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「え、えぇー!!!」
突然の夏帆(カホ)の報告に私はつい大きな声で驚いた。
「やめてよ、夏海(ナツミ)! 声大きすぎるって」
夏帆は少し頬を赤らめ、周りを小さく見渡し私に怒った。
「ぅうー、ごめん。」
「でも、夏帆が急に彼氏が出来たって言うけんびっくりして…」
つられて私も周りを小さく見渡し、今度は声のボリュームを落として話す。
「ここら辺はこの高校だけやし、みんな小学校から一緒やもんね」
「今更、恋愛対象にはならんよね普通」
夏帆が照れながら話す。
いつもは周りの子より達観していて大人びてるいるのに、今日はなんだか可愛い。
「でも、」
「夏帆が彼氏作らないのは変だなとは思っとったよ」
「あ、ほんと??」
「夏帆はモテるじゃん」
何回も言われ続けているだろうこのセリフに、夏帆はいつもの如く、いやいやと首を横に振る。
「夏海はどうなん?」
これは私が何回も言われ続けてきたセリフ。
「好きな人が出来たことないの知っとるでしょ」
「そこからよねぇ」
夏帆は小さく笑った。
しかし、急に真面目な顔に変わった。
「それでさ、話があるんやけど」
「え、どうしたの急に」
「これから放課後、夏海と帰る日減るかも」
夏帆と私は、親同士が小学校からの幼なじみで仲が良く、家は離れているが同じ方向だった。
その影響で子供の私達も仲が良く、登下校は小学校から高校1年生になる今まで一緒に行うのが日課だった。
「全然大丈夫だよ!私のことは気にせんで毎日帰りなよ!」
「毎日はやだよ」
「夏海とも話したい!」
「えー照れちゃうな」
「当たり前じゃんか」
少し寂しくも感じたけど、私が今まで経験しなかったレンアイというジャンルに少し足を踏み込んだ気がして無性に嬉しくなった。
「そういえば」
「彼氏って誰?」
「言うの忘れてた」
「山本蒼介(そうすけ)くんだよ」
「あぁ山本くんかー!!」
山本くんは、野球部の次期キャプテンと言われている、背が高くて坊主頭の野球少年だ。
小学校の時はクラブチームに所属していて、他の子と違い、放課後も熱心に練習に打ち込む姿が印象的だった。
「お似合いだね」
「そうかなぁ?」
「うん!」
「あ、野球部って部活終わるの遅いよね」
部活が野球部、サッカー部、吹部、剣道部の4種類だけのこの学校では、私と夏帆は帰宅部だった。
「そうなんよ」
「だから待ってる間、暇になるんよね」
その時間、お互いがお互いのことを考えているんだろうか。
「いいないいな」
「なんでよ」
夏帆はまた笑った
「カップルみたいやもん、羨ましい」
「まだまだ初心者カップルやけどね」
「あ、もうすぐHRだ。またね」
いつもより先生が教室に来るのが遅い。
その間わたしは夏帆と山本くんのことで頭がいっぱいだった。
「なぁ」
「どうしたの?」
急に中島くんが話しかけてきた
「あそこ、なんかおらんか?」
「またなんかおるの?」
「またってなんや。今度こそ本物ばい」
中島くんはオカルト好きで、席が近くになってからは私をよくからかう。
「今度はどこー?」
「教卓横のドア」
「制服姿の男が立っとる」
またかと思いつつドアの方へ視線をやる
「いる…」
ぽつんと1人、ドアの前で下を向き立っている制服姿の見知らぬ男の子がいた。
目が合った。
「どうしよう」
「目が合ってしまった」
「あーゆーのは目が合っても知らんようにしとかんといかん!」
「見えてませんってアピールになるけんな」
「絶対バレとるって」
「私こういうの初めてなんよ!」
「遅れてごめんなぁ、HR始めるぞー」
担任の森先生がニカッと笑いながら入ってきた。
「森セン、ニヤついとるな」
「ねぇまだおるよ、森先生は気付いとらんのかな?」
森先生は淡々と諸連絡を済ませ、急に黒板に字を書き始めた。
「よしだ、」
「ひかる?」
吉田光 と書かれてある。
「今日からこの学校に転校生が来たんよ」
「あ、ごめんまだ廊下におったんやね」
ザワつく教室の中、森先生は廊下に出て男の子を中に入れた
「吉田光(ヒカル)君です!今日から仲良くしような!」
朝言った自己紹介できる?と小さな声でヨシダヒカル君に言うが、元の声が大きすぎて後ろの席の私にまで聞こえる。
すると、ヨシダヒカル君も頷き、前に出た。
「吉田光って言いますー!!」
声が大きくてびっくりした。
そして、イントネーションが変…?
「関西から親の転勤で引っ越して来ました!俺バスケ得意やからしようなぁ!」
ザワつく教室がもっとザワザワした。
「ヒカル、おもろい奴やなぁ」
中島くんがぼそりと言う
森先生はヨシダヒカル君の肩に手を置いて、これまた大きな声で言う。
「昼休みとか体育館使えるから皆でしたらいい!」
すると突然、中島くんが声を上げた。
「森セン!俺の横空いとる!」
「お!あの坊主頭の横行きな 」
「ありがとうございますー」
ヨシダ君は先生に従い、歩き始めた。
後ろの席は4つで、空席が2つあった。
外の窓から空席、中島君、空席、私という順番だ。
ヨシダ君は中島くんと私の間に座った。
「よろしゅーな!」
ヨシダ君は私に元気よく声をかけたあと席に座った。
私もよろしくねと言った。
そして、お化けと思ってごめん…と心の中で呟いた。
HRが終わったあと、皆ヨシダ君に集まった。
「関西弁喋ってー」
「関西のどこなんー?」
「家どこー?」
たくさんの質問に、戸惑うことなくヨシダ君は答える。
「家はなぁ、青いアパートの横の長い坂登ったとこやで」
「そこ夏海んちのそばじゃね?」
「ほんまに?」
急に私へ話題が振られた。
「あ、うん。もしかしたらご近所さんかも」
「俺ここまだ分からへんね」
「周りが全部同じやし道迷う気すんにや」
「なら、一緒に帰ろうか?」
「え」
ヨシダヒカル君は驚いた顔をした。
失敗したと思った。
でも、話の流れ的にこう言うしかなかった気もする。
「ええの?」
「え」
「いいよ」
思いがけない返事に私は恥ずかしくなって目を逸らした。
「良かったな!ヒカル」
「転校初日から女子と帰れるやん」
中島くんはヨシダ君の肩を組んで笑顔で話す。
「ほんま助かるわ〜、ありがとうな」
「うん、全然いいよ」
まだ恥ずかしくて顔を見れない。
「あ、ヒカル」
「ここバスケ部ないの知っとった?」
「ない学校とかあるん!?」
その後は中島くんとヨシダ君、そして周りの男の子達と盛り上がっていた。
昼休み
「夏海も大胆やね〜」
夏帆がニヤニヤしながら言う。
「一緒に帰るくらいするでしょ」
「ヨシダ君も良い人そうやし良かったやん」
「ちょうど一緒に帰る人見つけられて私も嬉しい」
「確かに…」
「今日からよね?」
「え、何が?」
「一緒に帰るのだよ!」
「あ、そうじゃん!!そういえばそうなる…」
「でもあれから全然話してないよ?」
「夏海から帰ろうって言いなよ」
「ヨシダ君まだ緊張してるんじゃない?」
「頑張ってみます」
男子に話しかける事は全然大したことないのに、なぜかヨシダ君だと緊張する。
「頑張るぞ」
小さな声で言った。
あれからもまた話せなくて、というか話す隙がなくて結局放課後になった。
夏帆は無情にもそそくさと教室から出て、山本くんの教室に行った。
ヨシダ君はまだ中島君と話している。
「俺野球部なんよ」
「ヒカルも体験来てみ、田舎の学校やけん人が少ない分馴染みやすいき」
「体動かしたいから行こうかなぁ」
「でも俺まだバスケ部諦めてへんで」
うーん、盛り上がってる。
荷物を整理している振りをして、ヨシダ君が1人になるまで待った。
すると急に肩を叩かれた。
森先生だ。
「ごめん、もう帰る?」
「まだ帰りませんけど…」
「ちょっと来て欲しいんやけどいいかな?」
「はい」
森先生は教室から出て行った。
このまま先生について行ったらヨシダ君が帰ってしまうんじゃなかろうか。行く前に伝えるべきだろうか。
…しかし、そもそも約束なんてしたのだろうか。
社交辞令で、あの場のノリで、実は一緒に帰る気なんてさらさらなくて…なんて考えていた。
後ろ髪が引かれる思いを抱えながら、私は教室から出ようとした。
「あの!!」
振り返ると、ヨシダ君が鞄の中に教科書やらを詰め切れないままに駆け寄ってきた。
「夏海ちゃん、待っとるで」
「あ、ありがとう!待ってて」
私は駆け足で先生について行く。
約束、覚えてたんだ。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
「朝渡す予定やったんやけどな」
「光と話しよってすっかり忘れとったわ」
先生は私に紙を渡した。
「これ一学期中間の成績」
「ありがとうございます」
「成績は全然いいよ、この調子でな」
「はい」
「夏海は家のこともあるのに大変やなぁ」
先日、私は家の用事で学校を休んでいた。成績はその日に配られる予定だったものだろう。
「…いえ、全然」
私は小走りで教室に戻った。
教室の電気が消えていた。
カーテンの隙間から光が漏れる。
吉田くんは1人、窓を開け外を眺めていた。
風が強く吹いて、カーテンが大きく揺れた。
吉田くんは振り返り、にっと笑う。
「結構長かったなぁ?怒られよったろ」
風とともに春が来た
…そんな予感がした。