私はふと思い出すことがある。
いつも公園のベンチに座っていた。
日向のような笑顔で
たわいのない話をしてくれるお爺さんを。
ギィィィー、ガチャン
ゆっくりと扉をしめる。
私は毎朝6時からランニングをしている。
家から近くの公園を走り、一周して戻ってくるよくあるようなランニングコース。
その公園にはポツンとベンチがある。
私はそのベンチに座って少し休憩する。
そして、また走り出す。
そんなランニングを毎日繰り返している。
「おはよう」
ベンチに座っているお爺さんに声をかける。
「おぉ、おはよう。朝からお疲れさん」
そのお爺さんはニコニコしながら答えてくれた。
「お爺さん、今日も朝早くから散歩してたの?」
このお爺さんは毎日このベンチに座っている。
私が来るまでに、いつも来て座っている。
「あぁ。咲良さんもいつもこんなに朝早くから走っていて、眠たくないのかい?」
「眠たいけど、痩せたいからダイエット!」
「痩せたいからと言ってやり過ぎはやめときなさい。いつか倒れてしまうよ」
「分かってるよ」
「それなら良いんじゃだが…」
そんな会話などをしてうちに戻り、私の朝のランニングは終わる。
「お爺さ〜ん!」
「おぉ。咲良さん、どうしたんじゃ?そんな大声で」
「昨日言ってた、国語のテスト思ってたより良い点数だったんだ!」
「それは良かったなぁ〜」
「平均点より上の74点‼︎最高点!」
「咲良さんは国語は苦手だったっけかなぁー」
「そうそう。それで今回、めちゃくちゃ頑張ったんだから」
「お爺さん…おはよ、、」
「お〜ぉ、今日は眠たそうだなぁ」
「昨日夜遅くまで、友達と電話してたら2時過ぎだったから、眠たいのぉ…、」
「健康に悪いから、今日は早寝なさいよ」
「分かったぁ〜、、ふぁ〜ぁ、」
「お爺さん。これ、お見上げ。あげるね」
「これは何かの〜」
「昨日行った、京都校外学習のお見上げ。」
「これは…」
「持って帰るのに、大変じゃないものを考えたら、キーホルダーしか思いつかなくて…」
「ありがとなぁ、」
「その八つ橋のキーホルダー、私とおそろなんだよ」
「おそろとは…。はて、なんのことじゃろう」
「同じものを持ってるってこと」
「そうかぁ、そうかぁ。わしと咲良さんはおそろなんじゃなぁ〜」
「うん。そうだよ」
「お爺さん…」
「どうしたんじゃぁ」
「あのね…!あの部活の試合で、、私失敗しちゃって負けちゃった…‼︎」
「そうか、」
「頑張ったんだけど、後もう少しだったのに…!」
「咲良さんのお友達もきっと分かってくれておるよ。咲良さんはいつも人一倍、頑張っておるんじゃろ。きっと大丈夫じゃ。」
「うん…」
「その代わり、次はもっと上手くなって今を越せるように頑張りなさい」
「うん、!」
「お爺さん、そう言えば名前なんて言うの?」
「阿部晴雄だ」
「若いあの俳優さん。えっ〜となぁ、阿部、、阿部…、」
「阿部ライ?」
「そう!その人と同じ阿部じゃ」
「へぇー」
「家もここから近いんだぞ」
「お爺さん、今日体育大会なんだ」
「ほぉ、咲良さんは何に出るんじゃ」
「100メートル走とリレー!」
「2個も出るのか…。すごいのぉ」
「へへっ、頑張ってくるね」
「あぁ、行ってらっしゃい」
「行って来まーす」
色んな会話をした
それは、毎日飽きることのない会話
でも、いつの日かお爺さんは来なくなった
最初は風邪かなと思っていたが、3週間続くと、もしかして…と思ってしまう
お爺さんも歳だ
思いたくはないが
いつ、亡くなってもおかしくはない
それでも、私はランニングを続けた
また、お爺さんと会えると淡い希望をのせて、毎朝走り続けた
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!