テラーノベル
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ここは三途の川の途中にあるレストラン。そして私はこのレストランのオーナー。ここは訪れるお客さんが最後の食事をしに来る場所。今日も一人のお客さんがやってきたみたい。
「失礼する。」
今日のお客さんは背の高いクールな女性。
「すき焼きを食べたいのだけど出きる?。」
私はかしこまりましたと頭を下げ調理場へ向かった。具材を切っているとお客さんがやって来て言った。
「言い忘れていた。すき焼きは二人分で頼む。」
誰かと食べるのだろうか。それ以上は考えず調理を続けた。すき焼きを煮込んでいる間お客さんの様子を調理場から除いてみたが一人で微動だにせず待っているだけだ。誰かが来る様子もない。
とりあえずすき焼きが出来たのでお客さんの席へ持っていくことにした。
お客さんはすき焼きを自分の分ともう一つを空いている席において言った。
「貴方と一緒に食べたい。一人で食べるより誰かと食べる方が美味しい。」
このレストランを経営して一年以上たつがこういうオーダーを受けたのは初めてだった。とはいえお客さんのオーダーだし私も食べることにした。
「美味しい。私もすき焼きには自信あるけどこんなに美味しいすき焼きが食べられるなんてな。」
うん。自分で思うのもあれだが中々上出来。
「満足げな顔をしているな。私も息子や仕事仲間にこんな風にすき焼きを振る舞ったっけ。みんな美味しいって言ってくれた。」
クールに見えたお客さんは意外にも話好きのようだった。お客さんはたくさんの思い出を聞かせてくれた。
息子の子育てが大変だった時仕事仲間が手伝いに来てくれた話や、仕事の話や、仕事仲間と五歳になった息子で笑い合った話や、他にもたくさんの話が聞けた。
「ごちそうさま。今日は楽しかった。」
お客さんは頭を下げると光のたまを残し消えていった。このたまに降れるとその人の末路を見ることが出来る。私は後片付けを住ませるとお客さんの置いていった光のたまに降れた。
頭の中に光景が写し出されていく。暗い空の下。どこかの戦場で二人の女性がいた。一人はさっきの女性。もう一人はおそらく仕事仲間の女性だろう。さっきの女性の方は足を怪我して動くことが出来ないようだ。
「足を負傷してしまったようだ。先に本部に戻って部隊長に状況を報告してくれ。」
辺りを見渡すと味方の遺体が横たわる無惨な景色が広がっている。
「ばか。このままあんたを死なせて私は息子さんに何と言えばいい?。」
「だめ。私を担いで本部に向かったら目立ちすぎる。大丈夫。この痛みが落ち着いたらすぐ追い付く。」
仲間はしばらく考えていたがやがて力こぶしを握りしめながら走っていった。仲間の姿が見えなくなると。
「はあ。ああでも言わないと動かないんだから。後のことは頼んだよ。」
しばらくすると遠くから三人の敵の偵察兵が歩いてくるのが見えた。偵察兵が負傷した女性を見つけると銃口を女性に向けた。
「嫌だ。怖い。死にたくない。」
女性はなんとか立ち上がるもまっすぐ歩くことは出来ず、やがて女性は一人の兵に捕まってしまった。
「やめて、死にたくない。やめてえええええ。」
叫びは兵に届かないまま銃声が戦場に鳴り響いた。
景色は戻りいつものレストランへ。これが私に与えられた仕事の全て。ここに訪れるお客さんに満足してもらいお客さんの最後を見届ける。お客さんの記憶への介入は運命を変えてしまうため介入は許されない。時々自分の無力さに押し潰されそうになるけど、それでも私はお客さんに満足して三途の川の先へ行ってほしいという想いでこの仕事を始めた。今までも。そしてこれからも。
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