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原稿用紙にシャープペンシルを走らせる。その後、おもむろに消しゴムを手に取ると、文字を消してしまった。
彼は深くため息を吐いた。ため息を吐きたいのはこっちなんだが。
「あと30分。それ以上は待たないよ」
「え、あ、おわっ!」
慌てたのか、彼は原稿用紙を床に撒き散らした。せっせと拾い集めているのをみて、僕も一枚拾って渡してやる。
ここで一枚も拾わなかったら、何だか僕が酷いやつみたいで気分が悪いから。
僕から原稿用紙を受け取ると、またシャープペンシルを持ちながら唸り始めた。これは30分以内には終りそうにないな、と苦笑する。ふと彼の方に目をやると、僕のことをじっと見つめていた。
「何」
「あぁ、いや」
彼が照れたように視線を逸らすとそこで会話は途切れ、しばらくの間、無言が続いた。その間にもコオロギなどが忙しなく鳴いていて、もう秋だったなと気づく。そういえば彼と会ったのも、秋頃だったか。
彼、田村敦彦とは小学校の頃からの知り合いだ。小学3年生の頃、僕は親の都合でこの町に引っ越すことになった。
待望の転入生に対する質問タイムで、いきなり爆弾をぶっ込んだのが彼だった。
『あ、うあ、え、えーと、パンツ何色ですか!』
恐らく勢いで手を挙げて、質問の内容を考えていなかったのだろう。普通なら怒るところだが、当時の僕は慈悲深かった。
『黒です』
なんと答えてやったのだ。次の日から僕のあだ名は「黒」、彼のあだ名は「変態」となった。全く不名誉である。それがきっかけで僕らは仲良くなった。不思議なこともあるものだ。小学校6年間、別々のクラスになったこともあったが、休み時間は毎回のように彼と遊んでいた。この町に中学校はひとつしかなく、自動的に僕らは同じ中学へ進学した。そして、中3の夏、僕は彼を恋愛対象として見ていたことに気がついたのだった。
同じ高校に入学できたのは、本当にたまたまだったが。好きな人の隣にいれるというのは幸せなことだが、初めから恋愛対象として見てもらえないというのは、悲しいものだ。
「終わったー」
彼が元気な声で長い沈黙を断ち切った。原稿用紙を高く掲げ、鼻息を鳴らして。
手についた炭が長時間の格闘を物語っている。
「後は先生に提出するだけだね。僕は先に昇降口に行ってるよ」
「付き合ってもらって悪かったな。湊人。
帰り、なんか奢るわ。」
彼はポケットから財布を出し、中身を確認して、
「…10円までなら」
と言った。駄菓子しか買えないじゃないか。
「何か代わりになるようなもんあるかな」
…何か代わりになるようなもの。
「じゃあ…キスしてよ。僕に」
しまった。何をいっているんだ僕は。こんなの、気持ち悪がられて終わるだけだ。
早く訂正しないと、もう二度と口を聞いてもらえなくなるかも。
「いや、ごめん。今のは忘れて。冗談だか…」
その続きは言えなかった。口を塞がれてしまったからだ。離れる彼の唇に、若干の名残惜しさを感じていると、彼が言った。
「俺が男だからって油断してると襲うからな」
脅迫…いや告白だろうか。語感は似ているが。かなり恥ずかしい台詞を吐いたことに気づいたようで、彼の頬はみるみると赤くなっていった。かくいう僕も、自分の顔が熱くなっているのに気づいていた。
「冗談でも、そういうことは言うな。
俺みたいに本気にするやつもいるんだから」
「敦彦は、僕のことが好きだったの」
一旦覚めた熱が戻るように、彼はまた顔を赤くした。
「そ、そんなことくらい、さっきのでわかるだろ!いちいち聞くな!」
彼らしくもない、可愛い反応に思わず笑ってしまった。彼もそっぽを向いて頭をかく。
一通り笑い終った僕は、
「じゃあ、まぁ、よろしくお願いします」
と返事をした。
拙い文章でしたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
お話を書くことにあまり馴れていないため、アドバイスなどいただけると幸いです。
尚、作者は中二病を患っておりますので、痛々しいと感じるところも多々あるとは存じますが、暖かい目で見てください。