青年が息を絶った後、俺は村の外へと走る。ふと空を見上げて見ると視界のすべてを黒が占領していた。周りは時刻通り明るいのに、それに似つかない夜空が広がっている。しかし、ただ一つ夜のような空を切り裂く太陽の光が、ひどく非現実で不可解な現象だと言うことを知らせていた。
その夜のふもと…半球状の闇の境界の端まで辿り着くと、俺はめめに連絡を入れる。かつてレイラーがしていたようにイヤリングに触れ、呼びかける。
しかしそれは応答しなかった。なぜだという疑問よりも、連絡が取れない状況で闇の檻に閉じ込められたという大量の恐怖が冷たく胸を浸す。
間接的に連絡が取れないなら直接話すしかない。俺は恐怖から逃げるように境界から離れ、村の中心へと戻った。
_めめ side_
深海のような黒い空の下に潜りながら、深呼吸して魔力を流し続ける。あれからどのくらい経ったのだろうか。時間感覚が無くなる中で声が聞こえた。
いえもん「めめさんッ!!」
声がした方向を見ると、走って息切れた彼がいた。なぜ村の外に逃げずに戻ってきているのだろうか。しかもわざわざこちらに来なくても、イヤリングで遠距離でも連絡はとれたはずである。
彼はそのまま息も切れ切れに話しかけてきた。
いえもん「青年は……死にまし……た…」
めめ「……は…………?」
掠れた声が漏れ出る。彼が殺したとでも言うのだろうか。でもそれだと、青年との約束はどうなってしまうのだろうか。
いえもん「あいつは…俺たちに…嘘をついて…いたんです…」
めめ「……そうですか。詳しい話は後で聞きましょう。今はそれより、なぜ戻って来たんですか?結界の外に逃げる方が楽でしょう」
青年が死んだ理由を察したとともに、時間と労力をかけて彼がここまで戻った訳を知りたくなった。
結界を抜けられなかったのか…。確かに私は村人に逃げられないように結界を張っていた。それは村人以外にも、彼などの人間は全員逃げられない魔の壁である。しかし、連絡を取ることで、彼がそれを抜けるときだけ魔法を弱くすることもできたはずだ。いや、でも、もしかしたら……
ぐるぐると可能性を考えていると彼がその答えを話す。
いえもん「イヤリングが使えませんでした。原因は分かりませんが」
そもそもで連絡が取れなかったのか。予想外だったが、いざ考えてみると思い当たる原因はいくつかあった。ただ、どれも不確かなのでここでは言わないことにした。
その代わりに別の話題を流した。
めめ「後でレイラーさんに聞いてみましょう。ところで、そろそろ魔法を出したいので、いえもんさんは、ブロックテントに入っててください」
実を言うと、流石にこれだけの魔力を出しっぱなしにするのは疲れてきたので、早めに終わらせたいのだ。まだまだ魔力には余裕があるが、無駄な消費は避けたい。
彼はハッとして私がぶら下げているブロックテントを取ると、それを地面に置いて踏みつけた。魔術具に吸収されるように、いや実際そうなのだが、彼の姿が消える。
これで私にとって大切な人は、地上から居なくなった。後に残った罪人たちは皆、私達には必要ない。
悪に、闇に染まる__
__The other side__
闇に満たされた世界の中、少女は立っていた。その紺色とも黒ともいえる暗い髪をなびかせながら、闇の世界を作っていた。目は彼女の髪色と同じように染まり、魔力が世界に供給される。彼女の目が塞がれると、同じように世界が閉ざされたように暗くなり、微かに残っていた太陽の光が消える。辺りが空と同じように、真っ黒に濃く影になっていく。
その深くなっていく黒さがこれ以上黒くならなくなったと同時に、周囲から悲鳴が聞こえた。
もがき苦しむ村人たちの声。多くの者は家に留まり、その入り口には椅子などでバリケードが作られていた。恐らく、彼女らから逃げることを諦めて防御に徹したのだろう。しかし、強大な魔法の前にそれは意味がなく、完全に裏目に出た行動だった。その行動は努力ではなく、無力であるとしか言いようがない。
外にいる人間はさらに酷い。闇の世界の境目までたどり着いたのはいいものの、濃密な魔力を通り抜けることが叶わず、同じように、苦しみに悶えていた。しかし中よりも強い闇を浴びてしまったせいで、言葉ではない何かを発することしかできない。
世界の天に近い方、つまり頭から黒に似た何かの色に染まっていく。その色は、濃い紫にも、紺にも見え、判別がつかない。
不可解な色が頭の先から下へと降りていく。最初は、体が闇に染まっていくだけだと思っていた。しかし、徐々に、本当にわずかわずかな遅い速度で頭が闇の粉に化け、崩れていく。
そのあまりにも遅い速度は、闇が罪人に拷問を与えるようにじっくりとしていた。もちろんその苦しみは、計り知れず、すでに失神寸前になるものもいた。しかし失神しても、闇がそれを許さず、痛みによって覚醒させるので、逃げ出すことはできない。
体が崩れていくという絶望と、闇より深い闇の痛みが下される。それを受けている奴がここにもいた。
2階建ての大きな家だ。村の長と予想できる人物は、『水龍様』と名を呼びながら息も絶え絶えに助けを求めている。……だがそれは叶わず、いや叶ったのかもしれない。息を引き取ると共に、その痛みから解放された。
恐らく地獄のほうがマシだと思う程の景色が広がっていたが、しばらくすると、周りから悲鳴を含む雑音が消えた。
そこにはかつての村人による活気はなく、闇に満たされた世界に少女が立っていた__
はい!ここまでです!今回は書いててすごい楽しかったです()めめさんがいかに普段、力をセーブしていたのかが分かると思います。ゴテゴテの暗黒魔術で、結構お気に入りかも。
今回新たに「The other side 」を追加しました。第三者視点という感じですね。物語に出てる人物以外からの視点みたいな感じです。
補足はまた次回d(((( 今回長かったから!!
また来てね!
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