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そして、静かに口を開いた。
「行くよ。東京で、ちゃんとがんばる。でも……ずっとここに帰ってくるつもりで行く」
「え?」
「夢を叶えることと、葵といること、どっちかしか選べないなんて、そんなの違う。
私は、未来の中に“ふたり”を選びたい。だから、待っててじゃなくて……一緒に作っていこうよ。時間がかかってもいいから」
風がやさしく吹いた。
葵の目に、少しずつ涙がにじんでいく。
「……そんなの、ずるいくらい嬉しいじゃん」
「ずるくていい。ずっと、私たちでいたい」
ふたりはそっと手を握り合った。
そこにあったのは、不安でも未練でもなく、希望という名の約束だった。
***
春の終わり。
紗季は東京へ、葵はこの街に。
少し離れた場所で、それぞれの夢を追いながら、ふたりは静かに未来を育てていく。
連絡をとる時間、会える日を数えるたびに、思う。
“私は、誰かと一緒に生きることを選んだんだ”と。
そしてまた、いつか――
ふたりが並んで暮らす「帰る場所」を持つ日が、きっと来る。