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#ダンジョン
#ハッピーエンド
しめさば
降参を告げたレアはその場から一切動くことなく脱力感に苛まされていた。
――完敗だった。
誰がどう見てもエイネは本気ではなかった。青を纏うどころか紅も纏っていないエイネは、戦力値もレアの方が高かった筈である。
しかしそんなエイネ相手に魔法を跳ね返されて自身の魔力を奪われた挙句に、最後には魔力を全て枯渇させられた。
レアのやろうとしていたことを全て完封された上での負けである。エイネの強さはレアから見ても常軌を逸している。
これ程の強さを持つ者は、レパートでも類を見ないだろうし、リラリオではオーラなしの状態でもキーリよりも手強いだろう。
両者と戦ったレアは実際に立ちあった結果、そう考えるのだった。
(こちらの手段を全て封じられるなんて、そんなのどうやって戦えっていうのよぉ……)
負けそのものの悔しさよりもエイネに対抗する手立てが何も思い浮かばない事のほうがレアにとっては大きい。
呆然自失状態のレアの前に、バルドが姿を見せる。
「レアさん。今の状態で言うのも酷だが、戦力値が高ければいいと言うモノではないというのを理解したかね? 戦闘の工夫とは、攻撃の手立てのことを指しているわけではなく、相手の力量と戦い方を判断して普段の自分の戦い方を際限なく発揮できる。そのような環境を作り出すことが重要なのですよ」
「戦闘の手立てではなく自分の戦い方を際限なく発揮できる環境……?」
レアはようやくバルドの言葉に、素直に耳を傾けることが出来た。
「長老。今はレアさんを休ませましょうよ。このままでは魔力が枯渇した影響で、意識も朦朧とし始める筈です」
純粋な魔法使いではないレアだが、魔法を主戦型として戦うレアのスタイルをすでに理解しているエイネは、今のレアの精神的にかなり摩耗していると判断してそう告げる。
「そうじゃな。ひとまずワシの家に戻ろうか。レアさん、それでよいですかな?」
バルドはエイネの言葉を受け入れた。
「ま、待って! 一つだけ教えて頂戴。エイネ貴方『二色の併用』は使えるのかしら……?」
恐る恐るレアがそう尋ねると『エイネ』は静かに頷きを見せるのだった。
そのエイネの頷きにレアはがくりと脱力して、積み上げてきたモノが崩れていくような感覚に陥るのだった。
そうなった理由にエイネが『青』どころか『二色の併用』まで使えるというのに、今の戦闘でどれだけ自分に対して、彼女が手加減をしていたのかを理解したためである。
(な、何が一つの世界を支配したなのよぉ……! こ、こんな惨めな事、な、ないわよぉ)
レアは鼻の奥がツンとしたかと思うと、目に涙がたまっていく。見た目が子供のレアがへこまされて涙目になっている姿を見たエイネは、どうすればいいかと慌て始める。
これがバルドとレアの戦闘であればエイネは声をかけられるが、直接戦ったエイネがどんな言葉をかけようともレアは辛くなるだけである。
その事を理解している勝者のエイネは敗者のレアにかける言葉がなく、泣きそうになっているレアを困った顔で見る事だけしか出来なかった。
…………
長老の家に戻ってきたレア達。エイネがずっとレアの横にぴったりとくっついている。
「私にそこまで気を遣う事はないのよぉ……?」
エイネが何か声を掛けたそうにしている姿を見たレアは、苦笑いを浮かべながらそう告げる。その言葉を聞いたエイネは更に悲しそうな表情になり、何かを言いたそうに口をとがらせて長老を睨む。
「む……。そう怒るなエイネよ。あくまでフルーフ殿を追いかけようとする、今までのレアさんを止めるためには仕方がなかったことなのだ」
「それならば私にやらせずに、自分で戦えばよかったじゃないですか!」
エイネの言葉に知らんぷりするバルド。
「違うのよぉ、私が自分の力を過信していたのが悪いのよぉ。確かに今の私の力量では、何をするにしても半端だし、戦力値と魔力値ばかりに目がいっていて、戦闘その物の戦い方というのを失念していたわねぇ」
バルドは伝えたかった事をようやく、レアに理解してもらえたことを知り重々しく頷くのだった。
「レアさん。貴方はすでに『二色の併用』を会得している。つまり貴方に才能がない訳ではないのです。しかし今のままだと如何に強くなったところで、同じ強さを持つ存在と戦う時に不利になるでしょうし、実際にまだ貴方は『組織』の者達を追える程に強くは無い。今フルーフ殿を追いかければ、あなたは確実に闇に葬られるでしょう」
エイネと戦う前にも聞いた話だが、負けた今はすんなりと耳に入ってくる。
「待って。まだ組織とかソフィとかは考えたくないわぁ。私にはまだ、そんな余裕が……」
あらゆることが綯い交ぜになり、レアは疲れ果てていた。
「レアさん! 今はゆっくり休んで下さい! そして良ければですけど、明日からリーシャと一緒に私の特訓を受けてもらえませんか?」
エイネはそう言ってレアの両手を握る。
どうやらレアの泣き顔を見たことで、エイネはレアを強くしようという気持ちが芽生えて保護欲のようなものが働いたようだった。
「……」
もちろん強くなりたいという気持ちに偽りはなく、これからも研鑽を続けるつもりではあったレアだが、誰かに教わりながら研鑽を積むというのをあまりしたことがないために彼女は返事に困っていた。
「私は人と足並み揃えるのが、苦手なんだけどぉ。そ、それでもいいかしら?」
エイネが強いという事は疑いようのない事実だが、フルーフの教え以外に他者から教わった経験に乏しいレアは、何とか不安ながらにそれだけを口にする。
「ええ。構いませんよ! すでに『二色の併用』まで使えているのであればある程度の道筋はたてられているのでしょうから、まずは明日私にその力を見せて下さい!」
ニコリと笑うエイネにレアは頷く。
――リラリオの世界では『エリス』や『ラクス』に教える側の立場だったレアが、今度は『アレルバレル』の世界で教わる側になるとは思わなかった。
エイネに手加減をされて自尊心が傷ついていたレアだが、強くなる機会を手に入れたと前向きに考え始めることにするのだった。