テラーノベル
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文化祭まで、あと十日。それなのに、 二年C組の準備はほとんど進んでいなかった。
放課後の教室。
床には段ボール。
未完成の装飾。
散乱したガムテープ。
なのに、 作業している生徒は数人しかいない。
「ねぇ、男子どこ行ったの?」
白石ひかりが周囲を見回す。
返ってきたのは、 だるそうな声だった。
「コンビニじゃね?」 「サボりでしょ」
女子グループは机に座ったまま、 スマホを見て笑っている。
白石は小さく息を吐いた。
「……少しだけでも手伝ってくれない?」
すると一人の女子が、 面倒そうに顔を上げた。
「白石さ」
「ちょっと張り切りすぎじゃない?」
教室が静かになる。
女子は続けた。
「文化祭なんて適当でよくない?」
「皆そんな本気じゃないし」
白石は言葉に詰まる。
確かにそうだった。
誰も、 この文化祭に本気じゃない。
でも。
「……私はちゃんとやりたいから」
そう返すと、 女子は小さく肩をすくめた。
「真面目だねぇ」
その言葉には、 少しだけ嘲笑が混ざっていた。
その日の帰り。
白石は廊下で、 男子グループの会話を偶然聞いてしまう。
「白石ってさ、なんか痛くね?」
「分かる。“青春したいです!”感きつい」
「神崎と同じくらい面倒」
笑い声。
白石は足を止める。
胸が少し苦しくなる。
自分は、 クラスのために頑張っているだけなのに。
でもその時、 廊下の奥から低い声がした。
「お前らの方がダセぇよ」
神崎だった。
男子たちが顔をしかめる。
「は?」
神崎は壁にもたれたまま続ける。
「何もしねぇくせに陰で文句だけ言うとか」
「一番ダサいだろ」
空気が凍る。
男子の一人が舌打ちした。
「お前に関係ねぇじゃん」
「あるよ」
神崎は笑わない。
「同じクラスだからな」
そのまま、 男子たちは気まずそうに去っていく。
廊下に沈黙が残る。
白石は小さく言った。
「……ありがとう」
神崎はポケットに手を入れたまま答える。
「別に」
「ただ、陰口しか言えねぇの嫌いなだけ」
白石は少しだけ笑う。
神崎はそんな彼女を見て、 不思議そうに目を細めた。
「お前さ」
「なんでまだ頑張れんの?」
「え?」
「もう気づいてんだろ」
「このクラス、変わんねぇって」
白石は黙る。
分かっていた。
皆、 本当は文化祭なんてどうでもいい。
仲良しなフリをして、 面倒を避けているだけ。
でも、 それを認めたくなかった。
「……変わるかもしれないじゃん」
神崎は少し笑った。
その笑いは、 どこか寂しそうだった。
翌日。
事件は突然起きた。
昼休み。
教室が妙に騒がしい。
「え、マジ?」 「最悪なんだけど」
白石が席へ戻ると、 女子たちがスマホを囲んでいた。
そこに映っていたのは、 クラスの裏アカウント。
そして投稿されていたのは、 陰キャ女子・水瀬結衣の写真だった。
『文化祭で幽霊役やれば?笑』
悪意ある加工。
コメント欄には、 笑うスタンプが並んでいた。
水瀬は席で俯いている。
誰も声をかけない。
白石はすぐに言った。
「これ消した方がいいよ」
しかし女子たちは目を逸らした。
「もう広まってるし……」 「てか誰がやったんだろ」
そんな空気。
その時。
ガンッ、と机を蹴る音。
神崎だった。
教室全体が静まる。
神崎はスマホ画面を見て、 低い声で言う。
「くだらねぇ」
誰も動かない。
神崎は女子グループを睨む。
「笑ってた奴らも同罪だろ」
空気が凍る。
一軍女子の朝比奈美優が、 不機嫌そうに言う。
「別に私たちがやったわけじゃないし」
神崎は即座に返す。
「止めてもねぇじゃん」
朝比奈の表情が固まる。
教室は静まり返っていた。
白石はその空気に耐えられなかった。
「……もうやめよう」
でも誰も、 本当に謝ろうとはしない。
水瀬は静かに席を立つと、 そのまま教室を出ていった。
扉が閉まる音だけが響く。
神崎は小さく舌打ちした。
「ほらな」
「誰も本音で動かねぇ」
その言葉は、 まるで教室全体に向けられているようだった。
白石は何も言えない。
教室の空気は、 少しずつ壊れ始めていた。
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