「えっと…あの、お母さんからで、」
「…こんな時間にめずらしいね」
「う…あぁ…っうぅん」
首筋と耳元に舌を這わせながら言うから、変な返事になってしまう…
ウエストに巻き付いた腕が徐々にほどかれて…吉良の大きな骨張った手が、私の胸をとらえた。
「柔らか…」
自分の手の硬さと比べてるみたいに楽しそうに言うから、少し良いことをしてる気になる。
「…あ、あの」
「…ん…?!」
あ、今はダメなやつだ…
足の間に座る私の腰に、吉良の昂ぶりが当たる。
し…静かにしていよう…
「やぁ…っんっ!」
って…無理だ…っ!
「体固いよ…今は俺に集中して」
低い声が耳元でささやく。
「こ、ここではちょっと…緊張します…」
バスルームは明るいし、お湯に浸かってるから火照るの早いし…
敬語になってしまうのは、緊張が最高潮のとき。
吉良もそれを知っているくせに、まだ知らんぷりしてる…
その間にも、いつもとは全然違う手つきであちこち触れられるから、ドキドキがもうムリムリムリ…!
「き、吉良!ベッドに連れてって!」
もうお母さんからの電話の内容なんて頭から吹き飛んで、この性欲大魔神を一旦鎮めなければならない…
急に正面を向いて抱きついた私は、正解だったのか間違いだったのか…
「…無理に決まってんじゃん」
って、バスタブを出たところで腰をつかまれた。
「…それで、お母さんなんだって?」
2人でおそろいのバスローブを羽織って、私を椅子に座らせた吉良は、ドライヤーで髪を乾かしてくれる。
「うん…あのね」
吉良があまりに激しいから、私の声もいつも以上に大きくなっちゃって…気づけば喉はガラガラ。
「また…居候を頼まれちゃって…」
「居候…」
一瞬髪を乾かす手を止める吉良。
やっぱり…嫌だよね。
やっと2人になれたのに…また誰かをこの家に入れるなんて。
「ちなみに…誰を?」
「私の、従兄弟なんだけどね。この春からうちの大学に通うことになって、寮に入るつもりだったんだけど…」
気を取り直したらしい吉良が、髪に温風を入れるのを再開してくれた。
そして寮と聞いて、急に乾かす手が早くなったような気がする…
「…寮!サイコーじゃん。知ってるか?うちの大学の学生寮って、都内の大学イチ、食事が旨いらしいぞ」
「そんなに…?!」
らしくもなく、なかなか饒舌な吉良。
「俺の研究室にも寮生いたけど、風呂も部屋も綺麗だし静かだし、住み心地いいってさ…」
「そ、そっか…。多分皆でそう言って、寮に入ることを勧めてると思うんだけど…本人がアパートで1人暮らししたいって言い出したみたいで」
「ちなみに従兄弟って…男の子?」
「うん、そうなの。聖也って言って、わがままなところはあるけど…なかなか可愛くて、私の弟みたいな感じなんだ」
…言ってから後悔した。
そんな言い方したら、吉良が嫌だって言えなくなっちゃう…。
「ごめんなさい…変な言い方しちゃった」
「ん?何が…?」
乾いたみたいでドライヤーを片付ける吉良。
不思議そうに鏡の中の私を見る。
そして乾かしたての髪がかかる首元に顔を近づけて、香りを吸い込んだ。
「…はぁ…いい匂い…モネの匂いは、俺だけの香りだ」
そう言われてちょっと嬉しくて、首をひねって後ろから抱きしめる吉良の目を見た。
そして目が合った途端、決心したように言われる。
「その…モネの従兄弟くん?うちでいいなら受け入れよっか?…香里奈のことではモネにずいぶん嫌な思いをさせちゃったしな」
「ホントに?…いいの?」
無理をさせてるんじゃないかと心配したけど、ここでしばらくあずかれるなら、母が依子おばさんに何か言われることもないだろう。
「ありがとう…吉良。恩にきます…!」
吉良に抱きついた私は、聖也を紹介するつもりで話した。
「弟みたいに思ってるって言ったけど、本当に甘えん坊でね、高校生にもなって、いつも私と寝たがって困ってるんだ!」
「…は?」
「ちっちゃい頃みたいにおんぶしてほしいみたいで、会うといつも背中にベタッと張り付いてきて…」
「…それ、高校生になってもされてたのか?」
「うん。本当に、今でも会えばきっと…抱っこだのおんぶだの言われると思う…!」
「………」
呆れられる前に言っておこうと思ったんだけど、早くも呆れ返ったのか、雲行きが怪しい様子の吉良。
「あ…でも、さすがに大学生になるんだから、甘えん坊は卒業するように言うつもりだよ?」
「あぁ…絶対にそうした方がいいな」
うんうん、と頷きながら目を合わせると、吉良は待っていたようにお姫様抱っこしてくれて、寝室のベッドに横たえてくれた。
「…なんか、聞いただけで妬ける…」
私としたことが…ボソっと言った吉良の言葉を聞き逃してしまった。
「…ん?なんて言ったの?」
「いや、何でもない」
後ろ向きで抱きついてきた吉良の手が、再び妖しく這い回ったのは、着替えそびれたバスローブのせいだと思ったんだけど…
「…モネ、俺のこと好き?」
なんて…
仰向けにされて、余裕のない表情で聞かれるということは、どうもそれだけじゃなかったみたい…
「大好き…吉良…1番好き…誰より好き」
私の上にいる吉良に、素直に伝えてみれば、すっかり熱い唇が私の下唇を食む。
好きだよ…モネ…
吐息まじりの声に余裕がないなんて…
まだまだ経験不足の私には、全然わからなかった。
コメント
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従兄弟くんがまたまた問題起こしそうな予感。 前途多難な二人ですねw