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屋外ステージの周囲には、虹色の薄い膜が張られており、そこから中に入ると、突如大爆音生演奏のアイドルライブが行われ、観客の熱気溢れる歓声が響いた。
「うわっ、凄いな。こんなに大きい音だったんだ。演奏するアイドル、ガールズバンドみたいな?」
「そうだねー。演奏者はいないから、彼女たちはこの国で発明された楽器を練習して、バンド形式でアイドル活動を行ってる。とても素敵な音楽だよね!」
異世界ファンタジーと言えば、個人的に吟遊詩人とか、琴やウクレレのような音楽を想像していたが、地球のようなバンドサウンドの音楽が聴けるとは思わなかった。
「で、守護神ってどの子?」
「へへへ〜、当ててみてください! 異郷者の力で!」
大きなサウンドでの演奏の為、僕らは多少大きな声で会話をしていたが、それでも耳元で声を掛けてやっと相手に聞こえるような状態だった。
その為、ラーチは平然と異郷者と呼んだ。
「うーん……真ん中のピンク髪のボーカルの子?」
「残念! あの子はララちゃん! まあボーカルだし一番人気の女の子ではあるけどね!」
「じゃあ右側のギターの金髪の子!」
「残念! あの子はリリちゃんだねー。気が強くて一部のファンしかいないけど、ライブを盛り上げ上手なんだ!」
「じ、じゃあ、左側の青髪ベースの子だ!」
「ぶっぶー。その子はルルちゃん! 寡黙なクールさで逆にファンが多い二番目に人気の子!」
なんだこれ……難しすぎるな……。
守護神と言っても他の人と対して相貌は変わらないし、全員魔力を秘めてるから、魔力で当てろ!なんてことも僕には出来ない……。
最早当てずっぽうで答えていく。
「じゃあドラム叩いてる赤髪の子……」
「はい、残念! レレちゃんは元気なんだけどファンとの交流を一切しない、ただ音楽が好きな子なんだ!」
「え……」
最後に残っているのは、ギター担当リリちゃんの後ろで目立たず静かにキーボードを弾いている、淡い黄色の髪の、アイドルにしては地味目な女の子だった。
「最後まで外れたね! 逆にウケる! 守護神はキーボード担当のロロちゃん。物静かな子だよ!」
いや、物静かは分かるんだけど……。
なんだか、楽しそうに演奏している他の子たちに比べ、真剣な表情で淡々と演奏しているように見えた。
一番楽器経験が浅いのか、緊張しているのか、ただただ一生懸命なような感じだった。
ライブが終わると、汗だくな観客たちがゾロゾロと幕の外へと去って行った。
ラーチは問答無用で関係者控え室に入って行き、僕たちのことを招いた。
「あぁ! ラーチくんだぁ!」
そう言われ、ラーチは大歓迎されていた。
「お友達さんたちもこんにちはー!」
アイドルの子たちは、ライブ終わりだと言うのに、元気が有り余ってるように僕たちにも挨拶をした。
そして、またも現れるこの男、国王キング。
「なんだ? さっきの異国の民ではないか。控え室にいると言うことは、コイツらの友人なのか?」
「いや……」
なんて言い訳すればいいんだろうか……。
「まあいい! それよりも諸君、この国を盛り上げる演奏、まさしく見事であったぞ!」
分かった。
キング様はぶっちゃけ、異国の僕たちに興味ないんだ。
「ありがとうございます! 国王様!」
アイドルの全員は揃って答えていた。
それよりも、キング様はとても分かりやすい人だ。
先程から、守護神 ロロのことをチラチラと目で追ってしまっているのだ。
まるで中学生の恋みたいだな……。
「ロ、ロロ……。今回も良い演奏だったぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「貴様の魔法による外音制御に加え、音楽を聴かせる魔法もやってのける見事な魔力操作技術! 我が親衛隊に欲しいくらいだ!」
貴方様が親衛隊になりそうだけど……と言う気持ちは、胸の奥に仕舞った。
しかし、国王様の下心見え見えな露骨なまでの勧誘だが、耳に残った点がある。
そう、この子たち。
「えぇ!? 演奏してなかったんですか!?」
「そうなんです。一応練習はしてるんですけど、まだ人に聴かせられるレベルじゃなくて……」
歌は歌っているが、あの大爆音のバチバチな演奏は、全てロロによる雷魔法で、観客たちの脳に刺激を与えて『まるで演奏し、その音が耳に入ってるような』現象を巻き起こしているらしい。
しかし、誰の魔法かは伏せているが、そのことは公にしており、ファンたちも、元気や歌を目当てに足を運んでいるそうだ。
そして、演奏を聴かせながら、更に薄い膜を形成し、歌声や歓声も掻き消す魔法を同時使用してライブを開いているらしい。
「ロロちゃんのお陰で、私たちはライブ出来てるんです」
「ロロちゃん、 魔力量においては天才だよね!」
「あ、ありがとうございます……。へへ……」
そうか、神と言う概念がないから、守護神の力でそこまで成し遂げられてることは知らないのか……。
それよりも、ラーチに招かれて控え室に来たが、キング様も来たのは好都合だ。
王城にいる龍族に近付けるチャンスだからだ。
今度は向こうからじゃなく、こちらから出向いてやろうと思っていた。
「あの、国王様。不躾とは存じますが、宜しければ王城内に入らせて頂いても宜しいでしょうか?」
多少直球な物言いだが、最悪夜間にコッソリ侵入することも出来そうだし、いいだろう。
しかし、この後のキング様の返答で、この国の仕組みが分かった。
「ん? 貴様らは研究員なのか? 別に門兵に入りたい旨を説明して書類を書けば、一部の研究施設と図書館には普通に入れるぞ」
王城に入るの……ユルっ……!
いいのか……それで……。
まあ、戦闘を殆ど視野に入れていない国はそう言うものなのだろうか……。
こうして僕たち一向は、普通に何事もなく王城へと足を向かわせた。
「利用用途をお伝えください」
「え、えっと……文献を見たくて、図書館の利用をしたいんですけど……!」
「分かり……あ、すみません。あと一時間程なのですが、現在、博士長が貸切にしています……」
そして、門兵と話す僕の間にセーカは割って入る。
「博士長!? その人の名前は!?」
「博士長のドレイクさんです……」
門兵も困惑した表情を浮かべていた。
そして、その名を聞いた瞬間、セーカの顔は急激に強張って行った。
「その博士長ドレイクの妹です。兄とも久々に話したいから入りたいなぁ……」
声を震わせ気味にセーカは答えていた。
殺したい相手……実の兄貴……僕の脳内は嫌な予感で埋め尽くされていた。
「博士長のご親族の方なんですね! それならきっと許してくれますね! 王城内では、この名札だけ首からぶら下げていてください!」
そう言うと、門兵は人数分の名札を手渡した。
それからぎこちない空気が流れ、当のセーカも何も言わずにぐんぐんと突き進んでいた。
図書館は二階建てのめちゃくちゃ広い構造で、一階の真ん中には大きな机があり、書類を散乱とさせている前に一人の男が立っていた。
「まさか、あの人が……」
僕らの気配に、男もこちらを振り向く。
金色の短髪で、長身の三十代くらいに見える、いかにも冷徹そうな男性だった。
男も見るなり、セーカとアゲルの顔が強張る。
この魔力、僕でも分かる。
一切包み隠す気のない、龍族特有のイカれた魔力だ……!
しかし、と言うことは、同時に嫌な予感も的中することになる。
それは、セーカも龍族の血を引くと言うこと。
しかし、セーカは暫くの沈黙の後、脚元の雷をバチバチと光らせる。
「セーカ、お前まさか……!」
瞳孔が開いている。
まるで声が聞こえていない。
そして、セーカはバチバチの雷魔法を尖らせ、博士長らしき人物に襲い掛かった。
ガッ!!
「は!?」
「ハァ……一旦……やめよう……」
頭の整理が追い付かない状況で、体は勝手に動いた。
僕は、セーカの殺気を感じ取った瞬間、急いで、風神魔法 ウィンドストームにより男の前に高速移動。
そして、ダンさんから譲って貰った新たな装備品、軽装だが身軽に動ける両腕の盾に、炎神魔法ラグマ・ゴアを発動させ、セーカの雷を蒸発させて防いだ。
楽園の国で様々試した結果、炎神魔法ラグマ・ゴアは、現時点でどんな魔法も蒸発させることが可能だと言うことが分かった。
しかし、前線で身を守る為に貰った装備だったのに、仲間を止める為に使うとは思わなかった……。
「騒々しいぞ、セーカ。君たちがバタバタしているせいで書類が散らばってしまったじゃないか」
急な襲撃に一切の物怖じを見せず、男は渋々と、吹き飛んだ書類を拾い始めた。
僕たちに悠々と背を向ける。
余裕の現れなのか、無防備なだけなのか、割と能天気なのか……?
しかし、自由の国で博士長とも名高く、龍族の魔力が感じられる男だ。
そんなはずがなかった。
「異郷の旅人に、天使族、水の神まで揃えて来たか。本気で俺を殺りにでも来たのか?」
男は、平然と僕たちの正体を口にした。
そして、余裕そうに、コーヒーを口に注いだ。