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ⓥCRGTA2“風”の小説です。
nmmnですので拡散等はご遠慮ください。
キャラ崩壊や捏造が許せる方のみどうぞ。
読了後の苦情は受け付けません。
⚠️暗い⚠️
───────────────
肺まで凍てつきそうな夜。
俺は初めて殺人を犯した。
前々から声をかけていて、最近ようやく警察を退いたらっだぁと、ホットドッグ売りであり、記者であり、個人医でもあるぐちつぼを協力者として巻き込んで、銀行を襲う、いわゆる銀行強盗に及んだのである。
ハッキングや金を鞄に詰める作業はつつがなく終わり、逃げようとした人質はらっだぁが気絶させ、車へ押し込んで速やかにその場を後にした。
犯罪が成功した喜びを無線越しのぐちつぼとも共有していると、突然車が路地の前で停まった。
「らっだぁ?」
「ちょっと来て」
人質を二人で運ぶのかと思いきや、らっだぁは後部座席から引きずり出した人質を軽々と持ち上げ、建物の間を進んでいく。
何がしたいのか全く分からないぺいんとはその後ろを大人しく着いて歩く。
大分奥まった所まで来ると、らっだぁが気絶した人質を雑に地面へと放った。
「ぺいんと、こいつ殺そう」
「………っえ、」
事も無げに放たれた言葉を、ぺいんとの脳は理解することを拒んだ。
「生かしといたら多分面倒臭いことになるから」
「おれ、が…?」
「ぺいんとはお前以外居ないでしょ」
首を傾げてへらりと笑うらっだぁは普段と全く変わりなく、もはや驚きを通り越して恐怖すら覚えた。
懐に手を遣ると、鉄の硬い感触が確かな存在感を持って押し返してくる。あくまでこれは人質を脅し、レジから金を取り出す為の道具でしかない───少なくとも自分はそう思っていた。
「拳銃持ってんのはぺいんとだし、この先ギャングやるなら慣れとかなきゃじゃない?」
「……ぇ、ぁ」
だったらお前に渡すから、とか、タイミングくらい自分で決めさせてくれても、とか、言い訳がましい考えが混沌と脳内を巡ったけれど、何一つ意味のある言葉にはならなかった。
「ほら、早くしないと人質起きちゃうかもよ?」
「ぺいんとならできるって、ね?」
捲し立てるらっだぁに気圧され、ぺいんとは促されるままセーフティを下ろす。
鼻水を啜った鼻の奥がツンと痛む。
震える指先で強くグリップを握りしめた。
恐ろしく不安定な足場に立たされたような不安と、近づくサイレンの幻聴が焦りを加速させ、それに反比例するように思考は鈍化していく。
つう、とこめかみを汗が伝い落ちる。
トリガーに指をかけ、震える手で照準を定める。
「……ッは、はぁ、ぁ」
どうしようもなく手が震えて、視界は僅かに滲み出す。
ぱん。
らっだぁはただ、手を叩いただけだった。
極限まで張り詰めた神経がぷつんと弾け飛び、ぺいんとが正気に戻ったとき、目の前には人だったモノが転がっていた。
火薬と濃厚な死の香りが鼻腔を満たし、心臓は早鐘を打つ。ドッと冷や汗が吹き出て、瞬く間に呼吸が浅くなる。“それ”から流れ出た赤色は薄明かりの元でもはっきりと認識できた。
「あ」だか「う」だか分からない、意味の無い母音をわなわなと震える半開きの真っ青な唇から垂れ流す。
涙を浮かべ、肩で息をするぺいんとをらっだぁが背後からそっと抱きしめる。
「よくできました」
耳元で囁く声は胸焼けしそうなくらい甘ったるい。
今にも拳銃を取り落としそうに震える手に、らっだぁの白い指が絡みつく。わざわざグローブを外したらしいその手は温かく、そして優しかった。
「ら、らっだぁ…」
ようやくまともに発されたぺいんとの声は、縋り付くようで。
「なぁに?」
それにわざと被せ、緩い呂律で問うたらっだぁはぺいんとの肩を掴み、自らの方へと向き直させた。
殺人を教唆した張本人であるというのに、らっだぁは罪悪感など欠片もなく、手塩にかけて育てた蛹が羽化する光景を目にした子供のような歓喜に満ち溢れた瞳を柔らかく細め、妙に芝居がかった仕草でぺいんとをもう一度抱きしめた。
らっだぁの歪んだ瞳は夜闇と偏光グラスに覆い隠されて、ぺいんとが目の当たりにすることは終ぞなかったが、尋常ではない狂気を感じ取ったぺいんとの項がぞわりと粟立つ。気道が窄まるような感覚に陥り、はく、と喘ぐように息を吸った。
らっだぁは癖の少ない黒髪を何度も優しく撫でる。「偉い」「すごい」そんな言葉ばかりをかけ続けながら。
どれくらいそうしていたか定かではない。遠くから近づいてくるサイレンをいち早く聞きつけたらっだぁが身を離し、ぺいんとの手をやんわりと引く。
「逃げるよ」
「…ぅん」
そんな二人を物言わぬ骸となった虚ろな瞳がいつまでも見送っていた。