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夜明け前、相沢蒼は事務所に戻ると、濡れたコートを脱いで机の上に広げた。
その上には黒鴉劇場で拾った“仮面”と、“M-03”と刻まれた裏面の写真がある。
火傷の男。
あの仮面の向こうにいたのは、一体誰なのか。
そして、なぜ霧島翔の未発表脚本が劇場に存在したのか。
相沢は香坂真理――霧島翔の元婚約者で、現在は収監中の彼女――に会うことを決めた。
【刑務所面会室】
厚いガラス越しに、真理は以前と変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。
「あなたが来ると思っていたわ、相沢さん。」
「霧島翔の未発表脚本、《真実の仮面》を見たことがあるか?」
真理はわずかに目を伏せる。
「ええ……あれは、翔が死の直前まで書いていたもの。
“自分の罪を舞台にする”って言っていたわ。」
「罪?」
真理はゆっくりと首を振った。
「彼は、霧島家の事件の真相を全部知っていた。
でも、それを公にするためには“物語”の形でしか伝えられなかったの。」
相沢は思わず身を乗り出した。
「つまり、脚本の中に真実を隠した――暗号として?」
「そう。翔は自分の書いたセリフに、すべての答えを埋め込んでいた。
けれどその“鍵”を持っているのは、ただ一人……“M”よ。」
「M?」
「翔が信じていた協力者の頭文字。彼が死んだ夜も、翔は“Mに最後の手紙を渡す”と言って出ていったの。」
相沢の脳裏に、“M-03”という刻印がよぎる。
「……“M”が、火傷の男か。」
真理はゆっくりと目を閉じた。
「もしそうなら、彼は翔の遺志を継いでいる。
でも、翔が望んだのは“暴露”じゃない。“償い”だったのよ。」
面会を終えた相沢は、霧の朝の中で立ち尽くした。
“翔の罪”とは何だったのか。
そして、“M”とは一体誰なのか。
その夜、相沢の事務所の扉がノックされた。
現れたのは、包帯で右頬を覆った若い男。
その目は、まっすぐに相沢を射抜いていた。
「……俺が探しているのは、あなたですね。
相沢蒼さん。」
「君は?」
男はゆっくりと包帯を外した。
赤黒く焼けただれた頬が現れた。
「俺が“M”だ。
そして、霧島翔を殺したのは――俺です。」