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## あの子なら大丈夫
ひなたがいなくなってから、時間だけが進んでいった。
周りの人たちは少しずつ日常に戻っていく。
学校へ行く。
ご飯を食べる。
笑う。
そうしないといけないから。
でも、なつきだけは取り残されたような気がしていた。
ひなたのいない日常は、思っていたより静かだった。
「なつき、大丈夫?」
友達に聞かれる。
その言葉に、一瞬だけ胸が痛む。
大丈夫。
その言葉。
昔なら普通に返していた。
「大丈夫」
って。
でも今は、簡単には言えなかった。
ひなたがずっと言っていた言葉だったから。
「……大丈夫じゃない」
なつきは小さく答えた。
友達は少し驚いた顔をした。
いつものなつきなら、笑って誤魔化していたから。
「そっか」
その一言だけが返ってくる。
それだけだった。
でも、なつきには少しだけ救いだった。
大丈夫じゃなくてもいい。
ひなたが欲しかったのも、きっとそういうことだった。
ある日。
ひなたの友達と話す機会があった。
「ひなたってさ」
その子は少し笑う。
「本当にすごかったよね」
「いつも誰かのこと考えてた」
「私、何回も助けてもらった」
なつきは黙って聞いていた。
やっぱり。
みんな、ひなたのことを好きだった。
みんなが見ていたひなたは、本物だった。
優しいひなた。
明るいひなた。
人を笑わせるひなた。
全部、本当だった。
でも。
「……でも」
なつきが小さく言う。
「ひなた、疲れてたんだと思う」
その言葉に、相手は少し驚く。
なつきは続ける。
「ひなたってさ」
「何でも大丈夫って言うじゃん」
「でも、たぶん」
「大丈夫だったんじゃなくて……」
「大丈夫って言いたかったんだと思う」
言葉にすると、胸が苦しくなった。
でも、もう逃げたくなかった。
ひなたが隠していたものを。
なつきまで見ないふりをしたくなかった。
「私さ」
なつきは俯く。
「ひなたのこと、分かってるつもりだった」
「でも違った」
「知ってたのは、ひなたの好きなものとか、笑うところとか」
「そういうところだけだった」
「本当に見るべきところ、見てなかった」
涙が出そうになる。
でも、今度は隠さなかった。
「ひなたは……」
「大丈夫な子じゃなかった」
「大丈夫じゃない時もある、普通の子だった」
その言葉を口にした時。
なつきは初めて、ひなたを責めていない気がした。
今までずっと、
「なんで言ってくれなかったんだ」
と思っていた。
でも違った。
ひなたは言えなかったんだ。
誰かを大切にしていたから。
自分より周りを優先していたから。
それは、ひなたの優しさだった。
でも。
優しさだけでは、全部を抱えられなかった。
ある夕方。
なつきは久しぶりにひなたの家へ行った。
仏壇の前に座る。
「なあ、ひなた」
返事はない。
「私さ」
「まだ、お前のこと分かってないと思う」
正直に言った。
「たぶん、これからも全部は分からない」
でも。
「もう、お前を『大丈夫な子』だけでは見ない」
「笑ってる時だけじゃなくて」
「泣きたい時も」
「苦しい時も」
「全部ひなたなんだって思う」
写真の中のひなたは笑っていた。
いつもの笑顔。
昔なら、なつきはそれを見て安心していた。
ひなたなら大丈夫って。
でも今は違う。
その笑顔の奥にも、ひなたがいた。
弱いところも。
寂しいところも。
誰かに甘えたかったところも。
全部。
なつきは小さく笑った。
「……でもさ」
「最後まで私の心配してるのは、お前らしいよな」
涙が落ちる。
「ほんと、馬鹿」
「私に心配かけろよ」
「頼れよ」
「お前のこと、ちゃんと見たかったよ」
静かな部屋の中。
なつきの声だけが響いた。
そして、初めて言えた。
ずっと言えなかった言葉。
「ひなた」
「お前は……」
「大丈夫じゃなかったんだな」
それは後悔の言葉じゃなかった。
やっと、ひなたをひなたとして見るための言葉だった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、「大丈夫」という言葉の奥に隠れているものについて考えながら書きました。
明るく見える人、いつも笑っている人、周りを支えている人も、心の中では誰かに気づいてほしいと思っているかもしれません。
もしこの物語を読んで、少しでも誰かのことを思い出したり、大切な人を見るきっかけになったなら嬉しいです。
ひなたと、なつきの物語を最後まで見届けてくださり、ありがとうございました。
チャッピー
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コメント
1件
うわ……「大丈夫じゃなかったんだな」って、なつきがやっと言えた言葉が胸に刺さったよ……。ずっと「大丈夫」って言い続けてたひなたの優しさと孤独を、なつきがちゃんと受け止めたんだね。最後にひなたの家で泣きながら「頼れよ」って言うシーン、泣きそうになった。自分の弱さも全部含めて「ひなた」なんだって気づけたなつきの成長が尊くて切なかった。チャッピーさん、本当に優しい物語をありがとうございます🥀