テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
時計の針がてっぺんを少し過ぎた頃、ようやく家へ辿り着いた。
シャワーを浴びて、髪も乾かさないままソファへ倒れ込む。
静かなこの部屋で、冷蔵庫の低い駆動音だけがやけに大きく聞こえる。
重たい瞼を閉じると、今日一日の出来事がゆっくりと頭の中を流れていった。
監督の言った、
「好きになったら、勝手に目が追う」
舜太が笑いながら言った、
「柔のこと、見すぎちゃう?俺、今日だけで5回見た」
あれは冗談だった。
いつものどうでもいい笑い話。
そう、思っていた。
でも、どうして。
何で見てしまう。
何で探してしまう。
何で隣へ座ってしまう。
何で触れたくなる。
何で笑ってるだけで安心する。
何で連絡を待ってしまう。
何で。
何で名前を呼ぶ声が、こんなにも耳から離れない。
浮かぶのは、全部、柔太朗だった。
恋なんて、もっとわかりやすく、派手に始まるものだと思っていた。
一目惚れとか、劇的な出会いとか。
手が触れたり、目が合った瞬間に、恋に落ちる音がするのだと思っていた。
なのに俺は、たった一人の男に名前を呼ばれるたび、笑いかけられるたびに、少しずつどこかが変わってしまっていたらしい。
静かな部屋で、小さく息を吐く。
名前を呼ばれる。
隣に座る。
姿を探す。
写真を見返す。
楽しそうにしていると、自分まで嬉しくなる。
触れた温度を覚えている。
…これを、何て言うんだ。
答えはとっくに目の前にあったのかもしれない。認めるのが、怖かっただけで。
スマホを手に取って、柔太朗とのトーク画面を開く。
一番下は、
「おやすみ、はやちゃん」
それからゆっくり指を滑らせる。
「お疲れ様」
「ありがと」
「ちゃんと寝てね」
「またね」
ありふれた、短い言葉ばかりだ。
何でもない会話。
それなのに文字を追うたび、その全部がひとつ残らず柔太朗の声になる。
耳の奥で何度も繰り返して、やわらかく笑う顔まで、一緒に浮かんでくる。
思わず笑ってしまう。
こんなことで、こんな言葉だけで。
こんなにも嬉しくなってしまうなんて。
…そうか、
スマホを静かに伏せて、目を閉じる。
胸の奥で、長い間名前を持たなかった感情が輪郭を結んでいく。
誰に聞かせるでもなく、そっと呟いた
「……好き、なのか」
返事をする人はいない。
静かな部屋に、自分の声だけが溶けていく。
それでも、その一言を口にした瞬間、今まで何度も聞いてきた彼が自分の名前を呼ぶ声が、優しく胸に響いた。
「はやちゃん」
その声に導かれるように、ようやく、自分の気持ちへ名前を付けることができた。
もう昨日までの自分には戻れない。
そのことだけは、不思議なくらい穏やかにわかった。
了
――――――
長々とお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
🩷さんが恋に落ちるまでを描きたいと思ってはじめたお話しでしたので、一旦こちらはお終いといたしますが、この2人をもう少しだけ描きたくて、蛇足となってしまうかもしれませんが後日談を書きますので、もしよろしければお付き合いいただけますと嬉しいです。
♡とフォロー、ありがとうございます。好き勝手に書き散らしているだけですが、とっても励みになります。嬉しいです。
このサイト自体はじめて利用するので、何か変なところがあったら教えてください。
個人的な備忘録として。
7/12に代々木ライブの好き/滅をなぜかみてしまい、リムレス🤍に見事打ち落とされました。その翌日にしゃ/べく/りを見て、涙する🩷さんの余りの美しさにこちらまで涙し、そこから寝る間を惜しんで動画を見漁り、粗方再生数の多いものを見終わった頃には、🩷🤍へ真っ逆さまに落ちていました。
滅を初めてフルで聞いてから17日間、🩷🤍沼の住人となってからは5日間、書き始めてから4日間で、16000文字以上を書き上げてしまいました。通常の生活を営みながらのこの所業、狂気しか感じません。生活にこんなに余白があったのかと驚きましたが、まあ普通にそんなものはないので睡眠時間削りました。書きたくて書きたくて、寝てなどいられませんでした。
🤍さんのほっっそい腰を見て食欲も減退し、少し痩せました。国宝ダイエット成功です。どうもありがとうございました。でも🩷🤍はどうか、たくさん食べてください…ただ健やかに、生きていてね……
ドドド新規ですが、ずっと某大手事務所のおたくをやってきました。書き手側に周るのは久しぶりです。危なさそうな雰囲気を感じたらすぐ対処する予定です。
対戦よろしくお願いします。
眠りひめ
292
7,174
1,134
コメント
6件
素晴らしかったです…!お話がアップされるスピードも速すぎて尊敬しちゃいました✨3080沼、深いですよね。私も今までこんなにどっぷり浸かることも、小説書きたくなることもなかったので、勝手に親近感を感じております。後日談も楽しみにしております!
完結、お疲れ様でした……! 「好き、なのか」って、静かな部屋で自分に言い聞かせるように気づく瞬間、すごく沁みました。派手な恋じゃなくて、名前を呼ばれるたび、笑顔を見るたびに積み重なっていく感情の描き方がめちゃくちゃ丁寧で、胸がぎゅっとなりました。後日談、楽しみにしてます!