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他愛ないおしゃべりで、彼の膝の上というシチュエーションにもちょっぴり馴染んで、開かれた本に改めて目を移した。
──中身は、本を読むのが大好きな少女が、自分の思い描いた幻想の世界に迷い込んで旅をする物語で、お菓子の国やフルーツがいっぱいに実る国など、カラフルな絵付けで大人の私が見ても楽しいものになっていた。
「ここを、引いてみるといい」
貴仁さんに促され、仕掛けを引っ張ろうとして、「……あの、いっしょにやりませんか?」と、声をかけた。
「いっしょに?」と、彼が一瞬不意をつかれた顔つきをした後で、「そうだな、やろうか」と笑って、仕掛けを摘まむ私の手をそっと上から包むように握った。
彼と仕掛けを引いてみると、木から果物がいくつも落ちてきた──他にも、あちこちにいろいろな細工が施されていて、その度に「わぁ〜!」と、つい子供みたいにはしゃいだ。
「君が楽しんでくれてよかった」
「私が楽しんでるのは、あなたと二人だから……」
「そうか、それは、私も同じだ」
「……ん」
見つめ合い、どちらからともなく、唇を寄せキスをする。
いつの間にかページは最後になっていて、現実世界に戻った少女が、文学好きな少年と図書館で運命的に出会うシーンが、ページから飛び出すようにもなっていて、少年と少女を見下ろすように高くそびえる本棚に、ぎっしりと本が詰まった緻密な描写には、目を見張るようだった。
そのおしまいのページ端には、『Happily Ever After』とあって、
「これはどういう意味なんですか?」と、彼に訊いてみた。
「日本語で、めでたしめでたしというような意味だ。直訳するなら、『いつまでもずっと幸せに……』になるかな」
「いつまでもずっと幸せに……」
彼が口にしたフレーズを噛みしめる。
「……ここで、『姫と王子は、城でいつまでも幸せに暮らしました──と、いつの日にか言えるようになりたいものだな』って、かつてこの指輪を贈ってくれた際に言っていましたよね、貴仁さん」
あの時の感動がつぶさに呼び覚まされて、左手の薬指に嵌まるリングにじっと目を落とした。
「ああ、そんなこともあったな」と、彼が頷く。
「あの言葉が、本当になって……。なんだかこの絵本の世界じゃないけれど、運命を感じるみたいで……」
私の呟いた一言を、彼の揺るぎない後ろ盾の言葉がより確かなものにする。
「私は、運命が君に巡り合わせてくれたと、ずっとそう思っている」
胸を込み上げる想いのままに、彼の手に指を絡める。
手が強く握り返され、小鳥のさえずりのような軽いキスを何度かくり返す。
そうしてふと射し込む日差しに、まだ日が高いことに気づくと、彼の方も同じように感じたらしく、互いにハッとして身体を離して、
「……紅茶でも飲もうか?」「……紅茶でも飲みませんか?」
同時に口にした──。