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『人間失格』
それは実際の自身の姿だった。
「織田作……!」
「久しぶりだな。太宰。」
「中也も、」
「会いたくなかったはずなのにな。死んでみて分かったぜ。手前はやっぱり相棒だってな。」
「うん、そうだね。私も、少し寂しかったのだよ。」
「少しじゃねぇだろ。俺はものすごく会いたかったぜ。」
「中也、気持ち悪いほど素直だよ、」
「あ“ぁ?」
「いや、やっぱり何でもない。」
「太宰。中原。お前達に、もう一度チャンスをやる。」
「チャンス、ってどういうこと?」
「転生だ。条件があるがな。」
「転生……。」
以前の私なら決して望まなかったこと。
もう一度生きるチャンスを与えられること。
与えられたとしても、以前の自分なら即断っただろう。
しかし、不思議なことに今はこれをすんなり受け入れられるのだ。
自分らしさは何処かに消し飛んでいた。
嘘という概念が、死の世界には存在しないのか。
あるいは死ぬ直前に生きることに執着したのか。
もはや、私は思考の死角のような場所に踏み入れてしまったらしい。
「そういえばさ、ここは天国?地獄?」
「天国も地獄もねぇよ。ここはあの世だ。」
「ここら辺……いや、何処までも続く花畑は、そういうことなのだね。」
「あぁ。あの世には不思議なことが存在するものだ。」
花の一つ一つが、生きる人々の命の形だった。
色とりどりの花は、それぞれの人生を物語っている。
……いや、違う。確かにこの世界は不思議だけど、私にはわかるのだよ。
(この花々は君たちが植えたのだろう?)
それは、優しさだった。悪人の私には到底思い付かない、柔らかな優しさ。
このような人がいるから、世界は今日も成り立っている。
「転生は受け入れるよ。……ううん、今の私なら、自ら申し出ている。」
「手前もだいぶ変わったなァ。」
「そう?」
「……!…あぁ、それはもう、あり得ないほど別人だぜ。」
(死の世界で、手前が生きた顔をしているなんてな。)
「私の人生は碌なものではなかったからね、
みんなにも申し訳ないし、……何より、探偵社は私の居場所だ。」
「そうだな。俺もいつまで経ってもポートマフィアは俺の居場所だと思ってるぜ。」
「ふぅん、意外かも。」
「部下達を残して逝っちまったからな。」
「…そうそう、早く元の世界に帰らないと。」
私たちがいるべき場所はここではない。
もっとも、転生という選択肢がなければここで暮らしていたのだが。
「で、条件はもう揃っているの?」
「まだだ。ただ、それは転生する時に払う。」
「どんな条件なんだい?」
「まず、年齢を取られる。十数年は取られるだろうな。」
「別に関係ないね。むしろ若返った方が動きやすいから好都合だね。」
「そうだな。もう一つは、異能力の効果が薄まる。詳細はわからない。」
「そこはまだどうなるか分からないね。確率で能力が効くかだったらまだ便利だけどね。」
「汚辱は使えるかどうか、」
「使えなかったら私にとってはそれが本望だよ。」
「俺のことなのにな笑」
「だって面倒くさいじゃない!どれだけ手が掛かった?あの能力に!」
「便利っちゃ便利だけどな。代償があるのは気に食わねェ。」
「俺は……この先平和に生きていくからいいか。異能力のことなんて。」
「平和に生きてくれるなら嬉しいよ。」
「俺は死んで20年は経っている。もう今更ポートマフィアには戻らない。」
「そうだね、それがいい。こちらの世界は碌なことないもんね。」
「それが俺たちの性に合っているけどな。」
「あぁもう、さっさと転生しよう!ぐずぐずしていると何年経つか、」
「いくら何でもそんな経たねぇよ笑」
「時間軸は変わらないのだね…。」
「言われてみれば確かに変わらないな。」
「はいはい、もう行こう!敦くんたちを待たせているとそのうち死んでしまうよ!」
「何故そう思ったんだ?」
「私がいなくなって自殺したらどうしろと言うの??」
「そこは自己肯定感高いんだな……。」
「本気だよ。私が大事にしている仲間は、同じように仲間を大事にしているんだ。きっと相当悲しんでいるよ。」
「……その通りだな。今までの経験からか。」
「……勿論。」
「さぁ、元の世界へ帰ろう。」
転送される瞬間目の前の花々は微風に揺れ、喜んでいるようだった。
3つの花が花々の仲間になった。
中也と織田作自身が植えた花だった。
私は人間に戻った。
18歳のあの頃の姿に。