ここから怜目線
早苗が、脳梗塞を患っている。その事実から、俺は、目を背けようとした。
だが、事実は変わらない。もうすぐ、早苗は、死んでしまう。その時が来たら、俺は……いや…今は、生きると信じよう…。早苗…早く、元気になって、また、いつもみたいに…
そして、日曜日。早苗が入院してから、4日。毎日、お見舞いに行った。でも、治る見込みがないらしい。今の医療技術では、無理だと…。
今日も、扉を開く。
「あ…怜…来てくれたんだ。」
「当たり前だろ。心配なんだから。」
「そう…だよね。」
「また、辛そうだな。」
「うん…私ね、思うんだ。これが、夢だったらいいのにって。」
「ああ…俺も、そう思った。でも…」
「うん。夢じゃ…ない。」
「あの日…夕焼けの日に、時間を戻せればいいのに。」
「無理なのに…どうして…考えちゃうんだろうね。」
「今を、受け止めたくないからだと思う。」
「今を…?」
「この、現実を、受け止めきれない。深刻すぎるから。早苗は、前にも、同じ気持ちになったことがあるはずだ。」
「前にも…あ…」
俺も、分かってる。これは、夢じゃないって。でも、考えてしまう。これが夢であったら良いのにって。
「ねぇ、怜。私…死にたくない。もっと、怜と、一緒にいたいよ…」
「ああ…でも…俺には…何もできない…。」
「そんなこと…分かってる。怜。だからさ…ここにいてよ…」
「分かった…」
「ありがと…怜…やっぱり君は、優しいね…」
違う…違う…俺は…俺は、優しいわけじゃない…
「ごめん…早苗…」
それから、5時間。俺は、早苗の側に居続けた。会話をしなくても。
そして、
「怜…ごめんね…私…もう、ダメ…みたい。」
「そんなこと…」
「ごめん…また…ね。大好き…」
そして、ピーという機械音が、部屋に鳴り響いた。俺は、泣いた。
最後の言葉が、深く、心に刺さった。
俺の中で、何かが、壊れる音がした。
この日から、何もかも、変わり果てた気がした
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次が、最終話になりそうです。