
僕は箸を止めた。
「ぶっ!!」
佐藤が口に含んだハイボールを、豪快に吹き出した。
「ええええええええええええ!!おま、嘘だろ!? そのツラで!? まさかの『DT』かよぉぉ!!」
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