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桜の花が少しほこほび、春の香りが風に乗って漂う3月。中学の卒業式で泣き過ぎて赤く目元をはらした🌼は蛍と最後の帰り道を歩いていた。 🌼は蛍の第二ボタンだけがない胸元をチラチラと気にしていた。
蛍)何さっきからソワソワしてんの?
🌼)な、なんでもない。
蛍)ふーん…
急に繋がれた手と手の間に何か固いものが触れた。手の隙間から金色のボタンが光った。驚いた🌼が顔を上げると、イタズラな笑みを浮かべた蛍と目があった。
蛍)いるんでしょ?
🌼)もうっ!いじわる!
蛍)ハハハw、🌼以外にあげるわけないじゃん。
頬を膨らませて不貞腐れていた🌼だったが、蛍の言葉に一気笑顔が咲く。
🌼)蛍大好き!!
🌼は蛍に思いっきり抱きついた。蛍は🌼のおでこにキスをした。
蛍)知ってる。
二人で微笑み、名残惜しくてしばらく離れられなかった…
蛍はリビングのソファで🌼から投げられたボタンを見つめていた。そんな蛍の姿を、月島ママが夕食の準備をしながら見ていた。
月島ママ)🌼ちゃん、白鳥沢に決めたのは調理科があるからなんだよね。将来パティシエになりたいからだって言ってたけど、それだけじゃなくて、少食な誰かさんの体調管理ができるように料理の勉強をするためでもあったみたいよ。強豪校チームのバレー部のマネージャーを引き受けたのも、誰かさんのバレーのサポートができるようになりたかったから。本当は専門学科の子は実習や資格試験で大変だからあまり部活動に入らないけど、健気だよね。ま、内緒ねって言われてたから、母さんの独り言だけど〜
そういうと、蛍の前に一冊のノートを置いて出ていった。表紙には見慣れた🌼の癖のある字で『蛍’s必勝レシピ』と書かれていた。中を開くと、毎日の弁当から疲労回復用のメニューまで細かく書かれていた。見覚えのあるお弁当のおかずもあった。
蛍)でかい独り言だな…、本当なんなの…
蛍はため息を天井に向けて吐き出して、ボタンを握りしめた。
🌼は家に着くと自分の部屋にこもり、ベッドの上でうずくまった。いつもつけていたネックレスがない違和感を感じては涙が溢れた。
明光はいつものように🌼の家にいくと、リビングは真っ暗で、🌼の部屋の灯りだけが漏れていた。ドアをノックするも、返事はない。
明光)🌼、入るよ。どうした…
ベッドの上で、膝を抱えて泣いている🌼を見て、明光はそっと寄り添い抱きしめた。
明光)🌼、俺じゃダメかな?ずっと🌼が好きだったんだ。
🌼が蛍を好きな事を知ってたから言えなかった。でも、今のお前をほっとけないよ。ゆっくりでいいから、俺の事考えて。もう、後悔したくないから。
🌼)明兄…
明光)よし!腹減ったぁ〜。Christmasが近いし、chickenを買ってきたから一緒に食べよう!
🌼)ふふっ笑、どうしてそこだけ発音いいのw
明光)明日は忙しくなるから、たくさん食べて元気出すぞ!
🌼)うん。ありがとう、明兄。
玄関には荷物の入った段ボールとキャリーケースが積まれていた。
翌日、🌼の家の前から荷物を積んだ引越し業者のトラックがガシャンっと扉を閉めて出発する。玄関先で月島ママと🌼の声がした。
月島ママ)🌼ちゃん居なくなると寂しくなるわ〜。本当の娘になって欲しかったなぁ。🌼ママたちによろしくね〜
🌼)いろいろ相談に乗ってもらってありがとう。うちのママより頼りにしてます笑
明光)そろそろ行かないと、新幹線遅れるよ。
🌼は明光の車に促され乗り込み、駅に向かって行った。
蛍は慌てて玄関に向かうと、ちょうど月島ママが戻ってきた。
蛍)ねぇ!🌼どこ行ったの?さっきの何?
月島ママ)えっ?🌼ちゃんから聞いてないの?🌼ママたちのところに今日から行くのよ。今、お兄ちゃんが駅まで見送りに行ったのよ
蛍)は?聞いてねえよ!
蛍は自分の部屋に戻ると、携帯で短くメールを打ち、カバンを掴み自転車で飛び出した。
あの時、🌼がいてくれたから強くなれた。
🌼)恐竜好きなんでしょ?だったら堂々としてなさいよ! 好きなことは大事にしなよ。誰に何を言われようが 譲っちゃダメなんだよ。
蛍)🌼が1番大事だから!誰にも譲りたくない!🌼っ…!
駅に着いて、息が切れうまく息が出来なかった。それでも改札まで全力で走る蛍。改札前の電光掲示板を見上げたとき、東京行きの新幹線の出発のアナウンスが鳴り響き、新幹線が出発した。蛍は力なく壁にもたれかかり、座り込んだ。
蛍)くそっ…
蛍の声は駅の喧騒に消えた。
蛍は息を整えると、力なく駅を出た。駅からの帰り道は🌼との思い出が多すぎた。駅前のバス停、🌼の好きなケーキがあるカフェ、初めてのデートでお揃いのキーホルダーを買った雑貨屋、何を観るかで喧嘩した映画館。伏せ目がちにうつむき、ペダルをこぐ足を速めた。真っ直ぐ帰る気になれず、いつもの公園へ立ち寄る。いつものベンチに座り、ヘッドホンをつけて周りの雑音を遮断した。携帯を開くと、携帯の画面には大好きな🌼の笑顔。写真のフォルダーには🌼の写真や動画が気づかないうちに増えていた。🌼の存在がこんなにも大きくなっている事を思い知らされた。蛍の眼鏡が曇り、涙で見えなくなった。
駅の駐車場に着き、🌼は時間を確認しようと携帯を見ると、見覚えのあるアイコンが目に飛び込んできた。胸がドキッと脈打ち、不安で押し潰されそうになる。震える手でメールを開くと『いくな』と三文字だけが送られていた。🌼は携帯を抱きしめた。
明光)🌼…、どうしたの?
🌼)明兄…ごめんなさい。明兄の気持ちには応えられない。やっぱり、蛍が好き…
明光)…はぁ、本当にあいつでいいの?🌼から貰った絆創膏を使わずに血まみれで帰ってくるし、初めて🌼から貰ったバレンタインのチョコを一日一個ずつ食べてたら、親父が知らずに食べちゃって大泣きで大変だったんだから。あいつがバレー始めたのも、俺の試合を見てかっこいいって🌼が言ったからだし。あいつの部屋はもともと俺の部屋になるはずだったのに、窓から🌼の家が見えるから譲らなかったんだよ。こんなに重い奴だけど、いいの?
🌼)うん… 蛍じゃなきゃダメみたい。
明光)はは、本当バカップルだな。わかった…戻ろう。
明光と🌼は自宅に戻った。
月島ママ)どうしたの?忘れ物?
明光)蛍は?
月島ママ)会わなかったの?あなた達が出て行ってから、慌てて出て行ったのよ。
🌼)えっ?蛍…
🌼は駅に向かって走り出した。その後ろ姿を車にもたれかかって見送る明光の背中を、月島ママがバシッと叩く。
月島ママ)うちの息子達は本当、世話が焼けるのよね〜
明光)痛いなぁ〜、もう…結構本気で頑張ったんだけどなぁ。
駅に向かう途中、いつもの公園で🌼は足を止めた。あのベンチに座る蛍の後ろ姿が目に止まったからだ。🌼はゆっくりと近づき、深呼吸をする。
🌼)け、蛍…
ヘッドホンをした蛍は振り向かない。
🌼)蛍、いろいろ心配かけてごめんね。でも、私やっぱり蛍がいいの。蛍じゃなきゃダメなの。
🌼はうつむき、涙が溢れる顔を手で覆った。
蛍は背中から🌼の声がした気がして、携帯の音量を消し耳をすませた。聞きたくて仕方なかった🌼の言葉に胸が締め付けられた。その瞬間、蛍は立ち上がり🌼を抱きしめた。
蛍)🌼、辛い思いをさせてごめん。俺も🌼じゃないとダメなんだ。離れたくない。愛してるから…
🌼)蛍…私も。
蛍は🌼に見えないように涙を袖で拭い、涙で濡れた眼鏡を🌼に見せる。その合図を見て、🌼は背伸びをして蛍に口付けた。蛍は🌼を抱き上げて、それに応えるように更に深くキスをする。しばらく抱きしめて、お互いのおでこを合わせて笑った。冷たい風が熱った頬にあたり、心地よかった。
蛍)ねぇ、🌼。おばさん達のところに行かないで、こっちにいなよ。
🌼)え、それは無理だよ。チケット取り直して、明日には行くよ?
蛍)俺は離れたくないから嫌だ。🌼は俺とずっと離れててもいいの?
🌼)えっ?ずっと??明兄たちから聞いてないの?冬休みの間だけ、ママたちのところに行くんだよ。もともと、蛍の春高の試合に間に合うように帰る予定だよ。
蛍)えっ?だって、引越し業者が荷物運んでたじゃん。🌼も行かないの?
🌼)あれは、ママたちの荷物だよ。ママたちは出張じゃなくて、しばらく向こうに住む事になったの。新しい家が決まったから送ったの。
蛍はパズルがあったように、全てを理解した。
蛍)はぁ〜。本当、うちの家族はいい性格してるよ…
🌼)泣くほど悲しかったんだー
蛍)は?泣いてないし。
そこに、蛍の携帯からメールの着信音が鳴る。山口からのメールには写真が添付されていた。それはモブ子と△△がラブホから腕を組んで出てくる写真だった。どうやら、モブ子から彼氏を取られた子が目撃して腹いせに写真を拡散したらしい。それがきっかけでモブ子と△△は停学処分となった。△△はモブ子に頼まれて🌼に近寄ったようだ。
🌼)だから、△△先輩不自然に近づいてきたんだ。私なんかに構うからおかしいと思った。監督今頃怒ってるだろうなぁw
蛍)なぁ、本当に……(小声)
🌼)ん?何て言ったの?
蛍)だから!本当にあいつとは何もなかったのかって言ったの!
🌼)本当に何もないよ!いろいろ誘われたけど、スルーしたし。
蛍)だって、合宿でキスしてたじゃん。
🌼)えっ?!キ、キス?してないよ!…ん?そういえば、髪にゴミがついてるって言われて、異様に顔が近い気がして咄嗟に口を手で覆った事があったかな。あの時は牛島先輩が声かけてくれて助かったけど。
蛍)消毒。触らせんなよな。
蛍は🌼の頭をガシガシっと撫でて、立ち止まり🌼を見た。
蛍)あの時は勘違いしてカッとなって、乱暴なことして本当にごめんな。
🌼)本当にびっくりしたんだからね。
蛍)ごめんなさい。二度とあんなことはしないから。
🌼)蛍だから嫌じゃないよ。次は優しくしてね。
蛍は耳打ちされて、耳が赤くなる。
蛍)エロっwどこで覚えてくるの。いろいろ成長してたみたいで安心したけどね。今度は覚悟しといてね。
蛍は何か揉むような仕草をして、イタズラな笑顔を見せた。
🌼)エロめがね!変態!
蛍)🌼にだけだよ。
🌼は真っ赤になりうつむき、心の中で白旗をあげた。
蛍)ねえ。おばさんたちに春高終わって落ち着いたら、会いに行くって伝えといて。
🌼)うん、わかった。きっと喜ぶよ。
蛍)会って話したい事あるし。
🌼)何?
蛍)内緒。んー、強いて言うなら、🌼が数学で赤点取った事とかぁ、あとはぁ
🌼)やめてください。
繋いだ手に蛍が何かを握らせた。それは、あのボタンだった。
蛍)また、貰ってくれる?
🌼)ありがとう!蛍大好き!
蛍)いつか、左手に大事なものを贈るまで待っててね。
家までの帰り道を、手を繋いで二人の隙間が無くなるように寄り添って歩いた。
END