コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それからマナから電話をかけてくることも、会いに来ることも2度となかった。その代わりに、世良さんが電話をかけてきたり、呼び出されて会ったりしていた。
そしてある日のこと、世良さんと2人で駅前の居酒屋で飲んでいると、結婚式の招待状を手渡された。
「本当に申し訳ないんですけど、行けません。欠席させて下さい」
俺は世良さんからの招待状を頑なに受け取らなかった。そんな俺の態度を見て、世良さんは複雑な表情をしていた。
「私は是非にでも出席して頂きたい。それはマナちゃんも同じだよ」
「それはマナの意思ですか?」
「言わなくてもわかるよ。2人はよく似ているから。一応出席ということにしておくよ」
「俺は行きませよ」
「好きにすればいい。でも、マナちゃんには明石くんは出席すると言っておくよ。きっと飛んで喜ぶんだろうなぁ」
世良さんは、普段なら決して見せないような嬉しそうな顔をして笑っていた。
そして何事もなく月日は流れ、マナの結婚式の6月13日まで2ヵ月を切ってしまった。俺が仕事づくめの毎日を送り、特に変わったこともなく日々を過ごしている中、マナは世良さんと一緒に生活をして同じ時間を過ごしている。毎日のように世良さんに抱かれて少しずつ世良さんのものになっていく。いや、もう世良さんのものになってしまっている。1年前のあの事故の前までは、誰のものでもない俺だけのマナだった。ずっと死ぬまで一緒のはずだった。それなのに今は―――。
プルルルル―――プルルルル―――
『明石くん、話がある。今、大丈夫かい?』
『はい』
仕事から帰って、書斎で勉強をしていると世良さんから電話かあった。世良さんの声は、いつもよりトーンが低く、元気がないように感じられた。
『マナちゃんのことで聞きたいことがあるんだ』
『何ですか? すごく深刻そうですけど』
『私に出逢う前、マナちゃんは婚約していたんだね?』
『そうなんですか? 初めて聞きました』
『そうかい、明石くんは聞いたことはないと言うんだね?』
『勿論です』
『だったら教えてあげるよ。マナちゃんが婚約したのは、実は1度だけじゃないんだよ』
『そうなんですか――ビックリです』
まさか全てを知られてしまったのか――。
驚きと疑惑が交差する中、動揺しているのを悟られないよう慎重に声を発した。
『1人目は荻野さんという方だ。不幸にも彼は事故で亡くなってしまっている』
『そうだったんですか――』
世良さんは全てを知っている。俺は確信した。もう逃れられない。
『そして2人目はマナちゃんの高校からの親友で、ずっと傍で何食わぬ顔をして支え続けてきた人物――それは、あかっ――』
『俺ですよ! 2人目の婚約者だったのは―――黙っていたのは謝ります。でも俺とマナの関係を知られて、世良さんに気を遣ってもらいたくなかったから』
『いいのかい? 私とマナちゃんが結婚しても?』
『まっ、まぁ――』
『いい訳ないだろ! 君の気持ちはそんな簡単なものだったのか!』
世良さんは怒鳴りつけるようにそう言った。