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自由の国には門兵がいるらしく、観光証明書を記載しないといけなく、近場の港で僕たちは降ろされた。
「本当に長い間ありがとうございました!」
「おう! 気を付けるんだぞ! それと、ソイツのこと、よろしく頼んだぜ!」
炎の神 ゴーエンがソイツと指差すのは、勝手に船に乗り込んでいたゴーエンの二番弟子、セーカである。
長い金髪を翻し、性格は少し刺々しい。
ゴーエンに似てると言えば少し似てるような気もする……。
そんなセーカは、僕たちの新しい旅の仲間となった。
「じゃあ、セーカ。今後の戦闘の為にも、君の魔法を知っておきたい。説明をお願いできるかな?」
すると、セーカは自慢気に腕と脚の鎧を見せた。
グランさんの装備に似ている。
「ふふ、私は雷魔法の使い手! この両手両脚の防具から超高威力の雷を放出するの! あ、でも雷が暴発しちゃうから、近距離戦闘しか出来ないわ!」
グランさんの雷バージョンって感じだ。
でも、物理特化の岩魔法と比べて、雷は色々と汎用性が高そうだ。
それにしても、グランさんと言い、セーカと言い、拳での近距離戦闘か……。
流石はゴーエンの弟子……。
「それじゃあ、僕と一緒に前線に出て戦えると見ていいんだな? 戦力はゴーエンのお墨付きでもあるし」
「えぇ! ヤマトなんて活躍する隙もないんだから!」
この自信も、ゴーエン仕込みなんだろうな……。
しかし、共に前線で戦ってくれる味方が増えるのはとても頼もしいと内心では考えていた。
「ちょっと……ヤマト……後ろ……」
僕が色々と作戦を考えるのに夢中になっていると、全員顔面蒼白になり、セーカが指を指している。
僕も小言を言いながら、
「まったく、人に指を差す……」
振り返った先には、巨大なクラーケンがいた。
「なななな……! なんでこんな浅瀬にクラーケンなんて大型のモンスターが出るのよ!!」
「わ、分からんが出たモンは倒すしかないよ! 雷魔法は水に対して有効じゃないのか!?」
「ヤダー! イカなんて触りたくない!!」
「カナン! クラーケンつよ! こうげき!」
「ちょっと待て、カナン! 炎魔法は恐らく効かない……! 注意を煽るだけだ……!」
すると、ゴタゴタしている僕らの横を小さい影が横切る。
ボォン!!
大きな音を立て、一撃にして大型のクラーケンを鎮めてしまった。
僕らは唖然とその光景を眺めている。
「ん? あ、ごめん、敵奪っちゃった?」
何故なら、立っていたのはカナンと同い年くらいの小さな少年だったからだ。
「い、いや、倒してくれてありがとう……と言うか、あのクラーケンを一撃!? しかも、カナンと同じような感じで爆発してた気がするんだけど……」
少年は何かを放つと、それが爆発した。
カナンの遠距離攻撃に似ていたのだ。
「あー、これ。水鉄砲だよ」
「水鉄砲……? オモチャの……?」
「そう! オモチャの! 僕は遊ぶの大好きだからね!」
自由の国を前にして、謎多き少年と出会った。
すると、少年は突然、僕の腕を掴む。
「えっ! 何!?」
「君が、神々を回っている救世主だったか。僕だよ、水の神。水の加護、あげるね!」
ん? ん? んんん??
「自由の国へようこそ! 水の神 ラーチです!」
「え、あ、え、ヤマトです……。と言うか、神って国の外に出られないんじゃないんですか……? ゴーエンは「海も含めた全てが私の国だ!」とか言ってましたけど……ラーチさんは目の前に国があるし、確実に国の外に出ちゃってますよね……?」
すると、ラーチは笑いながら答えた。
「アハハ! 唯一神の決めたことでしょ! 今、唯一神は僕のこと見てないから、自由に出歩いて遊んでるんだ! それに、自由の国は神の存在を信じられていないからね!」
「神の存在が信じられていない……?」
「そう! 国を統治しているのは国王で、僕はただの子供と思われてるし、守護神ちゃんも楽しそうにアイドルのお仕事やってるよ! 博士の多い国でもあるから、神なんて言葉出したら笑われちゃうぞ!」
すっごく自由だ……。これが自由の正体……。
と思ったけど、それよりも僕は分かってしまった。
「水の加護貰ったから、自由の国行く意味なくない!?」
「えー、離島ですよ、ここ。せっかく送って貰ったんですし、アイドルも興味あるなー」
アゲルはただ観光がしたいだけだろ……。
「ヤマト、自由の国に行かないのなら、私はここで別れることにするわ」
すると、仲間になったばかりだと言うのに、セーカは一人でに歩き出してしまう。
「急になんだよ。そっちから旅に加わりたいって言ってきたのに……」
「この国なのよ……」
「え……?」
「この自由の国に私の殺したい兄がいるの!」
そう言うと、セーカは一人で行ってしまった。
「どうします?」
「はぁ……。行くしかないだろ……!」
「アハハ! 折角だから僕も行くよ! 一緒に自由の国を観光しよーう!」
僕たちは、セーカに追いついて観光証明書にサインをした。
「別に一人でも平気だったのに……」
「アゲルが観光したいって言うんだ」
「アンタたち、世界を救う旅なんでしょ!? 観光と世界救うの、どっちが大切なのよ!!」
「カナンの母親を探すんだよ」
そして、僕とセーカは黙り込んだ。
急な神の参上にテンパってしまったが、この旅はカナンの母親探しの旅でもある。
自由の国にいる可能性だってあるんだ。
自由の国は今までの観光地のような場所ではなく、孤島にある為、住居が建ち並んでいた。
真ん中には噴水公園があり、更に奥には大きな王城が聳え立っていた。
「あっ! ヤマトくん! さっき言ってた守護神ちゃん、ちょうどライブやってるよ!」
水の神 ラーチが指差した方向には、王城から少し手前にコンサート用屋外ステージが建っており、キラキラと眩しい光が輝いていた。
「でも音が聞こえない。魔法……?」
「そうだね。自由の国は基本的に居住区しかないから、音が漏れない魔法が使われてるんだよ!」
「凄いな……生活の中に魔法を溶け込ませるなんて……」
「この国はほとんど他の国と貿易をしない、研究者や博士の集う発明の国でもあるからね、戦うことよりも生活向上や色んな機械を発展させて、他の国に売り込んでるんだよ」
素直に感心してしまう。
確かに、今まではアゲルの案内で観光地のような国へと行っていたから、警備も万全な兵士や、楽園の国は祭りの中に喧嘩を入れていたし、ある意味、一番平和な国のようにも思えた。
そして何よりも大きい違いは、無宗教とはまた違うのだろうが、外からの情報を遮断してしまっている為か、神の存在を信じていない点だ。
この世界は七神の存在は絶対なのかと思っていた。
耳にしても、「あぁ、宗教信者さんね」くらいにしか思っていないそうだ。
「退け、貴様ら」
立ち往生していた僕らの背後から、警備兵と共に “如何にも” な服装の男が現れた。
「見たところ冒険者パーティ……ではないな。子供がこんなにいるはずがない……。まあ、その服装、他所の国から来たのであれば文化の違いで知らないだろうから、多少の無礼も許してやる。私の名は……」
そして、遮るようにラーチは答えた。
「あ! この人が自由の国の王様! キング様だよ!」
長々と偉そうな態度で自己紹介を遮られたキング様は、「このガキ……!」と苦い顔を浮かばせた。
「まあいいだろう。そう、その子供の言う通り、私はこの国で誰よりも偉いのだ。だから道を譲りたまえ」
言い方には棘があるが、ラーチも笑顔で道を譲り、僕たちもそれに続いて道を開けた。
すると、キング様はアイドルのコンサート会場へ行き、他の観客たちを退けて最前列まで辿り着いた。
熱狂的なファンなのかな……王なのに……。
まあ、王は関係ないか。
「僕らも見に行こう! 僕も久々に守護神ちゃんに会いたいしね!」
そう言うと、ラーチは駆けて行ってしまった。
ラーチのはしゃぎ具合にいつもの調子を奪われていたから気付けなかったことがある。
「アゲル……また龍族か……?」
そう、この国に入ってからアゲルの表情が変わらない。
口数もまるで減ってしまっていた。
すると、やれやれ……と微笑み、目を合わせた。
「そうですよ、ヤマト。この国のどこかから龍族の魔力を感じます。多分……王城内」
「そうか。教えてくれてありがとう。次からも一人で険しい顔しないで、さっさと教えてくれ!」
そう言って肩を叩くと、アゲルは拍子の抜けたような顔を見せ、焦るように言葉を足した。
「ヴォルフとの戦闘に勝ったからって調子にお乗りなんですかね、ヒーロー様は〜?」
そう嫌味口調で言うと、ニシシ、と頬を緩ませた。