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夜更けの事務所。
相沢蒼と“火傷の男”――名を村瀬真(むらせ まこと)という男――は、薄明かりの中で向き合っていた。
机の上には、霧島翔の未発表脚本《真実の仮面》が開かれている。
村瀬は震える指でページをめくった。
「……俺と翔は、もともと大学時代の同期でした。
舞台を一緒に作って、夢を語り合ってた。
でも、霧島家の“依頼”がすべてを壊したんです。」
相沢は静かに頷く。
「霧島家の依頼?」
「霧島家は、翔に“ある芝居”を書かせた。
それは、霧島家の不正を覆い隠す“虚構の記録”。
翔は金に困って、最初は受け入れた。
けれど――途中で、後悔したんです。真実を歪めた罪を。」
村瀬の声は、次第に怒りを帯びていった。
「翔は真実を暴くために、あの脚本を書き直した。
《真実の仮面》のセリフの一つ一つに、実際の事件の名前や、暗号を仕込んで。
でも……霧島家の人間に気づかれた。」
「そして、殺された――?」
村瀬はうなずいた。
「俺は、その夜、彼に会いに行った。
“これで全部終わりだ”って、笑っていた。
……でも、部屋の灯りが落ちた次の瞬間、銃声が響いた。
翔は、俺の目の前で撃たれたんです。」
沈黙が落ちる。
外では、また霧が流れ始めていた。
「俺は炎の中から翔の原稿を拾って逃げた。その時、顔を……」
村瀬は火傷の痕に触れた。
「……この傷は、彼を守れなかった罰です。」
相沢はしばらく黙っていた。
そして静かに問いかけた。
「なぜ、今になって姿を現した?」
村瀬は相沢をまっすぐに見た。
「翔が残した“最後の暗号”を解けるのは、あなただけだからです。」
相沢は原稿の最後のページに目を落とした。
そこには舞台のト書きとして、奇妙な一文が書かれていた。
『幕が下りるとき、仮面は三つ落ちる。
一つは嘘の仮面、一つは罪の仮面、そして最後は――真実の仮面。』
その下に、小さな文字で暗号のような記号が並んでいた。
【M03 - A07 - R12 - I00】
「……M、A、R、I……」
相沢の声が低く響いた。
「これは、“真理”――香坂真理の名前だ。」
村瀬の顔色が変わる。
「どういうことですか?真理さんは、翔を愛していたはず……!」
相沢は立ち上がり、机の上の資料をめくる。
「いや、これは告白ではない。
“香坂真理”という名前そのものが、コードネームなんだ。」
「コードネーム……?」
「霧島家の資金を動かしていた裏口座――“Project MARI”。
つまり、霧島家の罪の“中心”にいたのは、香坂真理ではなく――彼女の名前を利用した“別の誰か”だ。」
村瀬は言葉を失った。
相沢は静かに呟く。
「霧島翔を殺したのは、君じゃない。
本当の犯人は、“Project MARI”を動かしていた者――
霧島家の闇そのものだ。」
その瞬間、外からタイヤの軋む音。
窓の外を見ると、黒い車が通りを走り抜けていった。
そのフロントには――「M-04」と刻まれたナンバープレート。
相沢は帽子を取って息を吐いた。
「……続きがあるな。」