テラーノベル
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あの嵐の夜から数ヶ月。工藤邸には、以前にはなかった「二人分の足音」と、賑やかな話し声が完全に定着していた。
新一と翔の兄弟としての生活は、驚くほど快適で、そして信じられないほど刺激的だった。
朝、どちらが先に洗面台を使うかで他愛のない口喧嘩をし、有希子が作り置きしていったレシピを見ながら二人で不器用そうに朝食を作る。学校へ向かう方向は違えど、
「じゃあな」
「行ってきます」
と声を掛け合う日常。それは、ずっと一人っ子として育ってきた新一にとっても、孤独な夜を過ごしてきた翔にとっても、何物にも代えがたい大切な時間となっていた。
もちろん、ひとたび事件が起きれば、二人の頭脳は恐ろしいほどのシンクロ率を発揮した。 書斎の大きな机に二人で並び、難解な暗号や未解決事件の資料を広げてあーでもないこーでもないと議論を交わす。新一が気づかなかった死角を翔がトリッキーな視点で補い、翔が暴走しかけた推理を新一が冷静な論理で引き戻す。
目暮警部たち警察陣も、今では「工藤兄弟」が現場に現れると、絶大な信頼を寄せて一目置くようになっていた。
そんなある日の夜。リビングで事件のファイルを閉じた新一が、ふと思い出したように、ソファでくつろぐ翔に声をかけた。
「なぁ、翔。お前さ……」
「ん? なに、新一兄ちゃん」
相変わらず、翔は少し甘えるような、それでいて遠慮がちな響きを含ませて「兄ちゃん」と呼ぶ。新一はマグカップをテーブルに置き、少し真面目な顔で弟を見つめた。
「いや、その『兄ちゃん』ってやつさ。もう外していいぞ」
「え? なんで? 嫌だった?」
翔が驚いてパチクリと目を丸くする。新一はフッと苦笑いして、翔の頭を軽く小突いた。
「違うよ。お前、怪盗CATのときや、推理で熱くなってるときは、普通に俺のことを呼び捨てにしてるだろ。……それにさ、俺たちは双子だ。生まれた時間は少し違っても、持ってる頭脳も、背負ってる工藤の血も、対等なはずだろ」
新一は真っ直ぐに翔の目を見据え、誇らしげに口元を上げた。
「お前はもう、俺の後ろをついてくるだけの『守られる弟』じゃない。俺と並び立って、一緒に真実を追いかける、対等な『相棒(バディ)』だ。だからさ……いい意味で、もっと俺と肩を並べてくれよ」
新一の言葉が、翔の胸の奥にじんわりと温かく染み渡っていく。「兄ちゃん」という呼び方は、どこかで自分が一歩引いて、兄に頼ろうとしていた甘えの裏返しだったのかもしれない。新一はそれを見抜き、自分を「一人の探偵」として、本当の意味で対等に認め、受け入れてくれたのだ。
翔はしばらく呆然としたあと、お面を外したときのような、最高に不敵で、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「……へえ。そこまで言うなら、お望み通りにしてあげるよ」
翔はソファから立ち上がり、新一の前に歩み寄ると、その瞳に強い、揺るぎない光を宿して言った。
「これからはよろしくね、――新一」
初めて、なんの遠慮も、なんの隠し事もなく、まっすぐに呼ばれた自分の名前。
「おう。よろしくな、翔」
新一もまた、同じだけの強い光を瞳に宿し、二人は拳をコツンと力強く突き合わせた。
光の探偵・工藤新一と、影から命を救う探偵・工藤翔。
呼び名が変わったその瞬間、二人の絆は「兄弟」を超えて、世界で一番切っても切れない最強の「相棒」へと進化を遂げた。夜空に輝く月と、昼を照らす太陽が一つに重なるように、二人の天才が創り出す未来は、どこまでも眩しく輝いていた。
コメント
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うわぁ…新一が翔に「兄ちゃん」呼びをやめさせて、対等な相棒として認める場面、めっちゃグッときた🥀 ずっと翔のほうが遠慮して一歩引いてたのが、新一の方から「俺と並び立て」って言って拳を突き合わせるところ、最高すぎるよ…。呼び名が変わるだけでこんなに心が動くんだね。 「光の探偵」と「影から命を救う探偵」、二人の絆が兄弟から相棒に進化した瞬間、ちゃんと受け取ったよ🌙
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椎名遥陽~はるひ~
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