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・・・やべ、新しい扉開いた
中♀太です。
中也が女体化です。攻めが女体化です。
もしかしたら太中に見えるかもだけど、これは間違いなく中太だから!!!!!!!!!(必死
ヨコハマの港を吹き抜ける風は、まだ少し冬の名残を含んで冷たかった。だが、ポートマフィアの最年少幹部候補と呼ばれる二人の周りには、そんな寒さを微塵も感じさせない熱量がある。
「おい、太宰。いつまでフラフラしてやがる。さっさと歩け」
呆れたような声を上げたのは、小柄な少女だ。燃えるような橙色の髪を今日は丁寧にハーフアップにまとめ、耳元には控えめな真珠が揺れている。名前は中原中也。その見た目は紛れもなく可憐な少女だが、口を開けばこの通り。立ち居振る舞いも、その拳から繰り出される異能の重圧も、並の男では太刀打ちできない「漢(おとこ)」そのものだった。
今夜の任務は、政財界の大物が集まる豪華客船でのパーティーへの潜入調査だ。 準備のために用意された控室で、中也は慣れないイブニングドレスに身を包んでいた。深いワインレッドの布地が彼女の白い肌を際立たせ、背中が大きく開いたデザインは、彼女が普段隠している「戦士」としてのしなやかな肢体をあらわにしている。
「……ったく、動きにくいったらねェな」
中也がドレスの裾を蹴り上げるようにして鏡の前で毒づいていると、背後からひらひらと手が伸びてきた。
「似合っているよ、中也。まるでどこかの国の、気が強くて手が付けられないお転婆姫だ」
包帯を隠すようにタキシードを着こなした太宰が、鏡越しにニヤニヤと笑っている。黙っていれば絶世の美少年なのだが、その手元を見ると、せっかく整えたはずのネクタイがわざとらしく緩められ、あられもないことになっていた。
「おい太宰、そのネクタイはどうした。さっき結んでやっただろ」
「ええ? なんだか苦しくて。やっぱり中也に結び直してもらわないと、僕、今すぐここで窒息して死んじゃうかもしれない」
わざとらしい溜息をついて首を差し出す太宰に、中也は「ちっ、手のかかる野郎だ」と舌打ちをしながらも、その正面に立った。
中也の身長は太宰よりずっと低い。必然的に、彼女は少し背伸びをする形になる。至近距離で、中也の指先が太宰の喉元に触れた。
「……あ」
太宰の喉仏が、小さく上下する。 見上げれば、真剣な眼差しでネクタイを整える中也の顔があった。気の強い眉、意志の強そうな瞳、そして少しだけ結ばれた形のいい唇。普段は乱暴な言葉を吐くその口元が、今は集中してわずかに尖っている。 その凛々しさと、ドレスから漂う微かな香水の香りのギャップ。
(……あ、これ、だめだ。格好良すぎる)
太宰の脳内で、何かが「ぷしゅ〜」と音を立てて蒸発した。 女になっていようが、中也の持つ「攻め」のオーラは健在だ。むしろ、ドレスという女性的な装いをしながら、中也が持つ圧倒的な精神的優位に、太宰は抗いようもなく当てられてしまった。
「よし、できたぞ。……おい、何呆けてやがる」
「……い、いや。中也、やっぱり君、僕の隣以外には行かせられないなと思って」 「は? 当たり前だろ。誰がお前みたいな面倒な野郎の首輪を握れると思ってんだよ」
中也は不敵に笑うと、太宰の胸板をポンと叩いた。その迷いのなさに、太宰はまたしても完敗を認めるしかなかった。
船上のホールに足を踏み入れた瞬間、二人は完璧な「エリート子弟」へと変貌した。 特に中也の変貌ぶりは凄まじかった。さっきまで「手前ェ」だの「ぶち殺す」だの言っていた口から、鈴を転がすような、清涼感のある上品な声が漏れる。
「あら、素敵な夜ですわね。お招きいただき光栄ですわ」
扇子を片手に、各界の重鎮たちと優雅に言葉を交わす中也。背筋をピンと伸ばし、非の打ち所のないマナーで微笑みを振りまく彼女を見て、会場中の男たちが色めき立った。 当然だ。若くて美しく、それでいてどこか凛とした気品(マフィア仕込みの圧ではあるが)を纏った少女に、目を奪われない男などいない。
壁際でシャンパングラスを傾けていた太宰は、そんな中也の姿を眺めながら、心中で猛烈な葛藤を繰り広げていた。
(……何あれ。可愛い。え、何? あの口調。中也の口からそんな音が。……あぁ、もう、あそこの議員、中也の手を握ろうとしたね? 異能で重力操作して床にめり込ませていいかな?)
太宰自身も、その美貌で令嬢たちに囲まれていたが、心ここにあらずである。無意識に女性を惹きつける色香を垂れ流しているものの、その視線の先は常に会場の中心で「女優」を演じる相棒に向けられていた。
一方で中也も、隙を見ては太宰の方を盗み見ていた。
(……チッ、あいつ。黙って立ってりゃ、そこらのモデルよりよっぽど見栄えがしやがる)
普段の「死にたい」「だるい」と溢している自殺嗜好の少年の影はない。背筋を伸ばし、貴公子のような微笑みを湛える太宰は、中也から見ても「悔しいが、俺の男は最高にいいツラをしてる」と思わせるに十分だった。
そんな二人の様子を見て、周囲の男たちは密かに察していた。 中也に声をかけようと近づく不届き者は後を絶たなかったが、彼女が太宰と視線を合わせる瞬間の、あの「誰にも入り込めない熱量」を感じ取り、賢い者たちはすぐに引き下がった。
パーティーの中盤、ダンスタイムが始まった。
「やべぇ……」
中也が、淑女の微笑みを崩さずに小声で呻いた。
「おい太宰、俺、ダンスなんてまともに練習してねェぞ」 「おやおや、重力使いともあろう者が、自分の重心のコントロールもできないのかい? これだから蛞蝓は……」
太宰は勝ち誇ったような顔で、中也の手を優しく取った。
「エスコートしてあげるよ。僕に全部預けて」
「……あ? しかたねぇな」
音楽が始まり、太宰がリードして中也をフロアへと導く。 驚いたことに、太宰のリードは完璧だった。普段のふにゃふにゃとした動きからは想像もできないほど、その足取りは確かで力強い。 中也は戸惑いながらも、太宰の肩に手を置き、彼のリードに身を任せた。
「……意外とやるじゃねぇか、お前」
「中也こそ、僕の足を踏まないでよ?」
「踏むわけねぇだろ。……お前、こういう時は頼りになるんだな」
くるりと旋回する瞬間、ドレスの裾が華やかに広がる。 至近距離で重なる視線。 言葉にしなくても、二人の間には「お前が右に行けば、私は左に」「お前が飛べば、私は支える」という、戦場で培われた絶対的な呼吸があった。それはダンスという優雅な儀式においても、完璧なシンクロ率を見せた。
会場の人々は、その若きカップルの見事なステップに見惚れた。だが、二人にとって周囲の称賛などどうでもよかった。ただ、重なる手のひらの温度と、相手の瞳に映る自分たちの姿だけが、その世界のすべてだった。
「……中也、少し空気が悪くなってきた。そろそろ逃げ出そうか」
「ああ。飽きたところだ」
最後の旋律が終わる直前、二人は誰にも気づかれないほどの素早さで、テラスの闇へと消えていった。
任務を終え、報告を済ませた頃には、夜はすっかり深まっていた。 控室に戻った二人は、速攻で窮屈な礼装を脱ぎ捨てた。
中也はいつもの黒いボルサリーノを被り、革のパンツとジャケットに身を包む。太宰もまた、いつもの包帯が見える黒の外套を羽織った。
「ふぅ……。やっぱりこっちの方が落ち着くぜ」
中也が首を回しながら、いつものぶっきらぼうな口調で笑う。
「そうだね。ドレスの中也も可愛かったけど、やっぱりこの野蛮な蛞蝓が一番しっくりくるよ」
「野蛮だぁ? 表出ろ」
そんな軽口を叩き合いながら、二人は本部の廊下を歩く。 深夜のヨコハマ。人気のない通りに出たところで、中也がふいと、太宰の手を握った。
「……っ!?」
太宰が露骨に肩を跳ねさせた。
「な、中也? 何、急に」
「あ? 何って、手、繋いでるだけだろ。文句あんのか」
「いや、文句っていうか……。こういうの、ちょっと、その、恥ずかしいというか……」
さっきまでパーティー会場であんなに堂々とエスコートしていた男が、今は耳まで真っ赤にして狼狽えている。
「ははっ、なんだよそれ。ダンスの時は、お前から堂々と握ってきたじゃねぇか。今更何を照れてやがる」
「それとこれとは別だよ! あれは仕事だし……今は、その……」
「今は、なんだよ」
中也は繋いだ手をグイと引き寄せた。 太宰の細い指が、中也の少し小さな、けれど力強い手にしっかりと包まれる。
「……今は、中也が僕に『好きだ』って言ってるみたいで、心臓に悪い」 「言ってねぇだろ。……まぁ、思ってはいるけどよ」
さらりと言ってのける中也に、太宰はいよいよ顔を覆った。
「……本当に、中也には敵わないなぁ」 「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」
言葉にしなくても、二人は知っている。 明日になればまた、互いに「死ね」「チビ」と罵り合う日常が戻ってくる。太宰は相変わらず女性を誘うような色香を振りまき、中也はそれを拳で「躾ける」ことになるだろう。
けれど、繋いだ手のひらから伝わるこの確かな熱量がある限り、二人の間に誰かが入り込む余地など、一ミリたりとも存在しなかった。
「なぁ、太宰」
「なあに、中也」
「明日、美味ぇ店見つけたから付き合え。……デートだ」
「……喜んで、相棒」
夜のヨコハマに、二人の影が一つになって溶けていく。 それは、依存も、ドロドロとした執着もない、ただ「お前がいれば完成する」という傲慢なまでの相思相愛の風景だった。