「おはよー…」
今日も、リビングへ向かう。
「ぁ、はよー。」
家族が挨拶をしてくれる。
「ごはん、できてるから、早く食べて学校行きなさい?」
いつも通りの朝食。いつも通りの会話。いつも通りの朝。
「はぁーい…」
ゆっくり、席に着く。そして、パンを口に含む。
いつもと同じ味。いつもと同じ材料。
”おいしい”なんて、言わない。
いつもと同じ味だから。いつもそんなこと言ってられないから。
「いってきまーす」
玄関にひとりでに声を出す。”いってらっしゃぁーい”
そんな声が返ってくる。遠くから。
「んん…」
風で揺れる髪。セットしてもセットしても、ずれてしまう。
手が冷たくて、息を吐く。暖かい空気が手を優しく包み込む。
「はぁ…」
カバンからハンドクリームを出そうとすると、
昔のテストが顔を見せた。”19点” 追試が行われたテスト。
親に見せろと言われてるけど…弱1年ずっとバッグにしまってある。
ばれないから。バッグなんて、いちいち確認しないから。
ハンドクリームを両手になじみこませる。ゆっくりと手が摩擦で温まって、しみこんでいく。
クリームをカバンに突っ込むと、リップクリームも出す。
マスクを下げ、口に塗っていく。
ほんのり色のつくクリームは、クラスで流行ってて、買ったもの。
リップをバッグにしまう。気づくと駅が目の前で、急いで財布を出す。
切符を買ってホームに入ると、人がじわりじわりと入ってきた。
”ガタン…ガタン…”
ゆっくり電車が顔を見せる。それを合図に、黄色い線へ向かう。
「ふぅ…」
朝の電車は、満員。でも今日は、何故か少なかった。
少し座席が空いていて、人混みは苦手だけど、いつもより空いていて、安心できた。
「おはよー…」
2時間弱をかけて、ようやく学校につく。いつも通り。
「ぁ、おはよーっ!」
いろいろなクラスの子が返してくれる。いつも通り。
通学時間は長いし、大変で苦痛でしかないけど、
クラスメイトはみんな優しいし面白いから、この高校でよかったと思ってる。
”プルルッ…”
「おいっ、授業中はスマホの電源切れよー。」
…ん?この音…って…
俺じゃんっ!!
「すみませ、ちょっと抜けます。」
「おいっ…!」
廊下をすぐに抜ける。
「もしもし、どちら様でしょうか。」
「○△病院です。_様の携帯でよろしいでしょうか。」
「…ぁはい。」
「お母様が今入院することになりまして、」
「…ぇ」
「よければ、今来ていただけますでしょうか。」
「…ぇ…」
「……はい。」
教授に話を通すと、すぐに病院へ向かった。
「ぁの…」
「ぁ、_様…」
「はい…」
「…__さんの息子さんでよろしいですね。」
「そうですけど…」
「こちらです。」
「…ぁ…母さん…」
「ごめんね…今は元気だから。」
「…よかったよ…っっ」
普段特に話さない。普段”おいしい”も言わない。
それでも俺の事大切にしてくれる。
「…元気でよかったよ…」
わかってるよ。倒れたんだ、お母さんは。
だから、元気なわけないよ。それも入院しているんだから。
「…ふふっ、明日には退院できるから、安心してね。」
”いつも通り”でも、挨拶して、話さないとね。
俺を産んでくれたんだから、一生血がつながってるんだから。
「ん~…!おいしい。」
いつものパンだけど、
「なによw、急に。」
「こーゆーの、大切だなって思ったから。」
「そっか。」
大切だよね。
「あのさっ…これ。」
「…ぇw」
「隠してたんだよ、ごめん。」
「あら、19点w」
「ごめん、ちょっと難しくて。」
「もうっ…w次は、がんばりなさい。」
笑顔のためにも。