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「それでも、目の当たりにすると呆れてものも言えないな……」
そう吐き捨てるように言ったウィリアムの視線は、エダとダーレン、そしてその娘のダフネへと向けられている。
彼の眼差しにもまた、ランディリックと同じように容赦はなかった。
「王都での手続きはお前の指示通り全て終わってるよ、ランディ。ダーレン・アトキン・ウールウォードから剥奪した後見人の権利も、お前が正式にリリアンナ嬢の後見人になるって形で、新たな王命も下りてる。……もう、あいつらには一言の反論も許されない」
ランディリックは無言で頷き、腕の中のリリアンナの薄い背中をそっと撫でた。彼女の身体はまだ小刻みに震えているが、それでもランディリックの胸に縋るように身を寄せている。
「ありがとう、ウィル。……お前が、あの時すぐ動いてくれていなければ、今こうして彼女を助けることはできなかった」
「信じてたからな、お前が動くのを。……それに俺も、あんな姿のリリアンナ嬢を見ちまった以上、見過ごすわけにはいかなかったんだよ」
ランディリックはしばし黙し、腕の中のリリアンナの髪をそっと撫でながら、再びウィリアムに目を向けた。
「……それから、もう一つ、頼みたいことがある。リリアンナの両親がご存命だった頃、この屋敷には信頼できる古参の使用人たちがいたはずだ。叔父一家の横暴で皆、辞めさせられたと聞いている」
「ああ。あらかた調べはついてるよ。何人かは王都に身を寄せているらしい。俺の屋敷の連中にも声をかけて、接触を試みさせてる」
「ありがたい。出来れば彼らを再びウールウォード家へ迎え入れてやりたいんだ。……リリアンナが、心から安心して暮らせる場所を整えるためにも」
その言葉に、ウィリアムはふっと目を細め、肩をすくめて笑った。
「思ってた通りだ。お前がそう言い出すのは分かっていた。任せておけ。俺の名を使えば、連中も耳を傾けるさ」
ウィリアムの金色の瞳が、一瞬リリアンナに向けられる。その眼差しはまっすぐで、けれどどこか痛ましさを含んでいた。
その視線に気づいたのか、リリアンナがかすかに顔を上げる。だがすぐにまた目を伏せ、小さく震えながらランディリックの胸元に額を寄せた。
「で、お前は? これからどうするんだ?」
「……今日はお前のところで厄介になるが、明日にでも彼女とともに自領へ帰るつもりだ。もう、誰にも彼女を傷つけさせない場所で、この子が成人するまで守り育てるつもりだ」
そう呟いたランディリックの声には、いつになく強い決意が込められていた。
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