第6話 夢と現実
「…‼︎海だぁ…‼︎」
「そうだよ、海だよ…」
駅を出た瞬間に広がる海に、彼はキラキラと目を輝かせて嬉しそうに笑っている。
「外に出るのが初めてなので…僕、今とっても幸せです!」
「…よかったね」
「はい!」
その後もこの子は元気そうに電車に乗って、色々と会話をしながら最寄り駅まで連れて帰った。
偶然にも、一度も彼の発作は起きず、旅は幕を閉じた。
「お兄さんは僕が入院している大学病院の大学生だったんですね、びっくりしました‼︎」
「うん、僕はここの大学の関係者だよ〜」
関係者、という言葉に引っかかるけれど、そのままスルーしようと思う。
「お兄さん、また今度会いませんか?」
「…ん〜、いいよ‼︎」
嬉しくって、お互い笑いあう。
病院の玄関で別れ、病院の中に戻った。
「おんりー君、何処に行ってたんだ⁉︎」
いつものおじいちゃん先生がそう訊いてきた。
「…散歩です。迷惑かけて、すみません」
「今すぐ検査するから」
優しい先生が怒っている。そりゃ、そうだよな。
彼を見送って、僕は病院の裏側からスタッフステーションに入った。
「おんりー君、帰ってきましたよ。」
「2時間も何してたんだい?」
「彼の望みを叶えただけですよ、朝の検診の時の調子はすこぶる快調でしたし。」
「上手く捕まえられて行動を理解できただけマシですよ、彼が1人で行動すれば、それこそ何があるかわからないですよ?」
「…ったく…すぐバイタルチェックしろよ」
「はい‼︎」
名札を首から掛けて、おんりー君の病室に向かった。
「おんりー君‼︎何処行ってたの‼︎」
ドズル先生は、僕にそう訊いてきた。
「…今日、外に出られました。海を見ました。」
「僕にとって、一生の思い出です。」
バイタルチェックをされたけれど、僕はすこぶる快調だった。
「先生。僕、ここの大学のお兄さんに会ったんです。」
「あの人は、僕に色々な事を教えてくれました。 ドズル先生みたいな人でしたよ‼︎」
「…」
先生は、俯いて黙ってしまった。
「…先生?」
「ごめん、ちょっと考え事。よかったね。」
頭を撫でられて、僕は嬉しかった。
長らく放置していてすみません。(主より)
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