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第六章 生徒会
午後の生徒会議は滞りなく進んだ。——瑠夏以外にとっては。
瑠夏の議事録を取る手が三回止まった。
視線の先はずっと私。会議中に他の役員と話すたび、瑠夏のペンを握る力がきつくなる。
書記担当の七瀬のノートには綺麗な字と、ところどころ潰れたインクの跡が混在していた。
瑠夏の笑顔での圧によって。
会議が終わり、役員たちが次々と席を立つ。部屋に残ったのは私と瑠夏だけになった。
パタン、と書類を閉じた。
「……ねえ。」
椅子ごと私のほうに体を向けた。
「さっき書記の七瀬と笑ってたでしょ。何の話。」
「それは、普通に……。」
瑠夏の目がすっと細まった。
「普通に、なに。」
七瀬というのは二年の男子役員で、真面目で大人しいタイプの生徒だ。笑ったのは議題の合間の雑談程度のこと。
だが瑠夏のフィルターを通すと全てが「脅威」に変換される。
瑠夏が机に肘をついて、私との間を詰める
「七瀬、最近ナナのことよく見てるの知ってる。」
瑠夏がコクリと頷く。
「私が気づいてないと思った?」
思うわけがない。瑠夏は校内の私の監視システムのようなものだ。
瑠夏が指先で私の机をとんとんと叩きながら、
「ナナは鈍いから困る。……七瀬だけじゃないけど。」
「えぇ!?」
ため息ひとつ、瑠夏はついた。
「……自覚なさすぎ。」
生徒会長として人前に立つ機会が増えたナナは、以前にも増して注目を集めている。
「ナナ先輩可愛くない?」「歌声聴いてみたい」
——そんな噂が学年を超えて広がっていることを、当の本人だけが知らなかった。
トン、と机をトントンするのを止める。
「だから私が隣にいないと困るの。」
「うん、瑠夏ちゃんのこと好きだからずっと隣にいるよ!」
瑠夏が一瞬、目を丸くして——それからふわっと表情が緩んだ。
嫉妬も警戒も全部吹っ飛んだ。たった一言で。
「……ずるい。そうやってすぐ。」
瑠夏の手が伸びて、机の上で私の指にそっと絡んだ。
「帰ろ。」
「うん!」
夕暮れの通学路。桜並木が夕陽に染まっていた。二人の影が長く伸びて重なる。
瑠夏が繋いだ手にきゅっと力を込めた。
「今日の約束、忘れてないよね。」
――家に行ったら痕をつける。あの屋上での宣言。
瑠夏がちらっと横目で私を見ている。
「……首がいい。」
「な、なんのこと?忘れチャッタナー。」
瑠夏が足を止めた。
私も引っ張られるように立ち止まる。夕風がツインテールを揺らした。
瑠夏がニコッと笑った。完璧な笑顔だった
「ふーん。忘れたんだ。」
笑っているのが逆に怖い。瑠夏の空いた手がゆっくり私の顎に添えられた。
「じゃあ思い出させてあげる。――今すぐ。」
「ふぇ?」
路地裏に引き込まれたのは一瞬だった。桜並木から外れた人気のない細道。
夕陽が建物の影に遮られて薄暗い。
瑠夏が壁際に私を追い詰めて、額をくっつけた
「逃がさないって言ったよね、私。」
息遣いが近い。身長差16センチ。見下ろす瑠夏の瞳に夕焼けの色が映り込んでいた。
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